【アウトソーシングほっとニュース】 12月は「職場のハラスメント撲滅月間」です/第2回目

前回は、パワーハラスメントについて取り上げました。
今回のテーマは セクシュアルハラスメント(セクハラ) です。セクハラも、パワハラと同様、事業主に防止措置が義務化されているハラスメントであり、企業の規模や業種を問わず、職場づくりに欠かせない重要なテーマとなっています。また依然としてセクハラの相談件数は多く、対応を強化すべき課題として位置付けられています。
◆ 職場におけるセクハラとは
職場におけるセクハラとは、「職場」において行われる、「労働者」の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応によりその労働者が労働条件について不利益を受けたり、「性的な言動」により就業環境が害されることです。
◆ どのような行為が該当するのか
厚生労働省資料では、次のような言動が例として示されています。
• 体型・容姿・恋愛歴など、性的な事実関係に関する質問
• 性的な冗談やからかい
• 食事・デートへの執拗な誘い
• 性的な関係を強要すること
• 不必要な身体的接触
• わいせつな画像や動画を見せる・送る行為
また行為者は上司・同僚に限らず、取引先や顧客など外部者も含まれます。男性も女性も加害者にも被害者にもなり得るほか、異性に対するものだけではなく、同性に対するものも該当します。
◆ セクハラには2つのタイプ があります。— 「対価型」と「環境型」
「対価型セクハラ」とは
労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応(拒否や抵抗)により、その労働者が解雇、降格、減給、労働契約の更新拒否、昇進・昇格の対象からの除外、客観的に見て不利益な配置転換などの不利益を受けることです。
●典型的な例
・事務所内において事業主が労働者に対して性的な関係を要求したが、拒否されたため、その労働者を解雇すること。
・出張中の車中において上司が労働者の腰、胸などに触ったが、抵抗されたため、その労働者について不利益な配置転換をすること。
・営業所内において事業主が日頃から労働者に係る性的な事柄について公然と発言していたが、抗議されたため、その労働者を降格すること。
「環境型セクハラ」とは
労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなどその労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることです。
●典型的な例
・事務所内において上司が労働者の腰、胸などに度々触ったため、その労働者が苦痛に感じてその就業意欲が低下していること。
・同僚が取引先において労働者に係る性的な内容の情報を意図的かつ継続的に流布したため、その労働者が苦痛に感じて仕事が手につかないこと。
・労働者が抗議をしているにもかかわらず、同僚が業務に使用するパソコンでアダルトサイトを閲覧しているため、それを見た労働者が苦痛に感じて業務に専念できないこと。
◆判断基準
セクハラの状況は様々であるため、個別の事情を踏まえて判断する必要があります。また、「労働者の意に反する性的な言動」および「就業環境を害される」(=セクハラ)の判断に当たっては、受けた側の感じ方を重視しつつも、事業主にセクハラ防止措置を義務づけているので、一定の客観性が必要とされています。性的な言動を受けた回数については、「意に反する身体的接触によって強い精神的苦痛が生じる場合」には、一回でもセクハラと判断されます。食事やデートの誘いなど繰り返すことでセクハラになるような場合でも、「明確に抗議しているにもかかわらず放置された状態」または「心身に重大な影響を受けていることが明らかな場合」には、回数が少なくてもセクハラと判断されます。また、男女の認識の違いにより生じている面があることを考慮すると、被害を受けた労働者が女性である場合には「平均的な女性労働者の感じ方」を基準とし、被害を受けた労働者が男性である場合には「平均的な男性労働者の感じ方」を基準とすることが適当です。
◆ 調査データから見る現状
厚生労働省「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」では、セクハラに関して以下の結果が示されました。
• 事業者の39.5%が、過去3年間でセクハラ相談を受けたと回答
• 相談があった企業のうち、80.9%が「ハラスメントに該当すると判断した」
• 労働者の6.3%がセクハラを経験したと回答
• しかしそのうち51.7%は相談などの行動をしなかった
この結果から、セクハラは今なお職場で発生しやすく、被害が潜在化しやすいことがうかがえます。
◆ 企業に求められる対応
男女雇用機会均等法では、事業主の義務として次の取り組みが求められています。
1<事業主の方針の明確化及びその周知・啓発> ハラスメントの内容、方針等の明確化と周知・啓発
職場におけるハラスメントの内容及び職場におけるハラスメントがあってはならない旨の事業主の方針等を明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
2<事業主の方針の明確化及びその周知・啓発> 行為者への厳正な対処方針、内容の規定化と周知・啓発
職場におけるハラスメントに係る言動を行った者については、厳正に対処する旨の方針及び対処の内容 を、就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書に規定し、管理・監督者を含む労働者に周知・ 啓発すること。
3<相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備> 相談窓口の設置
相談への対応のための窓口(相談窓口)をあらかじめ定めること。
4<相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備> 相談に対する適切な対応
相談窓口の担当者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。また、相談窓口においては、職場におけるハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、その発生のおそれがある場合や、職場におけるハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすること。
5<事後の迅速かつ適切な対応> 事実関係の迅速かつ正確な確認
事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
6<事後の迅速かつ適切な対応> 被害者に対する適正な配慮の措置の実施
職場におけるハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うこと。
7<事後の迅速かつ適切な対応> 行為者に対する適正な措置の実施
職場におけるハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、速やかに行為者に対する措置を適正に行うこと。
8<事後の迅速かつ適切な対応> 再発防止措置の実施
改めて職場におけるハラスメントに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講ずること。なお、職場におけるハラスメントが生じた事実が確認できなかった場合においても、同様の措置を講ずること。
9<併せて講ずべき措置> 当事者などのプライバシー保護のための措置の実施と周知
職場におけるハラスメントに関する相談者・行為者等の情報はその相談者・行為者等のプライバシーに 属するものであることから、相談への対応又はそのハラスメントに関する事後の対応に当たっては、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を労働者に対して周知すること。
10<併せて講ずべき措置> 相談、協力等を理由に不利益な取扱いを行ってはならない旨の定めと周知・啓発
労働者が職場におけるハラスメントに関し相談をしたことや、事実関係の確認に協力したこと等を理由 として、不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。
出典元:厚生労働省
◆ さいごに
セクハラは、職場の誰にでも起こり得る問題であり、組織の信頼や働きやすさを大きく左右します。一方で適切な理解と仕組みづくりがあれば、多くのケースは未然に防ぐことができます。企業にとって大切なのは、誰もが相談しやすいと感じられる環境を整えていくことです。“気になることがあれば、いつでも安心して声を上げられる” そんな雰囲気づくりが、結果として組織全体の健全さにつながっていきます。
▼ 次回予告 最終回は「マタニティハラスメント(マタハラ)など妊娠・出産に関わるハラスメントと育児・介護に関わるハラスメント」を取り上げます。職場の誰もが安心して働ける環境づくりのために、ぜひ続けてご覧いただければ幸いです。
この記事を書いたのは・・・

社会保険労務士法人エスネットワークス 社会保険労務士 T.Y レストランでの接客から人事労務の世界へ転身しました。難しくなりがちな労務の話も身近に感じてもらえるようにお届けしていきます。