【アウトソーシングほっとニュース】男性育児休業の進化と実践ガイド
厚生労働省が7月31日に公表した「令和7年度雇用均等基本調査」結果によると、男性の育児休業取得率は、令和6年度の40.5%から令和7年度には50.9%まで伸びています。半数を超える男性が育児休業(以下、育休)を取る時代がやって来たといえます。
この数字が示すように「育休は女性が取るもの」という感覚は、少しずつ過去のものになりつつあります。人事担当者の皆さんにとっては、「制度を整えているかどうか」が、採用や社員の定着に影響してくるフェーズに入ったと言えるでしょう。
2025年から段階的に施行された法改正は、こうした流れを後押ししています。今回は、厚生労働省が発行している「父親の仕事と育児両立読本~ワーク・ライフ・バランス ガイド~(令和7年度版)」をもとに、実務でどう対応すればよいかを、なるべく分かりやすい言葉で整理していきます。
1. 育休の「取りやすさ」が広がりました
これまでの育休は、「長期間、仕事を完全に離れる」というイメージが強く、それが取得をためらう理由の一つになっていました。今の制度は、もっと柔軟な形を選べるようになっています。
産後パパ育休(出生時育児休業)
子どもが生まれてから8週間以内に、最大28日まで取れる制度です。2回に分けて取ることもでき、さらに、労使協定を結んでおけば「休業中に一部だけ働く」ことも認められています。
たとえば、責任のある立場の社員や、少人数で回している職場の場合、「完全に仕事を離れるのは難しいが、重要な会議だけは対応したい」というニーズに応えやすくなります。この選択肢があるだけで、育休へのハードルはぐっと下がるはずです。
なお、休業中の就業を可能にするには、あらかじめ労使協定を結んでおく必要があります。
通常の育児休業についても、2回まで分けて取得できるようになりました。夫婦で交代しながら取ることもできるので、それぞれのご家庭の事情に合わせた組み立てがしやすくなっています。
2. 「手取りがほとんど減らない」仕組みが始まりました
育休を取るときに一番気になるのは、やはり収入のことだと思います。この点についても、2025年4月から新しい給付金が始まりました。
出生後休業支援給付金
これまでの育児休業給付(賃金の67%)に13%が上乗せされ、給付率が80%になりました。ただし、この上乗せを受けるには、夫婦それぞれが、子どもが生まれてから一定期間内に14日以上の育休を取ることが条件です。この「14日」という日数は、社員の方に説明するときに特に間違えやすいポイントですので、案内の際は丁寧に伝えていただくのがおすすめです。
この給付に加えて、育休中は健康保険や厚生年金保険の保険料が免除されます。両方合わせると、休業前とほぼ変わらない手取り額になる方が多いです。「育休を取ると生活が苦しくなる」という不安を、かなり和らげてくれる仕組みだと思います。
配偶者にとっても、「相手の収入が大きく減らない」という安心感は、早めに仕事に戻りやすくなることにつながります。
3. 企業として対応が必要になったこと
制度を用意するだけでなく、社員一人ひとりに向き合う対応も求められるようになりました。人事担当者として押さえておきたい点を整理します。
①本人への周知と意向確認:妊娠・出産の報告を受けたら、制度の説明だけでなく、本人の希望を聞き取り、仕事と育児の両立について配慮することが義務になりました。
②柔軟な働き方の選択肢を用意する:3歳から小学校入学前のお子さんがいる社員に対して、「時短勤務」「テレワーク」「フレックスタイム」「時差出勤」「子育て支援のための休暇」の5つのうち、2つ以上を選べるようにする必要があります。どれを選ぶかは、職場の実情に合わせて決めてよいことになっていますので、無理のない範囲で検討していただければと思います。
③子の看護等休暇の対象拡大:これまで小学校入学前までだった対象が、「小学校3年生修了まで」に広がりました。卒園式や入学式といった行事での利用も可能になりました。
こうした対応は、直接的にはハラスメント防止にもつながります。育休や時短勤務を理由にした不利益な扱い(いわゆるパタハラ・マタハラ)が起きないよう、周知や研修も併せて行っていただくと安心です。
また、これらの柔軟な働き方の仕組みは、将来的に介護と仕事の両立が必要になる社員にとっても土台になるものです。今のうちに整えておくことは、決して無駄にはなりません。
4. 実際に育休を取った方の声から見えること
制度の話だけでなく、実際に育休を取った方の事例を2つご紹介します。
株式会社デンソーの事例
2か月の育休を取る前に、「自分がいなくても誰が見ても分かる」資料づくりを徹底したそうです。これは結果的に、特定の人にしか分からない業務を減らすことにつながりました。復職後は、限られた時間の中で成果を出す働き方が身についたといいます。
石井食品株式会社の事例
入社1年未満というタイミングでの育休取得でしたが、事前にしっかり仕組みを整えたことで、チームの生産性は落ちませんでした。育休を経験したことで「家庭も会社も、大切なチームである」という感覚を持つようになり、復職後は残業を減らす取り組みを自ら進めるようになったそうです。
どちらの例からも、育休が「一時的な欠員」ではなく、「働き方を見直すきっかけ」になっていることが伝わってきます。
5. 家庭と職場、どちらにも役立つ「トモイクシート」
厚生労働省は「共育(トモイク)プロジェクト」という取り組みを進めています。その中心にあるのが「トモイクシート」というツールです。夫婦で次の3つのステップを話し合いながら進めていきます。
STEP1 どんな家庭やキャリアを目指したいか、思いを共有する
STEP2 家事や育児、そして目に見えにくい心の負担も含めて、毎日の状況を整理する
STEP3 「私たちにとっての最適な形」を、一緒に探していく
この「私」「あなた」「私たち」という視点で考える進め方は、実は職場にもそのまま応用できます。特定の人に業務が偏っていないか、チーム全体で見える化してみることは、働きやすい職場づくりの第一歩になるはずです。育休前に「両親学級」のような場を社内で設けている企業もあり、育休への不安を減らす工夫として参考になります。
おわりに
2025年からの法改正は、企業に新しい対応を求めるものではありますが、決して「負担が増えるだけ」のものではないと感じています。育休を取りやすい職場は、性別や家庭の事情にかかわらず、誰もが働き続けやすい職場でもあります。
制度をきちんと整え、社員一人ひとりの状況に寄り添うこと。それが、結果として社員に長く働いてもらえる職場につながっていくのではないでしょうか。ご不明な点があれば、いつでもお気軽にご相談ください。
社会保険労務士法人エスネットワークス
特定社会保険労務士M・K
事業会社での人事労務キャリアを活かし、社会保険労務士として活動中。労働法をめぐる人と組織に焦点を当てる「生きた法」の実践をモットーとし、専門家の立場からセミナーや講演を通して、企業に“予防労務”の重要性を呼び掛けている。日本産業保健法学会会員。