年末調整アウトソーシングとは?依頼可能な業務内容と導入のメリット
目次
年末はどの企業でも経理担当者に大きな負担がかかり、特に年末調整業務に追われてしまうことがあります。人手不足の企業は税制改正への対応や煩雑な業務をこなせず、苦戦してしまうこともあるでしょう。 そこで注目されているのが、年末調整アウトソーシングです。
ここでは、年末調整アウトソーシングの利用を検討している方のために、依頼できる業務内容や導入するメリットなどについて詳しく解説します。 この記事を読むことで、押さえておきたい基本事項からサービス選びのポイントまで理解できるようになるので、ぜひご覧ください。
年末調整アウトソーシングサービスとは?
アウトソーシングとは、企業が行う業務の一部またはすべてを外部の専門業者に委託することをいいます。年末調整アウトソーシングサービスでは、企業が毎年行う年末調整業務を依頼することが可能です。
年末調整は給与所得者の所得税を年末に精算する業務であり、限られた時間の中で正確性とスピードが求められます。特に従業員数が多かったり、限られた担当者で進めている場合は対応しきれなくなったりして、人的ミスのリスクが高まってしまう点に注意が必要です。そのような状況に悩んでいる企業において、年末調整アウトソーシングサービスは非常に心強いものといえます。
年末調整で行う業務
年末調整は、所得税に関連する業務です。企業で働く従業員は、毎月受け取る給与から所得税および復興特別所得税を源泉徴収で天引きされる形で支払っています。
ですが、この金額はあくまで仮の金額です。実際に納めなければならない所得税および復興特別所得税の金額は、年間給与総額を計算しなければ確定しません。年末調整では、給与から源泉徴収された税額の年間合計額を確認し、実際に納めるべき税額との差額を精算する業務を行います。
年末調整アウトソーシングで依頼できる業務内容
年末は多くの企業にとって繁忙期であり、経理担当が年末調整のための時間を作れないことがあります。そのような場合は、年末調整アウトソーシングを活用しましょう。
以下のような業務を依頼できます。なお、源泉徴収票の作成や提出、年末調整関係の法定調書の提出については税理士業務であることから、アウトソーシングする場合は税理士しか対応できません。
事前準備
年末調整だからといって、実際に年末から着手すると間に合わない恐れがあります。そのため、早い段階から事前準備が必要です。
年末調整アウトソーシングでは、以下の事前準備から依頼できます。
運用設計・スケジュールの立案
運用設計やスケジュールの立案に関する相談が可能です。特に起業したばかりで初めての年末調整に取り組む会社の場合、具体的にどのような形で年末調整を進めていけばいいのかわからず、困ってしまうこともあるでしょう。
そのような場合もアウトソーシングすれば専門家としての目線で具体的な相談が可能です。
対象者の洗い出し
年末調整では、すべての従業員が対象となるわけではありません。12月の年末調整で対象となるのは、1年を通じて企業に勤務している従業員と、年の途中から就職し年末まで勤務している従業員です。 一方、以下に該当する従業員の場合は、年末ではなく年の途中で年末調整を行う必要があります。
【年の途中で年末調整を行うケース】
- 年の途中で海外勤務などの理由で非居住者となった
- 年の途中で死亡により退職した
- 著しい心身の障害のために退職し、本年中での再就職が見込めない
- 12月に給与の支払いを受けてから退職した
- パートタイマーとして働いていた人が退職し、本年中に支払いを受ける給与総額が所得税における基礎控除と給与所得控除の合計金額以下
上記に当てはまらない場合は、年の途中で退職している場合でも年末調整の対象となりません。自社で対象者の洗い出しが難しい場合は、アウトソーシングの活用を検討しましょう。
申請書・必要書類の準備
年末調整に必要な申請書と関連書類の準備も依頼できます。用意しなければならない書類の種類は多岐にわたることから、意外と手間がかかる工程です。年末調整の対象となる従業員に合わせて用意します。
各申告書の確認
対象者に事前に配布した各申告書類を回収し、問題がないか確認する業務も行います。中には期日までに提出をしない対象者がいることも考えられるため、その催促まで依頼することも可能です。
申告書類がそろってからでなければ対応できないため、重要な業務といえるでしょう。
各申告書の修正と発送
確認作業で不備が見つかった場合は、修正対応を行わなければなりません。該当の従業員に差し戻しの連絡を行い、訂正された申告書類を再提出してもらいます。
従業員の数が多いほどこの作業には手間と時間がかかることから、アウトソーシングの活用が有効です。代行する形で従業員とのやりとりを行い、進捗管理も一括対応が可能です。これにより、社内担当者の負担を大幅に軽減できます。修正が完了した書類は必要に応じて従業員や税務署などへ発送します。
発送業務には仕分けや封入、宛名管理などの細かい作業が含まれるため、これらをすべて自社で対応するのは大変です。アウトソーシング会社によっては発送作業まで含めて一貫対応するプランを用意しています。
年末調整のデータ入力・作成
申告書の確認・修正が終わったら、データの入力・作成と進んでいきます。回収された申告書の内容をもとに、システム上入力をする作業です。
この際、正確に入力しなければその後の税額計算や源泉徴収票の内容に影響してしまうことになります。特に人数が足りていない中で年末調整業務を行うとなるとミスが発生しやすくなってしまうため、アウトソーシングで任せましょう。
入力業務を専門のスタッフが担当し、二重チェック体制などにより正確性を担保した上で処理を進めてもらえます。また、年末調整完了後に必要となる給与支払報告書・源泉徴収票の作成まで対応しているサービスもあります。
ファイリング
実務上非常に重要といえるのが、ファイリング作業です。年末調整が完了したら、申告書や控除証明書、源泉徴収票の控えやデータの出力結果など、さまざまな書類やファイルを適切に保管しなければなりません。
法律で保管しなければならない期間が定められているので、法令遵守の観点からも不可欠です。また、税務調査時や従業員からの問い合わせがあった際にも、すぐに対応できるように管理しておく必要があります。特に紙ベースである場合は書類が膨大な量になるため、自社で対応するとなるとかなりの時間がかかるでしょう。
だからといって適当にまとめてしまうと、後から必要な書類を探すのに時間がかかるだけではなく、ミスや紛失のリスクも高まります。 アウトソーシング会社では、ファイリングの代行まで対応しているケースが多く、わかりやすく正確に書類を整理してもらえるのが特徴です。電子データの保存にも対応しているサービスを選べば、検索性や保管コストの面でもメリットがあるでしょう。
問い合わせ対応
年末調整の期間中は、従業員から以下のような問い合わせが急増します。
【よくある問い合わせ】
- 控除を受けるために必要な書類の種類
- 書類の書き方がわからない
- 自分が提出しなければならない書類が不明
- 自分が控除の対象になるのか知りたい
- 提出期限に間に合わなかった
特に何百人も従業員がいる会社の場合、こういった問い合わせに対応するだけでも多くの時間と人的リソースが必要です。対応が遅れることで従業員からの不満が高まったり、ミスを誘発する要因となってしまったりすることも考えられます。
さらに、年末調整関係の質問に回答するためには専門的な知識が必要なケースも多く、社内対応が難しいこともあるでしょう。アウトソーシング会社の中には、コールセンターやチャット対応などを通じて、従業員や担当者とのやりとりの代行を行っているサービスもあります。
手がかかる問い合わせ対応をアウトソーシングすることで経理担当者は本来の管理業務に集中できるようになるでしょう。 また、専門的な質問にも的確に答えてもらえるようになるので、従業員にとっての安心にもつながります。
データ加工
年末調整を行ったデータを給与計算システムや人事労務システム用に加工するサービスを提供しているところもあります。どのような形式で対応しているかはサービスによって大きく異なるので、事前に確認しておきましょう。
年末調整アウトソーシングを活用するメリット
年末調整アウトソーシングを活用することにより、どのようなメリットが期待できるのでしょうか。 ここでは、特に大きなメリットとして挙げられるポイントを5つ紹介します。
コストの削減ができる
年末調整アウトソーシングを活用する大きなメリットの一つが、トータルコストの削減です。業務を委託する以上、費用がかかるため、コスト面でサービスの利用を悩んでいる方もいるでしょう。
しかし、年末調整を社内で行う場合、そのための人件費や残業代がかかります。さらに、十分な知識がない担当者に任せるわけにはいかないので、教育コストも発生することになるでしょう。 入力ミスがあれば修正作業のための費用もかかりますし、実際には多くのコストがかかっている状況です。
慣れない担当者が作業すると時間がかかりますが、専門家にアウトソーシングすることで効率的に作業でき、知識不足によるミスも防げます。もちろん、教育コストもかかりません。 このように、コストを抑えつつ安定した品質で年末調整を行えることは大きなメリットです。
従業員の業務負担・工数を軽減できる
年末調整関係の業務は作業量が多く、担当者の負担が大きくなってしまいます。対応しなければならない業務は多岐にわたりますが、専門性が高いこともあり担当部署以外にサポートを頼むことはなかなかできません。
繁忙期である年末はただでさえ忙しいので、できる限り従業員の負担を抑えるためにもアウトソーシングを活用するとよいでしょう。無理に社内だけで対応しようと考えると、通常業務との両立が困難になることも考えられます。
アウトソーシングで外部に任せられる部分は任せ、社内では最終確認やコア業務に集中しましょう。従業員が本来の業務に専念できるようになると職場全体の生産性も向上します。これは、ストレスや残業時間の軽減、さらには離職リスクの低減にもつながる重要なポイントです。
法令改正に対応できる
年末調整業務は、税制や社会保険制度について正しく理解した上で取り組んでいかなければなりません。常に最新情報に対応する必要があり、専門的な知識がないと対応が難しい業務です。
知識をアップデートせずに対応すると、従業員の税額に誤差が生じたり、場合によっては法令違反につながったりする恐れもあります。アウトソーシングサービスでは、常に最新の法令改正に関する情報を収集しており、改正があった場合はそれに沿った形で作業しています。
社内に専門知識を持つ人材が不足していて対応できないと感じている場合でも問題ありません。 的確な処理ができるようになるため、法令遵守にもつながります。
申告漏れやミスを防止できる
年末調整業務をアウトソーシングすることで、申告漏れやミスを防止できるようになるのもメリットです。特に従業員数が多い会社では年末調整業務の担当者の負担が増え、集中力が低下しやすくなります。
その結果、チェック漏れやミスが起こりやすくなり、大きなトラブルに発展してしまう可能性も考えておきましょう。アウトソーシングサービスを活用することで、専門家による対応やダブルチェック体制により、ミスの発生を大幅に抑えることが可能です。社内では見落としがちなミスも、専門家が対応することで防ぐことができます。
業務のDX化を推進できる
年末調整アウトソーシングを導入することで、企業のDX化を促進できるのもメリットといえるでしょう。DXとは「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)」の略語であり、デジタル技術を用いて従来の業務方法をよりよく変えていく取り組みのことをいいます。
たとえば、紙による申請や手入力による処理から、クラウド型システムやWebフォームを活用した電子対応に移行することで、作業効率とデータ精度の向上が期待できるでしょう。 多くのアウトソーシング会社では、デジタル技術を取り入れたサービスを展開しており、業務のDX化推進にも役立ちます。
アウトソーシング自体がDXの一環でもあるので、業務全体の品質とスピードを高めるためにも活用していきましょう。
年末調整アウトソーシングのサービス・会社選びのポイント
複数の会社が年末調整アウトソーシングサービスを提供しているため、どの業者に依頼するかが重要です。 委託先の対応や専門性が合っていなければ、混乱やミスを招いてしまうこともあります。
ここでは、アウトソーシング会社を選定する際に押さえておきたいチェックポイントを紹介します。
税理士資格を保有しているか
年末調整は税務処理を含む業務であることから、アウトソーシング会社が税理士資格を保有しているかは重要なポイントです。税理士資格がなければ対応できない業務もあります。
社会保険労務士の事務所や社労士法人に対して依頼する場合も、税理士しかできない業務は委託できません。しかし、年末調整業務の中には、社会保険のプロである社労士でも対応可能な業務が多くあります。労務に関するアドバイスを受けたいと考えている場合は、社労士法人への依頼も検討するとよいでしょう。その際は税理士と連携しているかどうかを先に確認しておくことが重要です。
対応できる業務領域・範囲
まずは自社で任せたいと考えている業務領域・範囲を明確にしておき、それに対応しているサービスを選ぶことが重要です。
年末調整には実にさまざまな作業が含まれることになりますが、すべての工程に対応している会社もあれば、そのうちの一部のみ請け負っている会社もあります。業務領域が自社の希望と合っていない場合は二度手間や混乱が生じることになるので、注意しておきましょう。
また、Webでの申告のみ対応している会社もあれば、紙ベースでの書類管理まで対応している会社もあります。 依頼しようと思っていた業務に対応していないことがあとからわかったとなると大変なので、問い合わせの段階で依頼予定の作業や範囲を明確に伝え、対応できるか確認しておくことが重要です。
対応できる申告システムの種類
対応可能な申告システムについてもアウトソーシング会社選定において非常に重要なポイントです。各社で給与・人事システムには独自のフォーマットや仕様がありますが、アウトソーシング会社側で対応可能な申告システムが限定されている場合はスムーズなデータ受け渡しができません。
場合によっては、わざわざ別のフォーマットに変換する作業が必要になります。かえって手間が増えてしまう可能性もあるので、事前の十分な確認が必要です。
自社の業務フローを変えずに対応してくれるか
自社の業務フローを業者側に合わせなければならない場合は要注意です。かえって現場が混乱し、対応に時間がかかってしまう恐れがあります。
自社の業務フローをできる限り変更することなく対応してくれる業者を選びましょう。
情報セキュリティが整備されているか
年末調整でアウトソーシング会社に渡すデータには、従業員の重要な個人情報が含まれています。マイナンバーや所得関係の情報、家族構成といった個人情報取り扱うこともあり、セキュリティ体制が整っていることは極めて大切です。
そのため、セキュリティ対策に力を入れているサービスを選ばなければなりません。実施している具体的なセキュリティ対策の確認は忘れないようにしましょう。
年末調整アウトソーシングを利用する際の注意点
年末調整アウトソーシングを利用する上で、いくつか注意しておきたいポイントがあります。
特に以下の3つを確認しておきましょう。
年末調整に間に合うようにアウトソーシング先を選ぶ必要がある
大前提として、年末調整に間に合うようにアウトソーシング先を選ばなければなりません。柔軟な納期対応が可能なサービスを選択しましょう。
11月から12月は繁忙期となり、依頼数の多い会社をこの時期に選ぼうとすると断られてしまう可能性があります。早い段階で依頼先の選定と打ち合わせまで完了させておきましょう。
アウトソーシング先とコミュニケーションを細かくとる
アウトソーシング会社と契約したら、単に業務を丸投げするのではなく、密なコミュニケーションを取ることが求められます。情報の行き違いや確認不足がミスや遅れにつながらないように注意しましょう。
業者によってコミュニケーションに関する対応力に違いがあるので、事前に行う問い合わせや相談の段階で見極めておくことも重要です。
マネジメントを怠らない
アウトソーシングを活用しても、年末調整に関するすべての業務を任せてよいわけではありません。依頼する企業側は全体の進行状況の管理や判断などのマネジメントとしての役割が求められます。
これは、ミスや誤りを防ぐためにも重要なポイントです。最終的な確認作業についても自社で対応しましょう。
業務効率化のためにも年末調整アウトソーシングを活用しよう
いかがだったでしょうか。年末調整アウトソーシングについてご紹介しました。これは単なる外部委託ではなく、業務の効率化や正確性の向上、従業員の負担軽減につながる有効な手段です。 自社に合ったアウトソーシングの導入をぜひご検討ください。
社会保険労務士法人エスネットワークスでは、年末調整補助アウトソーシングに対応しています。厳重なチェック体制や個別問い合わせ対応、徹底したプライバシー保護などの体制を整えており、担当者様の負担軽減に役立ちます。
納期や納品形式についても柔軟に対応可能です。社会保険労務士では対応できない業務については税理士法人と連携して対応していますので、ぜひご相談ください。
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