【アウトソーシングほっとニュース】 12月は「職場のハラスメント撲滅月間」です/最終回

男女雇用機会均等法および育児・介護休業法では、妊娠・出産、育児・介護休業等の申し出や取得を理由として、事業主が労働者に解雇や不利益な取り扱いを禁止しています。しかし、現場では制度又は措置(制度等)の理解不足や思い込みによって、不適切な対応が起きてしまうケースが依然として存在します。「職場のハラスメント撲滅月間」最終回では、妊娠・出産に関するハラスメントと育児・介護休業等に関するハラスメントを取り上げます。これらは、男女雇用機会均等法および育児・介護休業法に基づき、事業主に防止措置が義務づけられている重要なテーマです。
職場における妊娠・出産等に関するハラスメント、育児・介護休業等に関するハラスメントとは
職場における妊娠・出産等に関するハラスメント、育児・介護休業等に関するハラスメントとは、「職場」において行われる上司・同僚からの言動(妊娠・出産したこと、育児・介護休業等の利用に関する言動)により、妊娠・出産した「女性労働者」や育児休業等を申出・取得した「男女労働者」の就業環境が害されることです。 妊娠の状態や育児・介護休業制度等の利用等と嫌がらせとなる行為の間に因果関係があるものがハラスメントに該当します。
「職場における妊娠・出産等に関するハラスメント、育児・介護休業等に関するハラスメント」 には「制度等の利用への嫌がらせ型」と「状態への嫌がらせ型」の2つのタイプがあります。
「制度等の利用への嫌がらせ型」とは
1 対象となる制度等
次に掲げる制度等の利用に関する言動により就業環境が害されるものをいいます。
2 防止措置が必要となるハラスメント
(1)解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの
労働者が制度等の利用を「相談した」「申請した」「実際に利用した」ことに対して、上司が解雇や不利益な取扱いを示唆するもの。
●典型的な例
・ 産前休業の取得を上司に相談したところ、「休みを取るなら辞めてもらう」と言われた。
・ 時間外労働の免除について上司に相談したところ、「次の査定の際は昇進しないと思え」と言われた。
(2)制度等の利用を阻害する言動
制度の利用申請を妨げたり、申請の取り下げを求める言動。
●典型的な例
・ 育児休業の取得について上司に相談したところ、「男のくせに育児休業を取るなんて あり得ない」と言われ、取得をあきらめざるを得なくなった。
・ 産後パパ育休の取得を周囲に伝えたところ、同僚から「迷惑だ。自分なら取らない。あなたもそうすべき」と言われ苦痛に感じた。
・ 介護休業の相談をしたら、同僚から「自分なら請求しない。あなたもそうすべき」と繰り返し言われ、取得を断念せざるを得ない状況になった。
(3)制度等の利用後の嫌がらせ
「嫌がらせ等」には、嫌がらせ的な言動だけでなく、アサインから外す(業務に従事させない)等も含まれます。
●典型的な例
・「所定外労働の制限をしている人にはたいした仕事はさせられない」と繰り返し言われ、雑務のみをさせられる。
・「短時間勤務なんて周りを考えていない。迷惑だ」と繰り返し言われ、就業に支障が生じている。
「状態への嫌がらせ型」とは
女性労働者が妊娠したこと、出産したこと等に関する言動により就業環境が害されるものをいいます。
1 対象となる事由

2 防止措置が必要となるハラスメント
(1)解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの
女性労働者が妊娠等したことにより、上司がその女性労働者に対し、解雇や不利益な取扱いを示唆するもの。
●典型的な例
・妊娠を報告したところ「他の人を雇うので早めに辞めてもらうしかない」と言われた。
(2) 妊娠等による嫌がらせ
妊娠等を理由として、上司・同僚が繰り返し・継続的に嫌がらせをするもの。
●典型的な例
・「妊婦はいつ休むかわからないから仕事は任せられない」と繰り返し言われ、仕事をさせてもらえない。
・「妊娠するなら忙しい時期は避けるべきだった」と繰り返し言われ、就業に支障が生じている。
ハラスメントには該当しない業務上の必要性に基づく言動の具体例
● 「制度等の利用」に関する言動
- 業務体制調整のため、上司が育児休業の開始・終了時期を確認する。
- 業務状況を踏まえ、上司が妊婦健診の日程について「この日は避けられるか」と相談する。
- 同僚が自分の休暇調整のために休業期間を尋ね、変更を相談する。
※02と03は、あくまで「依頼・相談」であり、強要しない場合に限ります。
● 「状態」に関する言動
- 妊婦の長時間労働を見て、「負担が大きいので残業を減らしたいがどうか」と提案する。
- 「負担が大きそうなので、より軽い業務に変わってはどうか」と提案する。
- 「つわりで体調が悪そうだが、少し休んではどうか」と配慮する。
※妊婦本人に勤務継続の意欲があっても、客観的に体調が悪いと判断される場合、上記のような配慮は業務上必要な言動となる。
企業に求められる対応
1<事業主の方針の明確化及びその周知・啓発> ハラスメントの内容、方針等の明確化と周知・啓発
2<事業主の方針の明確化及びその周知・啓発> 行為者への厳正な対処方針、内容の規定化と周知・啓発
3<相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備> 相談窓口の設置
4<相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備> 相談に対する適切な対応
5<事後の迅速かつ適切な対応> 事実関係の迅速かつ正確な確認
6<事後の迅速かつ適切な対応> 被害者に対する適正な配慮の措置の実施
7<事後の迅速かつ適切な対応> 行為者に対する適正な措置の実施
8<事後の迅速かつ適切な対応> 再発防止措置の実施
9<併せて講ずべき措置> 当事者などのプライバシー保護のための措置の実施と周知
10<併せて講ずべき措置> 相談、協力等を理由に不利益な取扱いを行ってはならない旨の定めと周知・啓発
11<職場における妊娠・出産等、育児・介護休業等に関する ハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置>業務体制の整備など、事業主や妊娠等した労働者その他の 労働者の実情に応じ、必要な措置を講ずること。
妊娠・出産等に関するハラスメント、育児・介護休業等に関するハラスメントの発生の 原因や背景となる要因を解消するため、業務体制の整備など、事業主や妊娠等した労働者 その他の労働者の実情に応じ、必要な措置を講ずること(派遣労働者にあっては派遣元事 業主に限る)。
※1~10についてはこちらを参照ください(12月は「職場のハラスメント撲滅月間」です/第2回目)
ハラスメントの発生状況
「令和5年度職場のハラスメント実態調査」による、過去3年間に相談があったと回答した企業割合は
- 妊娠・出産・育児休業等ハラスメントの相談あり:10.2%
- 介護休業等ハラスメントの相談あり:3.9%
企業が相談内容をハラスメントと判断した割合は
- 妊娠・出産・育児休業等:50.1%
- 介護休業等:55.5%
妊娠・出産に関するハラスメント、育児・介護に関するハラスメントはいずれも相談件数こそ他の類型のハラスメントより多くはありませんが、企業の安全配慮義務や労働者の権利に直結する、依然として重要な課題です。
出典元:厚生労働省
すぐに使えるハラスメント対応チェックリスト
企業にとっては、いざ相談が入った際に「何から行うべきか」を整理しておくことが、適切な初動と再発防止に直結します。以下は、チェックリストとしてまとめたものになります。
■ 初動(相談を受けた直後)について
☐相談者の希望と安全確保を最優先に確認する。
(必要に応じて、一時的な配置変更や休養などの措置が取れるか検討する。)
☐相談内容を簡潔かつ正確に記録する。
(「誰が」「いつ」「どこで」「どのような言動を行ったか」を可能な範囲で把握し、事実と評価を混同しない形で残す。)
☐相談窓口や外部支援の選択肢を案内する。
(社内窓口だけでなく、外部相談機関の情報もあわせて案内することで、相談者の安心につながる。)
■ 調査について
☐聞き取りは複数名で行い、議事録を作成・保存する。
(調査の公平性・透明性を確保し、聞き取り内容は必ず本人確認を行う。
☐必要に応じて外部専門家に依頼する。
(弁護士など第三者による調査を活用すれば、客観性の担保と紛争リスク低減につながる。)
■ 事後処置について
☐就業規則に基づく適切な処分および被害者への配慮措置を同時に実施する。
(速やかに対応し、処分理由や根拠は運用の透明性を確保する範囲で整理する。
☐個人情報に十分配慮しつつ、職場へ必要な範囲で再発防止策を周知する。
☐一定期間のフォローを行い、再発の有無を継続的に確認する。
(相談者の状況や職場風土の改善状況を追うことが重要。)
さいごに
12月の「ハラスメント撲滅月間」は企業が自社の取り組みを見直す良い機会です。制度や方針の整備だけでなく、管理職の理解促進や相談のしやすい環境づくりなど、日々の運用が重要です。小さな改善の積み重ねが、働きやすい環境づくりにつながります。組織全体でハラスメント防止を進めるきっかけとしてご活用いただければ幸いです。
この記事を書いたのは・・・

社会保険労務士法人エスネットワークス 社会保険労務士 T.Y レストランでの接客から人事労務の世界へ転身しました。難しくなりがちな労務の話も身近に感じてもらえるようにお届けしていきます。