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【社エス通信】2026年11月号 こども性暴力防止法(日本版DBS)〜12月25日の施行に向けて、人事担当者が準備しておきたいこと〜

目次






「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」(こども性暴力防止法、令和6年法律第69号)は、令和8年12月25日に施行されます。この記事では、こども家庭庁が公表している施行ガイドライン(令和8年9月改訂)などをもとに、人事労務の実務に関わるポイントを整理しています。

1. はじめに

学校や保育所、学童保育、学習塾、スポーツクラブなど、こどもと関わるお仕事をされている事業者の人事担当者の皆様。12月25日の施行が近づき、「何から手をつければいいのだろう」と感じていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
こどもへの性暴力は、こどもの心と体に長く深い傷を残します。しかも、こどもの側からは打ち明けにくく、周りからも気づかれにくいという難しさがあります。この法律は、こどもと接する仕事に就く人について、事業者が前もって確認し、被害を防ぐための仕組みを整えることを求めるものです。
ここで、人事担当者の皆様にぜひ心に留めておいていただきたいことがあります。それは、この法律に基づく対応であっても、労働基準法や労働契約法といった労働法のルールがなくなるわけではない、という点です。「法律で求められているから」というだけで内定取消しや解雇ができるわけではなく、労働法上の要件もあわせて満たす必要があります。だからこそ、施行前の準備がとても大切になります。順を追って見ていきましょう。

2. 制度のあらまし

どの事業者が対象になるのか

対象となる事業者は、法律で義務づけられる事業者と、国の認定を受けて取り組む事業者の2つに分かれます。

区分

主な事業者の例

位置づけ

学校設置者等

学校(幼稚園・小中高校など)、認可保育所、認定こども園、児童養護施設・児童館などの児童福祉施設、児童発達支援・放課後等デイサービス など

法律上の義務として措置を講じる

民間教育保育等事業者

認可外保育施設、放課後児童クラブ(学童保育)、学習塾、スポーツクラブ、習い事教室 など

国の認定を受けることで、同じ仕組みを使って措置を講じる(任意)

義務の対象となる事業者は「法定事業者マーク」、認定を受けた事業者は「認定事業者マーク」を表示することができます。フクロウをモチーフにしたこのマークは「こまもろう」と名づけられていて、保護者の方に取組みを知っていただく目印になります。

どのような行為が対象になるのか

法律で防止の対象となる「児童対象性暴力等」には、刑法上の性犯罪にあたる行為(不同意性交等・不同意わいせつなど)だけでなく、次のような行為も含まれます。
・16歳未満のこどもへの面会要求、児童ポルノに関する行為、盗撮などの性的な撮影
・衣服の上からも含めた性的な部位への接触、盗撮目的でのカメラの設置
・ 性的な羞恥心を害する言動(口頭だけでなく、SNSやメールによるものも含みます)

どの従業員が対象になるのか

対象となる「対象業務従事者」かどうかは、役職名ではなく、こどもとの関わり方の実態で判断します。目安になるのが、次の3つの要件です。
・支配性:指導などを通じて、こどもに対して優越的な立場に立つことがある
・継続性:日常的・定期的に、こどもと接する
・閉鎖性:他の職員や保護者の目が届かない状況で、こどもと接することがある

職種のタイプ

職種の例

考え方

こどもと常に接する職種

教員、保育士、塾講師、放課後児童支援員 など

業務の性質上、3要件を満たすため一律に対象

実態に応じて判断する職種

事務職員、調理員、送迎バスの運転手・添乗員、看護師、警備員 など

こどもと直接接する機会があるかなど、事業所ごとの実態で判断

なお、雇用形態による違いはありません。正社員だけでなく、契約社員、パート・アルバイト、定年後の再雇用の方、派遣労働者の方も、3要件を満たす業務に就く場合は対象になります。

3. 事業者に求められる措置

事業者が講じる措置は、大きく「安全確保措置」と「情報管理措置」に分かれます。

措置

主な内容

日頃からの取組み

・服務のルールづくり、環境の整備、保護者やこどもへの周知
・相談体制の整備(相談窓口の設置と周知)
・国が用意する動画などを使った研修
・面談などによる早めの気づき

被害が疑われるとき

・中立的な事実調査
・被害を受けたこどもの保護と支援

犯罪事実確認

・採用時や配置転換時に、こども家庭庁へ特定性犯罪の前科の有無を照会
・施行時にすでに働いている方は、学校設置者等は施行日から3年以内、認定事業者は認定の日から1年以内に確認。その後は5年ごとに再確認

防止措置

・性暴力の「おそれ」がある従業員を、こどもと接する業務に就かせない(配置転換など)

情報管理措置

・確認結果を閲覧できる人を必要最小限に限定
・情報管理の規程づくり、目的外利用の禁止、適切な廃棄
・漏えいが起きた際の国への報告(秘密を漏らした場合の罰則もあります)

知っておきたい「2週間」の仕組み 
照会の結果、前科が見つかった場合、こども家庭庁はいきなり事業者に結果を伝えるのではなく、まず本人に内容を知らせます。本人には2週間の期間があり、内容に誤りがあれば訂正を求めることができます。この期間中に本人が内定を辞退したり、申請を取り下げたりした場合、事業者に確認書は交付されません。事業者には「辞退された」という事実だけが伝わる形になります。照会の手続き中に内定辞退があった場合は、こうした仕組みがあることを頭に置いて、落ち着いて対応してください。

4. 「おそれ」がある場面と、取るべき対応

ガイドラインでは、性暴力の「おそれ」がある場面を4つに分け、それぞれの対応の考え方を示しています。

場面

どんなときか

対応の考え方

① 前科が判明したとき

犯罪事実確認で、対象期間内の特定性犯罪の前科が分かった

原則として、こどもと接する業務に就かせない

② こどもや保護者から被害の申出があったとき

特定の従業員について、被害の訴えがあった

まずは一時的にこどもとの接触を避ける(自宅待機など)。この段階では処分を決めず、事実調査へ

③ 調査で性暴力があったと判断されたとき

事実調査の結果、性暴力があったと合理的に判断された

原則として、こどもと接する業務に就かせない。就業規則に沿った処分も検討

④ 不適切な行為があったとき

性暴力ではないが、続くと性暴力につながりかねない行為があった

重大なものは③に準じて対応。初めてで軽微なものは、指導・研修・経過観察から

「不適切な行為」とは、たとえばこんなこと

・こどもとSNSやメッセージアプリで私的なやりとりをする(連絡先の交換を含む)
・ 私物のスマートフォンなどで、業務と関係なくこどもの写真を撮る
・ 放課後や休日に、こどもと二人きりで会う
・ 標準的な保育や介助の手順を超えた、必要のない身体接触をする
・ 合理的な理由なく、特定のこどもばかりを担当しようとする

こうした行為を、あらかじめ服務のルールとして具体的に示しておくことが大切です。そのうえで、初めての軽い行為に対していきなり重い処分を科すと、労働法上「やりすぎ」と判断されるおそれがあります。まずは注意・指導から始め、その内容をきちんと記録に残していく、という段階的な対応を基本にしてください。

5. 人事上の措置を取るときの、労働法上のポイント

防止措置として、内定取消しや配置転換、解雇などを検討する場面もあるかもしれません。それぞれ、労働法上どのような点に気をつければよいかを整理します。

内定取消し・試用期間中の解約

内定取消しが認められるのは、「内定の時点では知ることができなかった事実」があり、それを理由とすることに客観的な合理性と社会通念上の相当性がある場合に限られます。採用選考の段階で前科の有無を確認していなかった場合、後から判明したことを理由に内定を取り消すのは、認められにくくなります。試用期間中の解約も同じ考え方です。有期契約の場合は、さらに「やむを得ない事由」が求められます。

配置転換

こどもと接しない業務へ移ってもらう配置転換は、法律上の義務を果たすためのものなので、業務上の必要性は認められやすいと考えられます。ただし、保育士などの職種に限定して雇う合意がある場合には注意が必要です。令和6年の最高裁判決で、職種を限定する合意がある場合、本人の同意なく他の職種へ配置転換することはできないと示されています。この場合は、本人との丁寧な話し合いが欠かせません。

解雇・雇止め

解雇には、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です(労働契約法第16条)。前科が判明したというだけで直ちに解雇するのではなく、まずは配置転換など、解雇を避けるための手立てを検討することが基本になります。あわせて、30日前の解雇予告または解雇予告手当(労働基準法第20条)や、業務上のけがや病気、産前産後で休んでいる期間などの解雇制限(同第19条)にも注意が必要です。有期契約の期間途中の解雇には「やむを得ない事由」が、契約が繰り返し更新されている場合の雇止めには合理的な理由が求められます。

懲戒処分

懲戒処分を行うには、懲戒の理由と種類が就業規則に定められ、従業員に周知されていることが前提です。また、処分の前には本人に弁明の機会を設けることが大切です。事実調査のための聞き取りと、処分を決める前の弁明の機会は、別のものとして考えてください。なお、減給や出勤停止の処分だけでは、こどもとの接触を避けることにはなりません。懲戒解雇以外の処分を選ぶ場合は、配置転換などをあわせて行う必要があります。

自宅待機中の賃金

事実調査や配置転換の準備のために自宅待機を命じる場合、それは会社側の判断による措置です。そのため、待機期間中も賃金を支払うことが原則です(民法第536条第2項)。無給とすることが認められるのは、ごく限られた場合だけですので、有給で命じることを基本にしてください。

6. 施行前に整えておきたいこと

前科が判明したときに会社が取れる対応は、事前に準備をしていたかどうかで大きく変わります。

 

事前の準備をしていた場合

準備をしていなかった場合

内定者

申告と事実が違っていれば「重要な経歴の詐称」として、内定取消しを検討できる

経歴の詐称とはいえず、内定取消しは難しい。配置転換などを検討することに

在職中の従業員

誓約書などで申告を求めていたのに事実と違っていた場合、懲戒の対象となり得る

懲戒の理由にはならない。配置転換など、解雇を避ける手立てを尽くすことが前提に

ガイドラインには、書類や就業規則の参考例も示されています。主に次のものを整えておきましょう。
①募集要項・求人票:採用の条件として「特定性犯罪の前科がないこと」を示しておきます。
②誓約書:前科がないことと、申告内容に偽りがないこと、偽りがあった場合は内定取消しや懲戒の対象となることを確認してもらいます。
③内定通知書:内定取消しの理由として、重要な経歴の詐称や、犯罪事実確認の手続き(戸籍の提出など)に応じないことを明記します。
④就業規則:対象となる職種の範囲、禁止する行為(不適切な行為を含む)、犯罪事実確認の手続きに協力する義務、試用期間中の解約理由、懲戒の理由などを定めます。正当な理由なく手続きに協力しない場合は、こどもと接する業務に就かせないことや、業務命令違反として懲戒の対象となることも明記しておくと安心です。

あわせて、注意・指導を行ったときは、日時・場所、具体的な行為、指導した内容、本人の言い分、繰り返した場合の対応を記録に残し、本人にも書面で伝えておきましょう。こうした記録の積み重ねが、いざというときの判断の支えになります。

7. おわりに

施行まで、残された時間はあと2か月ほどです。就業規則を改定するには、従業員代表の意見を聴き、労働基準監督署へ届け出て、従業員に周知するという手順が必要になります。施行日の直前になって慌てることのないよう、できるところから少しずつ準備を進めていきましょう。
この法律は、こどもたちが安心して過ごせる場所を、大人みんなで守っていくためのものです。そのための手続きを、働く方々の権利にも配慮しながら、丁寧に整えていくこと。それが、事業者の皆様への信頼にもつながっていきます。具体的な事案への対応や規程の見直しで迷われたときは、社会保険労務士や弁護士などの専門家に、早めにご相談ください。

【参考】こども家庭庁「こども性暴力防止法」
こども家庭庁「こども性暴力防止法施行ガイドライン」(令和8年9月改訂)


この記事を書いたのは・・・社会保険労務士法人エスネットワークス
特定社会保険労務士M・K

事業会社での人事労務キャリアを活かし、社会保険労務士として活動中。労働法をめぐる人と組織に焦点を当てる「生きた法」の実践をモットーとし、専門家の立場からセミナーや講演を通して、企業に“予防労務”の重要性を呼び掛けている。日本産業保健法学会会員

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