【アウトソーシングほっとニュース】2026年最新調査に見る、人事部に求められる視点の転換
近年、人事部門に求められる役割が大きく変わりつつあります。これまでは「人を採用し、労務管理を滞りなく進める」ことが中心でしたが、現在は人材を「コスト」ではなく、企業の成長を支える「資産」として捉え、その価値を高めていく視点、いわゆる「人的資本経営」の考え方が重視されるようになっています。
本記事では、パーソル総合研究所が7月30日に発表した「人事部トレンド定量調査2026」(企業に勤務する正規雇用者等、約1,900名を対象)の結果をもとに、これからの人事に求められる視点を、できるだけわかりやすく整理してご紹介します。日々の実務でお忙しい人事ご担当者様に、自社の状況を振り返るきっかけとしてお役立ていただければ幸いです。
1. 経営が求めるものと、人事が向き合っているものにズレがある
調査結果を見ると、経営層が課題と感じていることと、人事部門が日々取り組んでいることの間に、少し違いがあることが分かります。
分類 | 課題内容 | 割合 |
経営課題 | 人材の確保・採用競争への対応 | 53.9% |
人材育成・リスキリング・最適配置 | 45.3% | |
DXやAIを活用した業務の見直し | 38.2% | |
人事課題 | 従業員満足度・エンゲージメントの向上 | 36.0% |
最適な人員配置 | 35.7% | |
従業員の定着・離職防止 | 35.6% |
経営層は「人材をどう確保し、変化に対応するか」という視点を強く持っているのに対し、人事部門は「今いる従業員をどう定着させ、力を発揮してもらうか」という点に力を注いでいる、という構図が見えてきます。
どちらも重要な課題であることに変わりはありませんが、労働力の確保が難しくなっている今、採用だけに頼らず、社内の人材育成やDX・AIの活用とあわせて、定着支援やエンゲージメント向上に取り組むことが、これまで以上に大切になっています。特に、離職防止やメンタルヘルスへの対応は、安全配慮義務という会社の法的な責任にも関わる部分ですので、優先度の高いテーマとして位置づけていただくとよいかと思います。
2. なぜ人事部は「戦略的な取り組み」に踏み出しにくいのか
調査では、人事部門が実際にどこまで経営の意思決定に関わっているかについても聞いています。
分野 | 人事部門が主導している割合 |
新卒採用 | 79.1% |
人事考課・評価の調整 | 48.5% |
経営戦略・事業戦略の策定 | 14.4% |
DX・AI活用の推進 | 9.0% |
採用や評価といった日常的な業務では高い関与を見せる一方、経営戦略やDX推進といった、より会社の将来に関わる分野への関与は、まだ限定的であることが分かります。
これは、担当者の意欲の問題というより、次のような構造的な事情によるものと考えられます。
・専門知識を持つ人材が不足している(45.2%)
・日々の実務に追われ、人員に余裕がない(44.6%)
・これまでの運用を維持することが優先されがちな組織風土(39.7%)
目の前の業務に追われる中で、中長期的な企画を考える時間を確保することは簡単ではありません。まずは日常業務の効率化を進め、少しずつでも企画や提案に充てられる時間を生み出していくことが、現実的な第一歩になるかと思います。
3. 業績とのつながりが見えてきた「5つの取り組み」
今回の調査で注目したいのは、人事部門が経営に近い形で機能している企業ほど、業績が良い傾向にあるという結果です。人事の戦略的な関わりが強い企業は、そうでない企業に比べて、利益率が上がったと回答した割合が28.4ポイントも高くなっています。
こうした企業に共通する取り組みとして、次の5つが挙げられています。
1. 職務内容の明確化
誰がどのような役割を担っているかを明文化すること。
属人的な運用から脱し、公平な処遇の土台にもなります。ただし、評価にしっかりメリハリをつけられている企業は26.6%にとどまっており、多くの企業でこれからの課題となっています。
2. 市場を意識した処遇の見直し
社内の物差しだけでなく、外部の市場水準も踏まえた報酬設計を行うこと。
3. 本人の意向を反映したキャリア形成
会社主導の異動だけでなく、社内公募など、本人が希望するキャリアを選べる仕組み。
現状、こうした仕組みを実現できている企業は25.9%です。
4. 柔軟な働き方・雇用形態の受け入れ
副業や兼業など、多様な働き方を認めること。
5. 人材情報の一元管理
配置や育成の判断を、勘や経験だけでなく、データに基づいて行える体制づくり。
なお、「管理職への登用が、その人の経験や人柄によって決まる」と答えた企業が57.1%ある一方、「昇格・降格の基準が社内で明確に共有されている」企業は22.2%にとどまっています。制度としては整えていても、実際の運用は従来通り、というケースは少なくないようです。まずは自社の現状を点検してみることから始めてみてはいかがでしょうか。
4. 最新の動き:AI活用・賃上げ・働き方改革
AIの活用が進む中での人員構成の変化
AI活用が進んでいる企業では、一般事務系の職種で42.5%が人員の削減を見込む一方、デジタル・IT系の専門職では56.3%が増員を見込んでいます。単純な人員削減というより、事務作業に充てていた人的資源を、より専門的な業務にシフトしていく動きと捉えることができます。
賃上げの理由が変化しています
賃上げを予定・実施している企業は73.0%にのぼりますが、その判断基準に変化が見られます。「業績の良し悪し」を理由に挙げる企業は2022年比で23.3ポイント減少しており、代わって「人材の確保・離職防止」を理由とする企業が増えています。賃金は、業績に応じた配分というより、人材を確保するための投資という位置づけに変わりつつあるようです。
働き方改革による管理職への負担
残業削減やフレックスタイムなどの取り組みが進む一方で、その影響として「管理職の負担が増えた」と答えた企業が40.7%あります。特に残業削減の取り組みが多い企業ほど、この割合は51.2%まで高まる傾向にあります(取り組みが少ない企業では25.7%)。制度を導入するだけでなく、管理職への業務配分やサポート体制もあわせて見直していくことが大切です。
5. これから取り組んでいただきたい5つのこと
最後に、今回の調査結果を踏まえ、人事部門として取り組んでいただきたいことを5点にまとめます。
①自社の人事の方針を、あらためて言葉にしてみる
何のためにこの制度・施策を行うのか、軸となる考え方を整理しておくと、個々の施策がぶれにくくなります。
②現場との距離を縮める
人事部門と各事業部門が、情報や課題を共有できる関係づくりを進めましょう。
③人材情報を整理し、活用できる形にする
散らばった情報をまとめておくことで、配置や育成の判断がしやすくなります。
④経営層との対話を増やす
専門的な言葉ではなく、事業の状況に沿った言葉で、人事の課題や提案を伝える工夫をしてみてください。
⑤処遇を見直すタイミングを作る
市場水準とのズレがないか、定期的に確認する機会を設けましょう。
人材にまつわる課題は一朝一夕に解決するものではありませんが、少しずつでも現状を可視化し、優先順位をつけて取り組んでいくことが、結果として会社の成長にもつながっていきます。制度設計や運用面でお悩みの点がございましたら、社労士法人エスネットワークスまでお気軽にご相談ください。
社会保険労務士法人エスネットワークス
特定社会保険労務士M・K
事業会社での人事労務キャリアを活かし、社会保険労務士として活動中。労働法をめぐる人と組織に焦点を当てる「生きた法」の実践をモットーとし、専門家の立場からセミナーや講演を通して、企業に“予防労務”の重要性を呼び掛けている。日本産業保健法学会会員。