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【アウトソーシングほっとニュース】10月は「個別労働紛争処理制度」周知月間です

人事労務ご担当の皆様、10月が「個別労働紛争処理制度」の周知月間であることを、ご存じでしたでしょうか。
毎年10月、中央労働委員会と各都道府県の労働委員会は、この制度を広く知ってもらうための取組を、全国各地で集中的に行っています。労働相談会やパネル展、出前講座、人事労務担当者向けのセミナーなど、内容もさまざまです。
「紛争」「あっせん」といった言葉が並ぶと、少し身構えてしまうかもしれません。けれども、この制度はむしろ、トラブルが大きくなる前に、労使が落ち着いて話し合うための場を用意してくれるものです。せっかくの機会ですので、この周知月間に合わせて、制度の中身を一緒に確認しておきましょう。

1. はじめに:なぜ今、「個別労働紛争」を正しく理解しておきたいのか

多様な働き方が広がる今の職場では、従業員お一人おひとりとの間に生じる意見の食い違いに、頭を悩ませる場面も少なくないと思います。労務トラブルと聞くと、「裁判を起こされたらどうしよう」と不安を感じてしまうかもしれません。ただ、正しい基礎知識を持ち、あらかじめ備えておけば、必要以上に恐れることはありません。むしろそれは、働きやすい組織をつくるための前向きな準備になります。

個別労働紛争が増えている、その背景

労働者個人と事業主との間の紛争(個別労働紛争)が増えている背景には、単一の原因ではなく、次のような社会の変化が重なっています。
・企業組織の再編:M&Aや組織改編にともなう、業務内容・労働条件の変更
・雇用形態の多様化:正社員だけでなく、パート・アルバイト、契約社員、派遣社員など、働き方が多様になった
・人事労務管理の個別化:成果主義や個別契約の導入など、一人ひとりに合わせた待遇や目標設定が広がった
・労働組合組織率の低下:集団で交渉する場が減り、個人と企業が直接向き合う機会が増えた
こうした変化のなかで、個々の労働者と会社との間に、労働条件や職場環境をめぐるトラブルが表面化しやすい状況が生まれているのです。

人事労務担当者に求められる、視点の切り替え

紛争への対応を、「万が一裁判になったときの法的な争い」とだけ捉えてしまうのは、少しもったいないことです。トラブルの芽が生じた段階で、行政の相談窓口や、話し合いをベースにした早期解決の手続きを知っているかどうかで、その後の展開は大きく変わります。早い段階で動ける体制は、従業員に安心感を与えると同時に、会社の信頼を守ることにもつながります。

2. 「個別労働紛争」とは? ― 身近に起こりうる具体例

「個別労働紛争」とは、働く方個人と使用者(事業主・企業)との間で、労働条件や職場環境などをめぐって生じるトラブルのことです。大がかりなストライキのような労使対立ではなく、日々の労務管理のなかで、どの会社でも起こりうる身近なテーマです。

紛争の分類

具体的なトラブルの内容・例

解雇・雇い止め

・目標未達成(ノルマ不達成)だけを理由とした突然の解雇
・有期労働契約における、予期せぬ契約更新の拒否(雇い止め)

ハラスメント

・パワーハラスメント(言動による精神的・身体的な攻撃)
・セクシュアルハラスメント

労働条件の変更・待遇

・賃金の引き下げ、退職金に関する不利益変更
・配置転換、労働契約の変更
・有給休暇の取得をめぐる対立

「ノルマ未達成だから解雇」は認められるのか

たとえば、「売上目標を達成できなかったから」という理由だけで、すぐに従業員を解雇することはできるでしょうか。
実務上、使用者が労働者を解雇するには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であることが求められます。「今月のノルマを達成できなかった」「日頃の仕事ぶりが良くない」といった主張だけで、ただちに解雇が認められることはありません。
解雇という重い措置をとる前に、会社として指導や育成、業務改善の機会を十分に与えたかどうか。このプロセスそのものが、あっせんや裁判の場で極めて重要な判断材料になります。目標達成に向けた工夫や支援を会社として行い、本人の努力と雇用継続の可能性を探る。その丁寧な積み重ねが、結果的に会社を守ることにもつながります。

3. トラブル解決を支える公的な枠組み「労働委員会」

労使の対立が感情的なものになってしまうと、当事者だけで冷静に解決するのは難しくなります。そんなとき、裁判のように長い時間と費用をかけることなく、中立・公正な立場から解決を手助けしてくれるのが「労働委員会」です。

どんな機関で、誰が使えるのか

労働委員会は、各都道府県に設置されている行政機関です(※東京都、兵庫県、福岡県では、労働相談センターなど別の機関・部署が窓口を担っています)。
・費用:無料で利用できます。
・秘密保持:秘密を厳守したうえで手続きが進められます。
・ 対象者:正社員だけでなく、パート・アルバイト、契約社員、派遣社員などあらゆる雇用形態の労働者、そして事業主(経営者・人事担当者)の側からも利用・相談ができます。

労働委員会の2つの機能

①労働相談:職場でのトラブルについて気軽に相談できる窓口です。電話のほか、一部の労働委員会ではWeb・オンライン相談にも対応しています。
②個別労働紛争のあっせん:専門家が労使の間に入り、双方の言い分を聞いたうえで問題点を整理し、歩み寄りによる解決を促す手続きです。

公・労・使の三者構成だから、会社側の事情も伝わります

労働委員会の大きな特徴は、あっせんを担当する「あっせん員」が、次の三者で構成されている点です。
・公益委員:弁護士、大学教授などの学識経験者
・労働者委員:労働組合の役員など
・使用者委員:会社役員の経験者、経営者など
「労働側の意見ばかりが優先されるのでは」と心配される経営者の方もいらっしゃいますが、あっせんには、会社経営や労務管理の実務を知り尽くした「使用者委員」も加わります。経営者や人事の側の事情もきちんと理解されたうえで助言が得られるため、労使双方が納得できる円満な解決につながりやすいのです。

4. 「あっせん」の進み方と、その速さ

「あっせん」は、訴訟と比べると、とてもシンプルで早く進む手続きです。実際の流れを見てみましょう。
①あっせん申請:申請者が労働委員会へ、簡単な「あっせん申請書」を提出します。
②あっせん員の指名と事前調査:指名されたあっせん員が、労働者と事業主の双方に、あらかじめ事情を聞き取ります。
③あっせん日:当日、あっせん員が双方から個別に主張や事情を聞き、問題点を整理したうえで歩み寄りを促します。
④結末:労使双方が「あっせん案」を受け入れるか、自主的な話し合いで合意に至れば「解決」。申請者が申請を取り下げれば「取下げ」(自主解決を含みます)。相手方が応じない場合や、合意に至らない場合は「打切り」となります。

データで見る、迅速さと低コスト

長い期間を要する裁判手続きに比べ、労働委員会のあっせんは非常に迅速に処理されています。
・平均処理期間:55.3日(令和6年実績)
・1か月以内の解決率:24.1%
・ 2か月以内の解決率:65.1%
およそ3分の2のケースが2か月以内に結論に至っており、費用が無料であることとあわせて、時間的にも金銭的にも負担の軽い、合理的な解決手段だと言えます。

お金だけではない、柔軟な解決ができます

訴訟では金銭による解決が中心になりがちですが、あっせんでは、これからの労使関係や双方の実情に配慮した、柔軟な内容で合意をつくることができます。
・雇用の継続、職場への復帰
・退職の確認および条件の調整
・金銭の支払い
・職場環境の改善(当事者だけでなく、職場全体の労働条件や環境の改善につながるケースもあります)

5. 周知月間を活かす ― 紛争を防ぎ、健全な職場をつくる

トラブルが起きた後の対応も大切ですが、いちばん望ましいのは、紛争を未然に防ぎ、従業員が安心して働ける環境を整えておくことです。その点で、10月の周知月間は絶好の機会になります。

周知月間に、全国で行われていること

・無料の労働相談会:全国各地で相談窓口が拡充されます(一部地域では社労士会との共催や、夜間相談も行われています)。
・労使関係セミナー:人事労務のご担当者や経営者を対象に、実務に直結するテーマで講演やパネルディスカッションが行われます(参加無料・要予約)。非正規労働の待遇見直し、パワハラ・カスタマーハラスメント対策、職場のメンタルヘルス対策など、いま押さえておきたい内容が並びます。
・マンガ、動画の公開:あっせんの流れをやさしくまとめたマンガやYouTube動画が、中央労働委員会のホームページで新たに公開されています。社内研修や管理職向けの資料として、そのままお使いいただけます。
・パネル展、出前講座:都道府県の労働委員会では、パネル展や出前講座、街頭での広報活動なども行われています。

日頃から整えておきたい、3つの備え

①就業規則・労働条件の明確化:労働契約を結ぶときの労働条件の明示を徹底し、就業規則が実情や法改正に合っているかを定期的に確認・改定します。
②ハラスメント防止とメンタルヘルス体制:パワハラ・セクハラ等の防止の方針を周知し、社内相談窓口が実際に機能しているかを点検します。あわせて、メンタルヘルス不調の早期発見の体制も整えます。
③労使コミュニケーションの活性化:日頃から丁寧な対話を心がけ、不満や疑問がたまる前に、面談などで解消できる風土をつくります。

6. おわりに:トラブルを恐れず、対話を通じたより良い職場づくりへ

個別労働紛争は、どんな会社にも起こりうる、身近な課題です。大切なのは、トラブルを隠したり恐れたりすることではなく、いざというときには労働委員会の労働相談やあっせん制度といった、公平で公正な解決手段があると知っておくことです。
法的なルールを守ることはもちろん大切ですが、それ以上に、日頃から従業員お一人おひとりと誠実に向き合い、丁寧な対話を重ねること。それが結果として、トラブルの予防と、魅力ある職場づくりにつながっていきます。10月の周知月間は、そのことをあらためて考えてみるのにふさわしい時期です。
もし社内でトラブルの兆しが見えたときは、人事担当者おひとりで抱え込んだり、独断で性急な処分に踏み切ったりすることは、どうか避けてください。早い段階で社会保険労務士などの専門家や、労働委員会の無料相談といった公的機関に相談し、客観的な助言を得ること。それが、トラブルを大きくしない最大の鍵になります。
公的なサポートや専門家の知見を上手に使いながら、労使双方が安心できる職場づくりを、一緒に進めていきましょう。

出典:厚生労働省・中央労働委員会「10月は『個別労働紛争処理制度』周知月間です」


社会保険労務士法人エスネットワークス
特定社会保険労務士M・K

事業会社での人事労務キャリアを活かし、社会保険労務士として活動中。労働法をめぐる人と組織に焦点を当てる「生きた法」の実践をモットーとし、専門家の立場からセミナーや講演を通して、企業に“予防労務”の重要性を呼び掛けている。日本産業保健法学会会員。





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