給与計算の正しいやり方をわかりやすく解説!手順・注意点と基礎知識
目次
給与計算は従業員を雇う以上、避けて通れない大切な業務です。ですが「具体的な計算方法がわからない」「計算ミスをしそうで怖い」と悩む方もいるでしょう。
ここでは給与計算の基本的なやり方を知りたい方のため、手順や各ステップのポイント、注意点まで解説します。この記事を読むことで給与計算に不安や迷いを感じている方でもどのように取り組んでいけばいいのかがわかるようになるので、ぜひ参考にしてください。
給与計算とは
給与計算とは、従業員の働きに応じた賃金を正しく算出し、法律に従って支給する業務のことをいいます。一見単純な作業に思えますが、労働時間に関することや残業代、各種手当、保険料、税金など、実にさまざまな項目を正しく把握し、反映させなければなりません。
具体的な計算方法は会社ごとの給与規定によって定められています。雇用形態によっても月給・日給・時給などが変わってくることに加え、担当者は年末調整で納税額の過不足を調整する作業も必要です。
給与計算は複雑な業務であり、計算ミスがあると従業員からの信頼を失う恐れがあります。勤怠データをもとに、ミスなく正確に計算することが求められます。 もし計算ミスが発生すると、社会保険料や税金の納付にも影響が出るため、十分な注意が必要です。
給与計算は通常、月に一度行う必要があり、特に中小企業や個人事業主では限られた人数で業務を担当することが多いため、担当者の負担が大きくなることもあるでしょう。 行う際には具体的なステップを確認しながら給与計算の流れを理解していくことが重要です。
関連記事:給与計算の仕組みとは?ミスを防ぎ正確に行うためのポイント
給与計算の手順
給与計算を行う際は、全体の手順を確認したうえで始めていくことをおすすめします。ステップに沿って進めることでミスを防ぎやすくなるでしょう。
ここでは、実務で必要になる5つのステップを順に紹介していきます。各段階で注意すべきポイントや具体的な作業内容を確認しておくことが大切です。
ステップ①従業員の勤務時間を算出する
まず行うのが、従業員の勤務時間を算出する作業です。そのためには、タイムカードや勤怠管理システム、出勤簿など、会社で導入している勤怠情報を確認し、一覧にまとめましょう。 以下の情報の確認が必要です。
【収集すべき情報】
- 勤務日数
- 欠勤日数
- 有給休暇の取得状況
- 遅刻
- 早退
- 労働時間
- 残業時間
夜22時~朝5時までの残業は深夜労働時間に該当するため、別にまとめておきましょう。また、勤務時間には「法定労働時間」と「所定労働時間」の2種類があることについて確認が必要です。
法律によって定められた労働時間が法定労働時間であり、原則一日8時間、週40時間と定められています。一方、会社の就業規則によって定めた労働時間が所定労働時間です。
法定労働時間を超えて勤務した場合は、割増賃金を加えて総支給額を計算しなければなりません。正しく計算できるように情報を確認しておきましょう。
ステップ②割増賃金を計算する
残業や深夜勤務があった場合は、割増賃金を計算しなければなりません。割増賃金は、時間外・休日・深夜の3種類です。
それぞれ支払う条件と割増率は以下のとおりとなっています。
種類 | 該当する条件 | 割増率 |
時間外手当・残業手当 | 法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えたとき | 25%以上 |
時間外労働が1か月60時間を超えたとき | 50%以上 | |
休日手当 | 法定休日(週1日)に勤務させたとき | 35%以上 |
深夜手当 | 22時から5時までの間に勤務させたとき | 25%以上 |
参考:(PDF)厚生労働省:しっかりマスター労働基準法[PDF]
具体例で詳しく解説します。まず、時間外労働の割増率についてです。
例として、所定労働時間が午前8時から午後4時まで(うち1時間休憩)だった場合に、8時から24時まで勤務した日があったとしましょう。このケースでは、割増率は以下のとおりとなります。
【割増率の計算】
- 8:00~16:00…実働7時間:所定労働時間
- 16:00~17:00…所定労働時間外・法定労働時間内残業
- 17:00~22:00…法定時間外残業(25%以上の割増)
- 22:00~24:00…法定時間外+深夜(50%以上の割増)
次に、法定休日労働の割増率についてです。 9時から24時まで働いたとしましょう。
割増率は以下のとおりとなります。
【割増率の計算】
- 9:00~22:00…所定労働時間(35%以上の割増)
- 22:00~24:00…休日労働+深夜(60%以上の割増)
割増部分は計算が複雑になりやすいため、手作業ではなく、勤怠管理システムと連動して自動計算できる仕組みを導入することをおすすめします。就業規則によって定められた割増条件を確認し、社内ルール・法律の両方を反映させましょう。
割増対象の時間がいつなのか、何時間あるのかについては明確に把握しておくことが重要です。本来であれば割増対象である時間を見逃してしまった場合、後になって未払賃金を請求されてしまう恐れがあります。
ステップ③各種手当を計算する
各種手当の計算を行います。基本給以外に支給する手当を正確に把握したうえで計算を行う必要があります。 支給されることが多い手当としては、以下のようなものが挙げられます。
【代表的な手当の種類】
- 役職手当:就任や係長など、役職についている人に対して支給
- 通勤手当:公共交通機関や車通勤などに応じて支給
- 扶養手当:扶養家族がいる場合に支給
- 資格手当:業務に関連する資格を取得している場合に支給
- 住宅手当:賃貸契約や居住地により支給される場合がある
- 皆勤・精勤手当:欠勤や遅刻がない場合に支給
- 出張手当:出張に伴い発生する食費や交通費などを補てんする目的で支給
各種手当は就業規則や給与規程に基づいて支給されることになるため、規定に沿った運用が不可欠です。
また、手当の支給基準を満たしているか、計算根拠が明確であるかも併せて確認する必要があります。従業員の住まい・家族構成・役職などによって対象となるかが異なるため、最新の情報を確認しておくことも重要です。
ステップ④控除額を計算する
給与からは、税金や保険料などの控除額を差し引く必要があります。これらの控除の計算は、給与計算の中でも特に複雑で手間がかかる部分です。
控除とは、従業員の給与から天引きされる金額のことです。たとえば、社会保険料や住民税などの税金が該当します。
これらは会社側が給料から天引き(源泉徴収)し、会社が代わりに納付することが法律で定められています。法定控除と呼ばれるものです。 従業員は、給与や賞与から源泉徴収された金額を手取りとして受け取る形となります。ここでは、各控除の詳細について解説します。
厚生年金保険料
厚生年金保険料とは、老後の年金や障害・死亡時の給付に備えるための社会保険制度です。
会社で働いている従業員の多くが加入する仕組みであり、保険料は年収に応じて決まります。厚生年金保険料率は、18.3%で固定されています。(※)
会社と従業員が折半で9.15%ずつ負担します。計算には、前年4~6月の平均給与をもとに決定された標準報酬月額が用いられます。
たとえば、標準報酬月額が26万円である場合の計算式は以下の通りです。
「260,000円(標準報酬月額)×9.15%(厚生年金保険料率)=23,790円(厚生年金保険料)」
計算ミスがあった場合は将来の年金額や離職時の手続きにも影響することから、慎重な処理が求められます。標準報酬月額については9月に改定が行われることになるので、こちらについても確認しておきましょう。 (※)
健康保険料・介護保険料
健康保険は、病気やケガなどで医療機関を受診した際にかかる費用の負担を軽減するための制度です。厚生年金と同様に会社と従業員で保険料を半分ずつ負担します。
保険料率は加入している健康保険組合や協会けんぽによって異なるため、自社の保険料率表を確認したうえで計算しなければなりません。また、従業員が40歳以上である場合は介護保険料も上乗せされます。介護保険料は、健康保険と一緒に徴収されます。
雇用保険料
雇用保険とは、失業中に一定の給付金を受け取るための制度です。給付金は生活支援や再就職支援などに充てられることから、労働者が安心して働ける環境づくりに寄与します。
雇用保険料率は、事業内容によって変動する形です。たとえば、農林水産・清酒製造の事業と建設の事業については雇用保険料率が一般の事業よりも高めに設定されています。
事業の種類/負担者 | ①労働者負担 | ②事業主負担 | ①+②雇用保険料率 |
一般の事業 | 5.5/1,000 | 9/1,000 | 14.5/1,000 |
農林水産・清酒製造の事業 | 6.5/1,000 | 10/1,000 | 16.5/1,000 |
建設の事業 | 6.5/1,000 | 11/1,000 | 17.5/1,000 |
参考:(PDF)厚生労働省:事業主・被保険者の皆さまへ 令和7(2025)年度 雇用保険料率のご案内[PDF]
表からもわかる通り、従業員よりも会社側の負担割合が大きくなっています。厚生年金保険料や健康保険料とは異なり、折半ではない点に注意しておかなければなりません。
年度の初めに料率が変更されることになります。毎年厚生労働省が発表している最新情報を確認し、給与計算ソフトを使っている場合はソフトの設定も見直しましょう。
住民税
住民税とは、住んでいる都道府県や市区町村に納める税金のことをいいます。前年の所得に基づく形で金額が決定します。
会社へは毎月5月中旬~下旬ごろに「住民税課税決定通知書」が送付されてくるので、確認しましょう。内容を従業員ごとに照会し、金額が間違っていないか確認する必要があります。
通知された住民税額を6月から翌年の5月までの12か月間で分割して給与から控除・納税する形です。たとえば住民税額が6万円であった場合、それを12分割するので1か月あたり5,000円差し引くことになります。
源泉所得税
源泉所得税とは、国に納める所得税の前払い分のことをいいます。会社は従業員に代わって従業員からの徴収と国に納付を行いましょう。
毎月の給与から概算の所得税を計算することになります。その月の総支給額から社会保険料の合計額と通勤手当などを差し引き、課税対象額を計算するところから始めなければなりません。その上で、国税庁が公表している源泉徴収税額表(※)と照合し、源泉所得税の金額を算出します。
ただ、会社側が個人に代わって納税するのは、あくまでおおよその金額です。1年間の給与総額が確定したらそのタイミングで年末調整を行い、実際の所得税額との過不足を精算します。 (※)
その他
その他、社宅費などの任意控除の有無も確認する必要があります。法律で義務づけられている強制的な控除とは異なり、従業員が希望する場合や、雇用主による福利厚生の一環として提供されるものです。 該当するものがある場合は、給与計算の際に確認しましょう。
ステップ⑤差引総支給額を計算する
総支給額から控除額を差し引き、差引総支給額を算出します。この金額が従業員に実際に支払われる給与(手取り額)となります。
差引総支給額が決定したら、給与明細を作成し、内訳と共に従業員へ通知します。近年は紙ではなくWeb明細を導入する企業も増えていますが、いずれの場合も記載内容を明確に保つ必要があります。
【給与明細に記載すべき項目】
- 支給日
- 勤務日数・時間
- 基本給
- 各種手当
- 控除額
- 差引支給額
上記項目を盛り込んだ給与明細を作成します。
給与計算で知っておきたいこと
給与計算は単なる数値の計算ではなく、法律や就業ルールを順守したうえで行う必要があります。特に注意すべきなのは、賃金支払いに関する法律、従業員の情報管理、社会保険の加入基準などです。給与計算は1円単位で正確に行う必要があり、感覚的な判断で進めることは許されません。
ここでは、給与計算担当者が押さえるべき基本知識を紹介します。思い込みや誤った理解が法令違反につながることもあるため、以下の点を必ず確認してください。
賃金支払いの五原則
給与の支払い方法は法律で定められており、企業が独自に決めることはできません。労働基準法では「賃金支払いの五原則」として以下を規定しています。
【賃金支払いの五原則】
- 通貨で支払うこと
- 直接労働者に支払うこと
- 全額を支払うこと
- 毎月1回以上支払うこと
- 一定の期日を定めて支払うこと
通貨での支払いが義務付けられているため、ポイントや現物支給は原則として認められません。給与計算の正確さだけでなく、これらの基本ルールを理解していることが重要です。
従業員の情報
正確な給与計算には、従業員ごとの最新情報が不可欠です。氏名、住所、生年月日、扶養家族の有無といった基本情報に加え、役職や勤務時間なども確認しましょう。
扶養家族数が変われば源泉所得税額が変動し、雇用形態が変われば社会保険の加入要件も変化します。定期的に情報を更新する仕組みを整えることが必要です。
最低賃金
毎年、最低賃金を下回っていないかを確認する必要があります。最低賃金は地域ごとに異なり、最低賃金法に基づき定められています。例年10月前後に改定されることが多く、見逃すと法令違反となる可能性があります。
最低賃金は誰でも調べられるため、違反すれば従業員から訴えられるリスクがあります。改定情報は必ず確認してください。
社会保険の要件
健康保険や厚生年金の加入義務は、条件によってはパート・アルバイトにも及びます。加入対象を誤ると、未加入分の追徴が発生することがあります。
法改正により条件が変更される場合もあるため、最新情報の確認が欠かせません。
端数の計算方法
端数計算の方法も事前に確認しておく必要があります。労働時間は1分単位で計測し、30分未満を切り捨てる処理は認められていません。ただし、1か月の合計残業時間を計算する際には、30分未満の端数を切り捨てることが認められます。
また、賃金の端数処理方法は、割増賃金の計算と月額賃金の支払額で異なるため、ルールを確認してください。
参考:(PDF)厚生労働省:賃⾦計算の端数の取扱い[PDF]
給与計算における注意点
給与計算は、小さなミスでも従業員の不満や法令違反に直結する可能性があります。以下に、正確かつ安全に行うための注意点を示します。
注意点①ミスを起こさないようにする
多くのミスは入力漏れや確認不足といった人的要因によるものです。年度末や繁忙期は注意力が低下しやすく、特に発生リスクが高まります。
二重チェック体制やチェックリストを活用し、ヒューマンエラーを防ぎましょう。給与計算ソフトの利用は有効ですが、設定や手動修正による誤りにも注意が必要です。
関連記事:給与計算でミスした場合の対処法と失敗を繰り返さないための防止策
注意点②情報漏えいに注意する
給与情報は収入や家族構成などの機密性が高い個人情報を含みます。誤配布やアクセス制限の不備は重大な問題を引き起こします。
閲覧権限の適正化や、データ管理体制の整備が必須です。
注意点③スケジュールに余裕をもって行う
給与計算が遅れると給与支払いも遅延します。スケジュールを逆算し、勤怠データの提出期限も周知することで、処理遅延を防ぎます。
注意点④記録を保存する
給与関連書類は法定保存期間(3〜7年)に基づき保管します。紛失や改ざんを防止するため、適切な管理方法を確立する必要があります。
給与計算に不安がある場合は社労士への相談も視野に
給与計算は多くの確認事項が絡む繊細な業務です。自社対応が困難な場合はアウトソーシングも有効な手段です。
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