【アウトソーシングほっとニュース】「障害者雇用ビジネス」とは?仕組みと課題をわかりやすく解説

最近ニュースで耳にする「障害者雇用ビジネス」。これは、障害のある方の新しい働き方なのでしょうか?
厚生労働省は12 月、「第11 回 今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会」を開催し、障害者雇用ビジネスの実態や課題を公表し、今後の対応策や障害者雇用の質を高めていくための論点を示しました。
この記事では、企業の人事担当者の皆様に向けて、この複雑なテーマをわかりやすく解説します。その仕組みから、メリット、そして今まさに議論されている課題点まで、一つひとつ丁寧に見ていきましょう。
記事を読み終える頃には、次の3つのポイントがすっきりと理解できるはずです。
①障害者雇用ビジネスの基本的な仕組み
②なぜ今、これほど注目されているのか
③社会全体で考えるべき今後の展望
この問題を理解するためには、まず日本の障害者雇用に関する基本的なルールから見ていく必要があります。
1. すべての始まり:障害者雇用の基本ルール「障害者雇用促進法」
「障害者雇用ビジネス」が生まれた背景には、「障害者雇用促進法」という法律があります。この法律は、障害のある方の雇用を社会全体で支えるための大切なルールを定めています。
その根底にあるのは、主に次の3つの理念です。
• 職業生活での自立: 障害のある方が、その能力に合った仕事を通じて自立することを目指す。
• 能力発揮の機会: 経済社会の一員として、その能力を発揮する機会が与えられる。
• 事業主の責務: 企業は、障害のある方の能力を正当に評価し、適切な雇用の場を提供して、その安定を図るよう努めなければならない。
この理念を実現するため、法律は企業に対して「法定雇用率制度」を設けています。これは、従業員数に応じて一定の割合で障害のある方を雇用することを義務付ける制度です。
しかし、多くの企業にとって、障害のある方に合った「職務の選定・開拓、採用、合理的配慮の実施、育成」といった各段階で専門的なノウハウが不足しており、法定雇用率の達成が現実的なハードルとなっているのです。
こうした企業の課題に応える形で登場したのが、「障害者雇用ビジネス」と呼ばれるサービスです。では、その具体的な仕組みを見ていきましょう。
2. 「障害者雇用ビジネス」の仕組みを分解してみよう
「障害者雇用ビジネス」は、主に三者の関係で成り立っています。
• サービス利用企業:障害のある方を雇用しますが、働く場所は自社のオフィスではありません。サービス提供事業者が用意した農園やオフィスで働いてもらいます。
• サービス提供事業者:農園やサテライトオフィスといった「働く場所」と、障害者雇用のノウハウ(採用支援、定着支援など)を利用企業に提供します。利用企業からは、その対価としてサービス料を受け取ります。
• 障害者(働く人): 「利用企業」と雇用契約を結び、「提供事業者」が用意した場所で、専門スタッフのサポートを受けながら働きます。
また、このビジネスモデルには、主に2つの代表的なタイプがあります。
• 農園型:サービス提供事業者が運営する農園で、利用企業に雇用された障害のある方々が、野菜(カブや葉物野菜など)の栽培といった農作業に従事するモデルです。
• サテライトオフィス型:サービス提供事業者が用意したオフィス環境で、複数の利用企業に雇用された障害のある方々が集まり、データ入力などの事務作業を行うモデルです。
農園などで生産された成果物は、次のように活用されています。
• 企業のノベルティグッズとして得意先に配布する
• 福利厚生として社員食堂で利用したり、社員に配布したりする
• サービス提供事業者が買い取って販売する
この仕組みは、近年急速に広がっています。どのくらいの規模で、どのような企業が利用しているのでしょうか。
3. データで見る「障害者雇用ビジネス」の今
厚生労働省の調査によると、このビジネスは驚くべきスピードで拡大しています。令和5年3月末から令和7年10月末までの約2年半で、関連する数値は軒並み倍増に近い伸びを見せています。
わずか2年半ほどの間に、事業者数や働く人の数がほぼ倍増していることがわかります。では、どのような企業がこのサービスを利用しているのでしょうか?
• 企業の規模:従業員「1,000人以上」の大企業が最も多く、全体の38.9%を占めています。500人以上の企業を合わせると、全体の半数以上にのぼります。
• 企業の業種:利用企業数が最も多いのは以下の3業種です。
①製造業
②卸売業・小売業
③情報通信業
このように拡大する一方で、このビジネスモデルは多くの議論を呼んでいます。一体、何が問題視されているのでしょうか。
4. なぜ議論に?メリットと課題を両面から考える
ここでは、「障害者雇用ビジネス」に対する賛成意見と懸念点の両方を見ていきましょう。
メリット:企業の「伴走者」としての価値
サービスを提供する業界団体(日本障害者雇用促進事業者協会)は、このビジネスの肯定的な側面を次のように説明しています。
• 雇用の機会創出:従来は雇用が難しかった障害の程度が重い方々に対しても、専門的なサポートがある環境を提供することで、新たな雇用の機会を生み出しています。
• ノウハウの提供:企業が抱える「どんな仕事を任せればいいかわからない」「どうやって支援すればいいかわからない」といったノウハウ不足を補い、障害者雇用をスムーズに進める「伴走者」の役割を果たします。
• キャリアパスの可能性:実際に、サテライトオフィスでの安定した就業経験を経て、スキルを身につけ、利用企業の本社部門へ異動するといったキャリアアップの事例も生まれています。
課題:法律の理念とのズレ
一方で、厚生労働省などは、法律が目指す本来の姿との間にズレが生じているのではないか、といくつかの懸念点を指摘しています。
• インクルージョンからの乖離:障害のある社員が他の社員とは全く異なる場所(農園や外部オフィス)で働くため、障害の有無にかかわらず「共に働く」という本来目指すべき共生社会(インクルージョン)の理念から離れてしまうのではないか、という懸念です。
• 雇用責任の希薄化:日常的な業務の指示や勤怠管理などをサービス提供事業者に任せきりにしてしまうと、雇用主である企業の関与が薄れ、キャリア形成などへの責任感が弱まる「丸投げ」状態に陥るリスクがあります。具体的には、雇用主である利用企業が自社の管理者を置かず、勤怠管理や業務指示をサービス提供事業者に委託しているケースや、複数の企業の社員が同じ場所で区別なく作業している事例が報告されています。
• 形式的な雇用への懸念:生み出された成果物(野菜など)が廃棄されたり、重要性の高くない配布物として使われるに留まる場合、それは法定雇用率の達成のみを目的とした「形式的な雇用」となりかねません。そうなると、障害のある方の能力発揮や成長の機会が制限されてしまう可能性があります。
こうした課題に対し、国や業界団体はどのように向き合おうとしているのでしょうか。
5. 望ましい雇用のあり方へ:今後の対策と展望
様々な立場から、より良い障害者雇用の実現に向けた模索が始まっています。
<国の動き>
厚生労働省は、望ましい障害者雇用の実現に向けて、以下のような対策を検討しています。
• 実態把握の強化:このビジネスを利用する企業に対し、どこで、どのような業務を、誰に任せているのか、といった利用状況の報告を求める制度の導入。
• ガイドラインの設定:望ましい運営のための具体的なガイドラインを設定すること。例えば、障害者雇用に精通した有資格者を配置すること、最終的に利用企業が自社で直接雇用できるよう移行を支援すること、成果物が企業の事業活動にどう活用されるか提案することなどが検討されています。
• 利用企業への周知:上記のガイドラインに沿わない事業者の利用は望ましくない、と明確に企業へ働きかけること。また、一定期間利用した後は、自社の事業所での雇用に移行することが望ましいという方針を示すことも含まれます。
<業界の動き>
サービス提供事業者も、自ら業界の質を高めようと「日本障害者雇用促進事業者協会(JEAP)」を設立し、自主的な取り組みを進めています。
• 認定制度の創設:法令を遵守し、健全な運営を行う事業者を協会が認定する制度。利用企業が質の高いサービスを安心して選べるようにすることを目指します。
• 人材育成:現場で働く支援員の専門知識やスキルを高めるための研修制度を設け、支援の質の向上を図ります。
まとめ:社労士法人として皆さまと一緒に考えたいこと
本稿では、「障害者雇用ビジネス」の仕組みから現状、そして課題と今後の展望までを見てきました。
このビジネスは、法定雇用率を達成したい企業のニーズに応え、障害のある方に働く場を提供するという側面を持つ一方で、法律が本来目指す「共生社会」の理念とは異なる側面も持つ、非常に複雑なテーマであることがわかります。
重要なキーワードは、「障害者雇用の『質』」です。
単に雇用される人の「量(雇用率)」を達成するだけでなく、そこで働く一人ひとりの能力がきちんと発揮され、成長し、キャリアを築いていけるような「質」の高い雇用とは何か。社会全体でこの問いに向き合う必要があります。
障害のある人もない人も、誰もがその人らしく能力を発揮できる社会とはどのようなものか。この問題をきっかけに、ぜひ一度私たちエスネットワークスと一緒に考えてみませんか。
この記事を書いたのは・・・

社会保険労務士法人エスネットワークス
特定社会保険労務士M・K
事業会社での人事労務キャリアを活かし、クライアントの労務顧問を務めている。労働法をめぐる人と組織に焦点を当てる「生きた法」の実践をモットーとし、社会保険労務士の立場からセミナーや講演を通して、企業に“予防労務”の重要性を呼び掛けている。日本産業保健法学会会員