社会保険手続きを業務委託するメリットと注意しておきたいポイント
目次
社会保険の手続きは、社員の入退社のたびに行わなければなりません。特に従業員数が100名を超える企業では、対応件数が多くなり、限られた人員で膨大な事務作業を処理しなければなりません。 対応を大きな負担に感じている場合は、社会保険手続きの業務委託を検討してみてはいかがでしょうか。
外部への委託を検討している方向けに、メリットや注意点をわかりやすく解説します。この記事を読むことで業務負担を軽減するためのポイントが明確になる内容となっています。ぜひご一読ください。
社会保険手続きの業務委託とは?
外部の専門家や専門機関に社会保険関連の業務を依頼するのが、社会保険手続きの業務委託です。 社会保険とは、健康保険と厚生年金保険の2種類を指します。法人であれば従業員の人数に関係なく社会保険への加入は必須となっています。
健康保険は、事業主と従業員が加入対象となり、医療費や傷病手当金、出産手当金、出産育児一時金、埋葬料などの給付と関係しています。
厚生年金保険は、老齢厚生年金・障害厚生年金・遺族厚生年金などが該当し、被保険者が高齢になった際、国民年金に上乗せして受け取れます。
これらの社会保険に加入する際には、加入・脱退の手続きだけでなく、保険料の納付や労働保険の年度更新、各種給付の申請など多くの業務に対応する必要があります。ただ、企業が自社でこれらの業務を行うとなると日々の業務が圧迫されてしまうことも多いため、専門業者への委託を導入している企業も増えています。
社会保険手続きを業務委託する背景と必要性
社会保険手続きは、従業員を雇用する企業にとって必須の業務です。特に従業員数が多い企業は処理件数や複雑さも増してきます。このような定型的でありながら煩雑な業務に対応する手段として、外部への業務委託が注目されています。
その背景には、法改正への迅速な対応が求められることや、業務委託によるコスト削減の可能性が挙げられます。
法改正への対応が求められる
社会保険制度は頻繁に改正されており、その内容を把握したうえで各種手続きを行う必要があります。しかし、改正のたびに書式や様式、社内制度を変更し対応するのは非常に負担が大きくなります。 業務フローの調査や担当者への教育も必要になるでしょう。
専門性をもつ人材を採用・育成するには時間だけではなくコストもかかってしまいます。最新の法令に基づかない手続きを行うと、申請が受理されない可能性があります。 こういった問題を効率よく解決するために、専門家に業務委託する方法が選ばれています。
コストを削減できる
外部に業務を委託すると費用が発生するため、コスト面でのデメリットを懸念する方もいるかもしれません。ですが、実際にはトータルコストの削減につながることが多いといえます。 社内で社会保険手続きを行う場合、一般的にはその業務のみを担当する人材ではなく、誰かが片手間で他の業務を行いながら担当することになるでしょう。
最新の法改正の確認や、行政機関への問い合わせなどが必要となり、手続きには多くの時間を要します。結果的に担当者の人件費が高くついてしまうことも珍しくありません。 さらに、担当者を育てるための教育費がかかるケースもあります。無理に社内リソースを確保するよりも、専門業者に委託したほうがコスト削減につながるため、業務委託を導入する企業が増加しています。
業務委託できる社会保険手続きの種類
社会保険手続きのうち、どのような業務を専門業者に委託できるのかを見ていきましょう。
【業務委託可能な手続き】
- 健康保険・厚生年金保険の資格取得や喪失手続き
- 被扶養者の追加・削除手続き
- 産休・育休・介護休業などの保険料免除申請
- 健康保険・厚生年金保険の算定基礎届
- 傷病手当金・出産手当金など給付関係の申請
このほかにも、委託可能な業務は多岐にわたります。特に頻繁に発生する手続きや、厳格に期限が定められている処理もあるので、それらに適切に対応するためにも業務委託を検討してみてはいかがでしょうか。注意点として、業務委託をしても社内での対応が完全になくなるわけではありません。
たとえば、社員からの保険に関する質問や手続き内容の確認などがあった場合、委託先ではなく、社内担当者が担当するのが一般的です。 そのため、社内にも社会保険手続きに関する一定の知識を有する人材を配置しておく必要があります。
社会保険手続きを業務委託するメリット
社会保険手続きの業務委託を悩んでいるのであれば、委託することでどういったメリットがあるのか確認しておくことをおすすめします。
代表的なメリットは以下のとおりです。
正確で迅速な手続きができる
社会保険に関する手続きには、法的な期限が定められています。また、その内容についても厳密なルールがあるため、よく理解したうえで取り組んでいかなければなりません。 自社対応が難しいケースであっても、業務委託することにより正確で迅速な手続きにつなげられるのが大きなメリットです。
手続きの不備を防げるため、申請ミスによるやり直しの手間も削減できます。 特に法改正は頻繁に行われることもあり、自社で正確に対応するのが難しいと感じている方も多いことでしょう。外部の専門家に委託できれば、法改正についていけないために発生してしまうトラブルを予防できます。
業務を効率化できる
業務の効率化を目指している場合、社会保険手続きの業務委託を検討してみるとよいでしょう。社会保険手続きのためには、膨大な書類を作成する必要があるほか、適切なデータ管理も行わなければなりません。 企業によっては多くの従業員を抱えており、社会保険手続きを対応する担当者の負担が大きくなってしまうこともあるでしょう。
専門的な知識が不足している担当者だとどのように対応すればいいのかわからず、長時間悩んでしまうこともあるはずです。社会保険手続きの専門家に委託すれば、対応に悩むこともなくなります。 業務委託すれば自社で行うべき業務が少なくなるので、効率化が可能です。
コア業務に専念できる
社会保険手続きは重要な業務ではありますが、直接的に売り上げにつながるわけではない定型業務です。これらの業務を外部に任せることにより、経理・人事部門はより重要度の高いコア業務に集中できるようになるでしょう。
特に従業員数が多い企業は社会保険手続きに多くの時間を割かなければならず、コア業務に着手できる時間がほとんど取れないケースも少なくありません。時間のかかる社会保険手続き業務を委託すれば担当者が煩雑な手続きを処理する手間がなくなるので、大幅に作業効率が改善し、コア業務へ集中できるようになります。
これは、担当者のモチベーション向上にもつながるポイントだといえるでしょう。売上に直接つながらない定型業務に追われ続けると、自身の価値を実感しづらくなることもあるでしょう。 コア業務に集中できる環境を作り出せればモチベーションが向上しやすくなり、離職の防止にもつながります。
社会保険手続きを業務委託する際の注意点
社会保険手続きの業務委託を検討しているのであれば、先にどのような注意点があるのかから確認しておきましょう。以下のような注意点があります。
信頼できる委託先の選定
社会保険手続きを外部に委託することで業務の効率化や担当者の負担軽減が期待できる一方で、外部に情報を渡すリスクを考えておかなければなりません。 社会保険関連の手続きでは、従業員の個人情報を取り扱う必要があります。
そのため、信頼できる委託先を選択することが何より重要だといえるでしょう。 信頼性の低い業者を選んだ場合、対応の遅延や適切ではない申請、さらには情報漏洩などのトラブルにつながってしまう恐れもあります。
これまでの業務実績や対応スピード、担当者の知識については必ず契約前に確認が必要です。 実際に信頼できるかどうかは、担当者との対話を通じて判断することをおすすめします。わからないことがあったら質問し、的確な回答が得られるか、対応力は高いかなどをチェックしておきましょう。
情報漏洩リスクへの対策
社会保険の手続きでは、氏名のほか、生年月日、住所、給与など、大切な個人情報を渡すことになります。そのため、情報漏洩リスクへの対策がしっかりできている業者を選択しなければなりません。 委託先が故意に個人情報を漏洩させることはまずありませんが、ヒューマンエラーやサイバー攻撃のために情報が漏洩してしまうリスクも考えておきましょう。
セキュリティポリシーやISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)、プライバシーマークの取得についても確認しておくことが大切です。 具体的にどのような対策をとっているのか、万が一の事態が起こった際はどのように対応するのかなども確認しておきましょう。情報漏洩による影響を受けるのは、委託先業者だけではありません。委託元の企業や担当者個人にも大きな責任が生じる可能性があります。
社内での情報共有とノウハウの維持
外部に手続きを委託することで社内の業務負担が軽減され、効率化につながります。その一方で、社会保険手続きに関連するノウハウを社内に蓄積しにくくなる点に注意が必要です。突然委託先と契約が終了した場合や、会社の方針変更によって手続きを社内で行うことになった際、対応できない恐れがあります。
突発的なトラブルが発生した場合も同様です。 そのため、外部に委託するとしても、社内での情報共有とノウハウの維持は継続して行っていくようにしましょう。社内の担当者が不在でも対応できるよう、手続き内容はマニュアル化しておくことをおすすめします。
社会保険手続きの業務委託先の種類と特徴
社会保険手続きの業務を委託する際は、依頼先によって対応範囲やサービス品質、コストに大きな違いがあります。委託先として検討できるのは、大きく分けると「社会保険労務士事務所」「社会保険労務士法人」「コンサルティンググループ・アウトソーシング専門会社」の3種類です。
それぞれの特徴について紹介します。
社会保険労務士事務所
社会保険労務士事務所には国家資格をもつ社会保険労務士(社労士)が在籍しており、法的に認められた専門家として業務を委託できます。個人事務所を構えている社会保険労務士を選択すれば、小回りの利いた対応が期待できるでしょう。
顧問契約を締結することで、総合的なサポートを受けられるケースも多くあります。 ただし、対応可能な業務量に限界がある点には注意が必要です。また、対応可能な案件の範囲に制限が設けられていることもあります。
社会保険労務士法人
社会保険労務士法人の場合、複数の社会保険労務士が所属しているのが特徴です。そのため、業務量に応じた分業体制がとられていることも多く、一般的な社会保険労務士の個人事務所よりも、対応範囲が広い傾向にあります。
中堅企業向けのパートナーとして選ばれることが多くあります。 ただ、相談先によっては担当者が途中で変わることもあるため、担当者が統一されているか事前に確認しておきましょう。
コンサルティンググループ・アウトソーシング専門会社
業務全体の効率化を得意としているのが、コンサルティンググループ・アウトソーシング専門会社です。複数の業務をまとめて外部に委託したいと考えている場合に向いています。 ただし、企業によっては社労士が在籍していない場合もあるため、注意が必要です。
社会保険や労働保険に関する手続きは社労士の独占業務であるため、資格を保有していない人が担当することはできません。 そのため、有資格者がいない場合、専門業務は外部提携となり対応が遅れたり別途オプション費用がかかったりすることもあります。
社会保険手続きの業務委託先を選ぶ際のチェックポイント
業務委託先を選ぶ際は、細部まで検討したうえで判断しないと、後から『想定と異なる対応だった』といったミスマッチが生じる恐れがあります。そのため、自社にとって本当に適した委託先かどうかを見極めるためのチェックポイントを確認しておきましょう。
自社の組織規模に適しているか
選択するサービスによって、対応可能な組織規模が異なります。たとえば、数十名程度の規模の会社と、100名を超える規模の会社では選ぶべき業務委託先が変わってくるので注意しましょう。
規模が大きい組織の場合は、同程度の規模を持つ委託先に依頼することで安心感が得られます。 また、自社で委託する業務量に対して委託先で対応可能な量が少ないと、納期遅延や対応漏れが発生するリスクもあるでしょう。
一方で、自社と比較して大きな規模の委託先を選択した場合はコストばかりが高くついてしまう可能性があります。 料金設定を確認すれば、その委託先が対応している組織規模の目安が把握できます。事前に確認しておきましょう。
依頼したい内容に対応しているか
一般的な社会保険手続きだけではなく、コンサルティングなども依頼したい場合は、その内容に対応しているか事前に確認しておく必要があります。
手続きの代行を依頼したいのであれば、社会保険労務士業務ができる事務所か法人を選んでおく必要があります。 契約後に対応外の業務があると判明すると支障が生じるため、事前に業務範囲を確認しておきましょう。
対応スピード・報告体制が整っているか
対応スピードがどれくらいなのかについても契約前に確認しておくことが重要です。 注意点として、大手企業や高額な料金設定の業者であっても、迅速に対応してくれるとは限りません。たとえば、担当者が限定されており、その担当者が不在だった場合に他のスタッフのフォローが受けられず、業務が止まってしまうこともあります。
連絡に対して折り返しが遅い、確認に時間がかかる委託先は信頼もしにくいので、慎重に選びましょう。また、社会保険に関する業務を依頼するということもあり、報告の透明性と速さも求められます。 これらの点も重視し、契約前に確認しておきましょう。
業務範囲と料金体系に問題はないか
委託先によって料金設定が異なるため、提供されるサービスの内容と価格のバランスがとれているか見極める必要があります。また、自社で継続して支払い続けられる料金設定になっているかも確認しておかなければなりません。
料金体系ができるだけ明確に説明されている委託先を選ぶとよいでしょう。 初期費用が無料でもオプション料金が高額で、結果として総コストが割高になる場合もあります。選択する委託先によっては依頼ごとに追加料金が発生するケースもあるので、事前に確認しておきましょう。
運用実績が十分であるか
これまでの運用実績が十分かもチェックしておきたいポイントです。実績が豊富な業者は経験も豊かであり、多様な状況にも柔軟に対応できる可能性が高いです。 可能であれば、同業種や同規模企業の対応実績が豊富な業者を選択するとよいでしょう。
トラブルの対応経験や成功事例なども確認しておくことをおすすめします。 ホームページ上ではこれまでの実績を公表していない委託先もあるため、打ち合わせ・ヒアリングの際に確認が必要です。
サポート体制が充実しているか
困ったことがあった際に適切なサポートが受けられるように、どのようなサポート体制が用意されているか確認しておきましょう。トラブル発生時に迅速な対応が得られないと、さらに深刻な事態を招く恐れがあります。
電話だけではなく、メールやチャットなど、複数の方法で連絡できる業者を選んでおくことをおすすめします。 困ったときに相談できる相手がいることで、社内の担当者の心理的な不安を抑えることもできるでしょう。
業務の外部化で人手不足の場合も対応しやすくなる
いかがだったでしょうか。社会保険手続きを業務委託するメリットや注意点などについて解説しました。押さえておくべきチェックポイントについてもご理解いただけたでしょう。近年は人手不足に悩んでいる企業が増えており、限られた人員で専門性の高い業務を遂行するのは、現実的ではありません。 複雑な社会保険手続きは、専門家に委託することをおすすめします。
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