給与計算でミスした場合の対処法と失敗を繰り返さないための防止策
目次
給与計算はミスなく行わなければなりませんが、さまざまな要因で計算を誤る場合があります。万が一、ミスが発生した場合は、従業員との信頼関係に大きな影響を与えるだけではなく、放置することでさらなる問題につながる可能性もあります。
そこで、給与計算でミスをしてしまった際の具体的な対処法を知りたい方のため、おさえておきたいポイントや再発を防ぐにはどうすべきか解説します。
この記事を読むことで正確な給与計算につなげやすくなるので、内容を参考に、正確な給与計算に役立ててください。
給与計算でミスしたときにやるべきこと
ミスが判明した場合、すぐに対応することが重要です。従業員へのお詫び、給与明細の修正、給与の正しい精算を行いましょう。
それぞれ丁寧かつ速やかに行わなければなりません。確認しておきたいポイントを解説します。
従業員にお詫びをする
給与計算でミスをした場合、給与明細の作り直しや過不足の調整などの作業も必要ですが、これらを済ませてから謝罪すると従業員への対応が遅れてしまいます。
ミスが発覚した段階で誠意をもって謝罪しましょう。ただし、単にミスがあったことだけを伝えると、従業員は「いつ、どのように対応してもらえるのか」がわからず、不安や不満を感じてしまう可能性があります。そのため、ミスの概要と、いつまでにどのような対応を行うのかもあわせて伝えることが大切です。
メールだけで済ませると誠意が伝わりにくくなってしまうため、可能であれば本人に直接会って話をするのが理想といえます。給与は従業員の生活に直結する非常に重要な報酬です。金額が正しい額より少なくても多くても影響が生じます。たとえ小さな金額差であったとしても軽く考えず、できるだけ早い段階で当人に直接説明することが重要です。原因と今後の対策について伝えましょう。
給与明細を修正する
次に必要なのは、誤った明細の修正と再発行です。 基本給のほか、各種手当や経費の立替え金などの金額を間違ってしまった場合、源泉徴収される所得税額や雇用保険料にも影響するため、正しく計算し直しましょう。
訂正すべき部分を見逃してしまうと、年末調整の際に確認や修正に多くの時間と手間がかかることになります。年末調整の時期は非常に忙しいこともあり、この時期の対応を避けるためにはできるだけ早く給与計算の訂正をしておくことが重要です。
給与を正しく精算する
過不足があった場合は、速やかに正しい金額で精算しましょう。「次回の給与支払い時に調整しよう」と考える方もいるかもしれませんが、労働基準法では、賃金は通貨で直接労働者に全額を支払うこと、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払うことが義務付けられています(※)。
そのため、可能であれば当月中に現金での精算を行いましょう。特に注意が必要なのは、支払った給与が不足している場合です。給与は全額支払うことが定められているため、同月中に精算を行わないと賃金の支払いに関する原則に抵触してしまう可能性があります。
ただし、従業員からの同意が得られている場合は翌月での調整も可能です。何らかの理由で当月中に精算が難しい場合は、従業員に承諾を得たうえで調整をしましょう。過払いであった場合も、調整します。
当月から翌月の支給日までに調整しますが、原則として、当月中に現金で返金してもらうのが理想的です。なお、本人の承諾を得ずに翌月の給与から一方的に差し引くことはできません。
給与計算のミスによって生じるリスク
「給与計算でミスが生じても、調整すれば問題ない」と考えるのは適切ではありません。企業の信用と深く関係していることに加え、法的責任にも直結する非常に重要な問題です。
経理担当者などは、小さなミスだからといって軽視することなく、リスクの大きさを認識する必要があります。ここでは、給与計算をミスすることによってどのようなリスクが生じるのかについて紹介します。
是正勧告や罰則を受けるおそれがある
給与の支払いや手続きにミスが生じた場合、労働基準監督署から是正勧告を受ける可能性があります。労働基準監督署とは厚生労働省の第一線機関であり、企業への各種監督指導を行ったり、従業員や職場の安全・健康を確保するための取り組みを行ったりしている機関です。
たとえば、給与の計算ミスにより本来よりも少ない給与を支給していた場合は労働基準法違反とされ、是正勧告や立ち入り調査が行われる可能性があります。賃金や残業代の未払いがあり、それが悪質な労働基準法違反と判断された場合は企業名が公表される可能性もあるため、十分に注意が必要です。
実際に「労働基準関係法令違反に係る公表事案」などの形で企業名が公表されています。 また、労働基準法によって定められている「賃金支払いの五原則」も確認しておきましょう。
【賃金支払いの五原則】
- 通貨で支払うこと
- 直接労働者に支払うこと
- 全額を支払うこと
- 毎月1回以上支払うこと
- 一定の期日を定めて支払うこと
賃金支払いの五原則に違反した場合、賃金支払原則違反は30万円以下の罰金、割増賃金支払義務違反は30万円以下の罰金または6か月以下の懲役の対象となります(※)。
悪意がなくても法令違反とみなされれば、行政からの信頼を失うことになります。小さな見落としが企業の評価を落とすことがないように注意しましょう。 (※)
従業員からの信頼を失う
受け取った給与に計算ミスがあった場合、従業員は不安や不満を感じることになります。これは企業への信頼を損なう原因となり「この会社は信用できない」と思われてしまうと、退職につながる可能性もあります。
特に、給与計算のミスが繰り返されると、従業員のモチベーション低下や不満の蓄積にもつながるでしょう。信頼を築くには時間がかかりますが、失うのは一瞬です。従業員との良好な関係を保つためにも、確実な給与計算が重要です。
遅延損害金が発生する
給与計算の際にミスが生じた場合は、遅延損害金が発生する可能性があります。遅延損害金とは、支給日を過ぎても支払われなかった賃金などに対して発生するお金のことです。
支払いが遅れてしまった従業員に対しては、損害賠償として遅延損害金を支払う必要があります。1日でも給与の支払いが遅れた場合は債務不履行となり、遅延損害金が発生する形です。
遅延損害金の利率には、自社と従業員の間で合意した率である「約定利率」のほか、民法などにより定められた「法定利率」の2種類があります。
約定利率を定めていなかった場合は法定利率が採用されることになり、退職前の従業員に対する法定利率は未払い分・不足分に対して3%が遅延損害金の金額です(※1)。
「不足分×0.03×遅延日数÷365日」で計算しましょう。
特に注意が必要なのは、すでに退職している従業員に対して遅延損害金が発生する場合です。退職前と比較して、退職後の利率は大幅に上がり、年14.6%と高額になります(※2)。
仮に複数の従業員に対して高額な支給漏れが発生していた場合、会社の損失を拡大させることになってしまうでしょう。場合によっては訴訟に発展する可能性もあります。意図的な支給漏れでなかったとしても、遅れた分については適切に対応することが会社の義務です。
(※1)参考:e-Gov 法令検索:民法 第四百四条2項
(※2)参考:e-Gov 法令検索:賃金の支払の確保等に関する法律 第六条
納税が正しく行われなくなる
給与計算を誤ると、源泉所得税や住民税、社会保険料の納付にも影響が出ます。本来納める税額がずれてしまい、税務署から修正申告を求められる可能性もあるため、注意が必要です。
さらにそれを放置した場合は延滞税や加算税などのペナルティも発生します。
給与計算で起こりやすいミス
給与計算では、どのようなミスが起こりやすいのでしょうか。ここでは、特に発生しやすい代表的なミスを3つ紹介します。
割増賃金の計算ミス
残業代や深夜手当など、割増賃金の計算ミスは非常に多く見られます。正しく計算しているつもりでも、実際にはミスが発生していることが多く、割増賃金の計算は非常に難しい作業といえます。
割増賃金を正しく計算するためには、就業規則と勤怠記録が正確に連動していなければなりません。担当者がルールを十分に理解していないことによる計算ミスも発生します。事前にしっかりと確認することが大切です。
各種手当が反映されていない
通勤手当や住宅手当の支給漏れが給与ミスにつながることもあります。支払うべき手当を支払っていなかった場合、後からまとまった金額を支払う必要が生じ、企業にとって大きな負担となることは避けられません。
支給条件のチェックリスト化などによってミスを防ぎましょう。
扶養状況が反映されていない
たとえば、子どもが独立して扶養から外れている従業員に対し、長年にわたって子どもの分の家族手当を支給してしまったとしましょう。金額が大きくなると、従業員から返還を拒否されるなどのトラブルに発展する可能性も十分にあります。
また、扶養状況の変更が反映されていない場合は、所得税や社会保険料の控除額にも誤差が生じてしまいます。
給与計算のミスの再発防止策
給与計算においてミスが発生してしまった場合、再発防止策をとらなければなりません。再発を繰り返すと従業員の信頼を損なうため、注意が必要です。
ここでは、実行しやすい再発防止策を4つ紹介します。
チェックリストを作成する
作業ごとのチェックリストを用意して取り組みましょう。給与計算は複雑な手順や確認事項が多いため、感覚的に作業を進めてしまうとミスが発生しやすくなります。
あらかじめチェックリストを作成しておくことで作業漏れが発生するのを防げるでしょう。項目ごとに毎月確認すべきポイントをリストアップしておくことで担当者も進め方を理解しやすくなります。チェックリストを作っておけば担当者が変わった場合でも引き継ぎがスムーズになるでしょう。
給与計算ソフトを活用する
人的ミスを減らすために役立てたいのが、給与計算ソフトです。 人の手で行う作業は、どれだけ注意していてもうっかりミスが発生してしまうことがあります。給与計算ソフトであれば自動的に複雑な計算も行えるので、まだ利用していない場合は、導入を検討しましょう。
導入には費用がかかりますが、ミスやトラブルを防ぐことにもつながるため、中長期的に見れば有効な投資といえます。多くの給与計算ソフトは法改正にも自動的に対応可能です。法改正に気づくのが遅れて計算ミスにつながってしまったということがある場合は、給与計算ソフトを活用しましょう。
関連記事:給与計算DXとは|期待できるメリットと導入の基本的な流れ
賃金規定を見直す
社内の賃金規定や手当に関するルールが複雑である場合、それが原因で計算ミスが発生してしまうことがあります。これらのルールを見直し、簡素化することも有効な防止策といえるでしょう。
たとえば、手当の支給条件が曖昧だったり、支給に関する特別なルールが設けられたりしている場合は、処理のたびに判断が必要となり、ミスが発生しやすくなります。わかりやすく、シンプルなルールにすることで、働く従業員もどのような手当がもらえるのか、何が差し引かれるのかを理解しやすくなるでしょう。
法改正への対応や賃金規定の見直しについて不安なことやわからないことがある場合は、社会保険労務士などの専門家と連携しながら賃金規定の見直しを進めることをおすすめします。
アウトソーシングを活用する
人手や専門性の不足が原因でミスにつながっている場合、給与計算業務を外部に委託することも検討しましょう。給与計算は専門的な知識が求められる分野であることに加え、法改正や税制変更が頻繁に行われています。
社内で完璧に対応するのは難しいため、社会保険労務士などの専門家に相談することをおすすめします。従業員数がそれほど多くない場合は給与計算ソフトで対応できるケースもありますが、従業員数が多い場合は、給与計算ソフトを用いても自社で対応するのが難しい場合があります。
こういった場合も外部の専門家に依頼するのがおすすめです。
ミスを繰り返さないための給与計算体制の構築が重要
ここまで、給与計算のミスによるリスクや対策について紹介しました。どのように対応すればよいかもご理解いただけたのではないでしょうか。人の手で作業する以上、ミスのリスクをゼロにするのは非常に難しいことです。専門家に頼るのも一つの方法といえます。
特に人手不足や業務の属人化が進んでいる場合はアウトソーシングも有力な選択肢です。給与計算の専門家をお探しの場合は、社会保険労務士法人エスネットワークスにご相談ください。
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