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【アウトソーシングほっとニュース】黒字なのに「希望退職」?

「人手不足が深刻」という言葉を、連日のようにニュースで耳にします。その一方で、大手企業が「早期・希望退職」を募集したという報道も目にする——。この二つが並んでいるのを見て、不思議に思われたことはないでしょうか。「人が足りないと言われているのに、なぜ企業は人を減らそうとするのだろう」。そんな疑問が浮かぶのは、ごく自然なことだと思います。

まずは、2026年1〜9月の上場企業の募集状況を、数字で押さえてみましょう。
・募集が判明した企業数:22社(前年同期34社から35.2%の減少)
・募集対象の人数:5,345人(前年同期1万1,909人から55.1%の減少)
・このうち黒字企業:14社(全体の63.6%と、6割超)
前年の同じ時期と比べると、社数も人数も大きく減っています。募集の動き自体は、ひとまず落ち着いてきていると言えそうです。ただ、その内訳を見ていくと、募集を行った企業の6割以上が直近決算で「黒字」を確保しているという、少し意外な姿が浮かび上がってきます。

本記事の数値は、東京商工リサーチ(TSR)が令和8年(2026年)10月3日に公表した「2026年1-9月 上場企業『早期・希望退職募集』状況」(TSRデータインサイト)に基づいています。同調査は、2026年9月30日公表分までの適時開示資料と東京商工リサーチの独自調査をもとに、具体的な募集内容が確認できた上場企業を集計したもので、数値は速報値です。

データで見る実態 ― 東証プライムと製造業が中心

数字を整理していくと、希望退職を募集している企業には、はっきりとした偏りがあることが分かります。「損益の状況」「市場区分」「業種」という3つの切り口から見ていきましょう。

損益別に見ると

直近決算(単体)の損益別では、黒字企業が社数・人数ともに6割を超えています。

区分

該当社数(構成比)

対象人数(構成比)

代表的な企業事例

黒字企業

14社(63.6%)

3,406人(63.7%)

アルバック、住友重機械工業、ポーラ・オルビスホールディングス、宝ホールディングス、沖電気工業 など

赤字企業

8社(36.3%)

1,939人(36.2%)

THK、シャープ、KADOKAWA など

しかも、黒字企業14社のうち11社が東証プライム上場企業です。日本を代表する規模の会社が、利益を出しながら人員の見直しに踏み切っている、ということになります。

市場区分と業種の集中度

・市場区分:募集企業の約9割が東証プライム上場企業(19社・86.3%)。対象人数で見ると5,044人(94.3%)と9割を超えています(東証スタンダードは3社・13.6%、301人・5.6%)。
・業種:全22社のうち、製造業が20社(90.9%)と圧倒的です。内訳は、電気機器が8社(全体の36.3%)で最多、次いで化学が5社、機械が3社となっています。
背景には、技術革新だけでなく、原材料やエネルギーなどの「コスト上昇」や「不採算部門の整理」への対応も含まれています。それにしても、なぜ業績が良いのに決断を下すのでしょうか。次に、その3つの理由を見ていきます。

黒字企業が動く裏側 ― AI・DXが促す「3つの構造改革」

企業の希望退職には、大きく分けて2つの性格があります。ひとつは、業績不振の企業が目の前の赤字を解消するために行う「守りのコスト削減」。もうひとつは、業績好調な企業が将来の失速を防ぐために行う「攻めの構造改革」です。黒字企業が、体力のあるうちに人員構成を見直すのは、変化の激しい環境を生き抜き、次の事業へ人財を振り向けるための合理的な判断とも言えます。その3つの要因を整理してみましょう。

① AI・DXの進展による業務の変化と、人員の最適化

AIやデジタル技術が広がるなかで、社内の業務プロセスそのものが急速に変わりつつあります。これまでどおりの体制を保つのではなく、新しい技術に合わせた人財配置へと組み替える動きです。

具体例:沖電気工業 AIやDXの進展にともなう業務プロセスの変化に対応し、人財配置の最適化を図るため、55歳以上かつ勤続10年以上の従業員などを対象に「セカンドキャリア支援制度特別措置」を実施。この募集には668人が応募しました。

② 成長分野への集中と、スピードを上げた改革

足元の業績が黒字であっても、既存事業の縮小や競争の激化を見越して、成長性の高い領域へ素早く資源を振り向ける。そうした構造改革が進められています。

具体例:住友重機械工業 経営資源を成長領域へ重点的に投入し、事業構造改革のスピードを加速させるため、2月10日に国内グループ全社で500名規模の人員削減(早期・希望退職の募集)を発表しました。

③ 年齢層の適正化と、中長期の競争力強化

社会全体では「深刻な人手不足」が叫ばれていますが、企業が求めているのは単に頭数を増やすことではありません。AI・DX時代に必要なスキルを持つ人財構成へ移していくため、年齢層の適正化とミスマッチ解消を図る動きが定着してきています。

補足:赤字企業の場合はどう違う? 「攻めの構造改革」とは対照的に、業績不振に陥った企業が固定費を減らすために行う「守りのコスト削減」も一定数あります。たとえばKADOKAWAは、2026年3月期連結決算で赤字に転落したことを受け、5月に募集を発表。「健全な事業成長には筋肉質な体制の構築とコスト管理が不可欠」としています。

全体としての募集の動きは落ち着いていますが、コスト上昇の圧力は続いています。転職市場が活況を帯びるなか大手の早期・希望退職の流れも強まっており、この秋以降の値上げや個人消費の動向によっては再び増加へ転じる可能性もある——。調査もそう指摘しています。

まとめ ― 変化する労働市場で、私たちが押さえておきたいこと

今回のデータから見えてきたことを、3つのポイントに整理します。
・黒字リストラの定着:企業は赤字になってから動くのではなく、資金的・時間的な体力があるうちに事業構造を転換する。その「攻めの構造改革」が、日常的な経営戦略として定着しつつあります。
・人財ミスマッチの解消:AIやDXの進展で、企業が必要とするスキルは変わりました。人手不足の世の中にあっても、スキルや年齢層のミスマッチを解消するための人員再配置が加速しています。
・流動化と、再増勢のリスク:転職市場の活況を背景にセカンドキャリアを選ぶ働き手が増える一方、物価高や個人消費の動向によっては、再び募集が増える懸念も残されています。

ニュースで「希望退職」や「リストラ」の文字を見たとき、それが業績悪化による「守りのコスト削減」なのか、将来を見据えた「攻めの構造改革」なのか。この視点をひとつ持っておくだけで、企業の本当の姿が、ずいぶん鮮明に見えてくるはずです。

【出所】東京商工リサーチ「2026年1-9月 上場企業『早期・希望退職募集』状況」(2026年10月3日公表)


社会保険労務士法人エスネットワークス
特定社会保険労務士M・K

事業会社での人事労務キャリアを活かし、社会保険労務士として活動中。労働法をめぐる人と組織に焦点を当てる「生きた法」の実践をモットーとし、専門家の立場からセミナーや講演を通して、企業に“予防労務”の重要性を呼び掛けている。日本産業保健法学会会員。





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