給与計算は社労士に依頼できる?税理士との違いと費用の相場
目次
給与計算は、担当者にかかる負担が大きい業務です。できれば外注したいと考えている方もいるでしょう。外注先の候補として社労士が挙げられます。社労士に依頼する主なメリットは、関連する法改正に対応しやすいことです。
ここでは、社労士と税理士の違い、給与計算を社労士に依頼するメリット・デメリットに加え、社労士へ依頼する流れ、依頼した場合にかかる費用の相場などを解説します。外注先をお探しの方は、参考にしてください。
社労士と税理士の違い
社労士と混同しやすい士業として税理士が挙げられます。いずれもビジネスに深くかかわる存在ですが、その業務は大きく異なります。
それぞれの主な業務は以下のとおりです。
資格 | 業務内容 | 独占業務 |
社労士 |
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税理士 |
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【参照元】
e-GOV法令検索「社会保険労務士法(昭和四十三年法律第八十九号)」
e-GOV法令検索「税理士法(昭和二十六年法律第二百三十七号)」
業務の具体例は以下のとおりです。
資格 | 業務の具体例 |
社労士 |
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税理士 |
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簡単に説明すると、社労士は労務・社会保険の専門家、あるいは人と会社の関係に詳しい専門家、税理士は税務の専門家、あるいは会社と税金の関係に詳しい専門家といえるでしょう。
給与計算を社労士に依頼することはできる?
人事労務部門における業務負担を軽減するため、給与計算業務を外部へ委託したいと考えている方もいるでしょう。現在のところ、給与計算を業として行う場合に、必要な資格は設けられていません。したがって、社労士はもちろん、税理士やその他の事業者に依頼することも可能です。
ただし、依頼先は慎重に検討する必要があります。単にお金を計算する業務ではないからです。給与計算では、労働保険や社会保険などに関する専門的な知識を求められます。当然ながら、法改正にも対応しなければなりません。
一例として、給与から天引きする社会保険料の料率変更があげられます。単にお金を計算するだけでは、大きなトラブルを招く恐れがあります。労務や社会保険を専門分野とする社労士は、給与計算業務の有力な依頼先です。
社労士に給与計算を依頼するメリット
ここからは、社労士に給与計算を依頼するメリットを詳しく解説します。
メリット①給与計算業務の負担を軽減できる
社労士に依頼すると、給与計算業務の担当者にかかる負担を大幅に軽減できます。心身に負荷がかかる業務の大部分を任せられるためです。一見単純に思える給与計算ですが、実はさまざまな要素から成り立っています。
【給与計算業務の内容】
- 勤怠データの集計
- 残業手当の計算
- 社会保険料の計算
- 所得税・住民税の計算
- 給与の支給と税金・社会保険料の納付
以上を見てわかるとおり、高度な専門知識を要します。当然ですが、ミスは許されません。定められた期間内に行わなければならない点もポイントです。給与計算は、心身に大きな負担がかかる業務といえるでしょう。
社労士へ依頼すれば、高度な専門知識を要する業務も問題なくこなせます。給与計算業務を安心して任せられる点は社労士の強みです。依頼により、生産性の高い業務に注力できたり、残業代を削減できたりするでしょう。
メリット②労務、社会保険に関する手続きを依頼できる
社労士は、労働および社会保険関連の法令に基づく手続きの代行を行うことができます。具体例として、入社にともなう社会保険・雇用保険資格取得手続き、退社にともなう社会保険・雇用保険資格喪失手続きが挙げられます。以上のものは、社労士の独占業務にあたるため、税理士などが行うことはできません。
また、社会保険の基礎算定届の作成、提出、労働保険の年度更新(保険料の申告と納付)なども依頼することが可能です。これらの業務は、年に1回しか行わないうえ、仕組みも複雑であるため、負担が大きくなりがちです。労務・社会保険に関連する面倒な業務を、まとめて依頼できる点も、社労士に給与計算を任せるメリットの一つといえるでしょう。この面からも担当者の業務負担を軽減できます。
メリット③法改正への対応を行える
法改正に迅速かつ確実に対応できることも、社労士に給与計算を依頼するメリットです。給与計算は、さまざまな法律と関係しています。関係する主な法律は以下のとおりです。
【給与計算とかかわる法律】
- 労働基準法
- 最低賃金法
- 労災保険法
- 雇用保険法
- 厚生年金法
- 健康保険法
これらの法律は、頻繁に改正されます。給与計算をはじめとする日常業務を行いながら、自社だけで法改正に対応すると担当者に大きな負担がかかってしまいます。また、確認ミスや誤解などでトラブルに発展することもあるでしょう。
社労士に依頼すれば、担当者に大きな負担をかけることなく法改正に対応できます。ケースによっては、非常に大きなメリットとなる可能性があります。
メリット④労務管理、社会保険などについて相談できる
労務管理や社会保険などについて相談できることも、社労士に給与計算を依頼するメリットです。参考までに、具体的な相談内容の一例を紹介します。
【相談内容の例】
- 就業規則の作成
- 法改正にあわせた勤怠システムの変更
- 自社に適した36協定の作成
労務・社会保険に関する専門的な知識を活用できる点は、大きな魅力といえるでしょう。事業の成長を支える基盤を構築する助けになります。ちなみに、就業規則の作成は、社労士の独占業務です(2号業務:労働・社会関連の法令に基づく帳簿書類の作成)。
社労士に給与計算を依頼するデメリット
社労士に給与計算を依頼する場合は、以下の点に注意が必要です。
デメリット①コストがかかる
社労士に限らず、給与計算を外部に依頼すると一定のコストが発生します。具体的な金額は、さまざまな要因で変動します。金額に影響を与える主なポイントは以下のとおりです。
【金額に影響を与えるポイント】
- 依頼する社労士
- 依頼する業務の内容
- 自社の従業員数
予算を超えると、継続して依頼しにくくなります。事前に見積もりを取り、詳細を確認しておくことが重要です。また、給与計算には、業務の負担を減らせる、コア業務に集中しやすくなる、法改正に速やかに対応できるなどのメリットがあります。
人件費を削減できることも少なくありません。金額に表れにくいメリットも考慮し、総合的にコストを評価することが求められます。
デメリット②自社内に知識が蓄積されない
社労士に給与計算を依頼すると、担当者にかかる負担を大幅に軽減できます。一方で、社内に蓄積するノウハウは減ってしまいます。原則として、これまでの担当者が別の業務に従事することになるためです。
社労士への依存度が高くなると、給与計算に対応できる従業員が社内からいなくなることも考えられます。給与計算業務はなくならないため、アウトソーシングの継続が不可避になるおそれがあります。リスクをコントロールしたい場合は、依頼する業務の範囲を調整するとよいでしょう。
並行して社内教育を行うことも有効です。これらの取り組みで、自社で給与計算に対応できる体制を維持できる可能性があります。
デメリット③情報漏洩のリスクがある
社労士に限ったことではありませんが、外部の事業者へ業務を委託すると情報漏洩のリスクが高まります。給与計算では、氏名、住所、マイナンバー、扶養家族の人数、賃金など、重要な個人情報を扱うため特に注意が必要です。
情報が漏えいすると、信用を失うだけでなく、トラブルに発展するおそれがあります。 社労士には、社会保険労務士法第21条と第27条2項で守秘義務が課されています。基本的に情報漏洩のリスクは低いと考えられますが、リスクがまったくないとはいえません。
基本の対策は、依頼先のセキュリティ体制を確かめることです。たとえば、SRPⅡ認証事務所(SRPⅡとは、社労士を対象とした個人情報保護の認証制度です)などは信頼性が高いといえるでしょう。
出典:e-GOV法令検索「社会保険労務士法(昭和四十三年法律第八十九号)」
デメリット④税理業務は依頼できない
給与計算に関わる全ての業務を依頼できない点にも注意が必要です。具体例として、以下の業務があげられます。
【依頼できない業務】
- 法定調書の作成・提出
- 源泉徴収票の作成・提出
つまり、年末調整業務を行うことはできません。税理士の独占業務にあたるためです。ただし、年末調整に関わっていても、給与の計算など、前段階の業務は行えます。法定調書の作成などを依頼しない場合は、大きなデメリットにならないといえるでしょう。
ちなみに、給与計算業務の中には、社労士の独占業務もあります。給与業務全般を外部に委託したい場合は、両士業を適切に使い分けることが求められます。
社労士に給与計算を依頼する際の費用相場
給与計算を社労士に依頼した際にかかる費用の相場は従業員の人数で異なります。基本的な計算方法は以下のとおりです。
【計算式】
費用=月額基本料金+単価×給与計算を依頼する従業員数
基本料金の相場は10,000~20,000円、単価は1人当たり1,000円前後と考えられます。以上をもとに、従業員数別の費用を算出すると以下のようになります。
従業員数 | 費用の目安 (月額) |
10人 | 20,000~30,000円 |
20人 | 30,000~40,000円 |
30人 | 40,000~50,000円 |
40人 | 50,000~60,000円 |
50人 | 60,000~70,000円 |
各種手続きの代行などを依頼すると、原則として追加で費用がかかります。
社労士に給与計算を依頼する際の流れ
給与計算業務を社労士に依頼する基本的な流れは以下のとおりです。
【依頼の流れ】
- 自社が依頼したい業務の範囲を明らかにする
- 複数の社労士事務所をリストアップする
- 依頼したい分野で実績が豊富な社労士事務所へ相談する
- 打ち合わせで見積もりに必要な情報を提供する
- 見積内容を確認する
- 業務の範囲、報酬、納期などに問題がなければ契約を締結する
- 契約内容に従い業務を開始する
- 要望を伝えて業務の品質を改善する
依頼先の選定時には、データの提出フォーマットや納品物の形式なども確認しておきましょう。
給与計算は誰に頼むべき?
前述のとおり、給与計算業務に必要な資格はありません。無資格の事業者に依頼することもできます。とはいえ、給与計算には労働法や社会保険法などが深く関わっています。したがって、専門家への依頼が適切です。
社労士は、これらの法律を専門分野にしています。労働および社会保険関連の法令に基づく書類の作成や提出の代行も行うことができます(独占業務)。給与計算に加え、入退社の手続きなどを依頼したい場合は、社労士が第一の選択肢と考えられます。
ただし、年末調整業務は、税理士の独占業務にあたるため行えません(前段階の業務は除く)。必要に応じて、税理士との連携を検討しましょう。
給与計算は社労士に依頼
ここでは、給与計算を社労士に依頼するメリット、デメリットなどを解説しました。主なメリットとして、担当者の負担を減らせる、労働・社会保険関連の手続きを依頼できるなどがあげられます。ただし、税理士の独占業務には対応できません。
給与計算の依頼先をお探しの方は、社会保険労務士法人エスネットワークスにご相談ください。グループ会社に税理士法人があるため、連携して幅広い業務に対応できます。納品形式やスケジュールを柔軟に調整できる点も魅力です。