【アウトソーシングほっとニュース】2026年最新調査に見る、中小企業の採用戦略のヒント
日本では人口減少にともなって働き手が少しずつ減っており、これは一時的な現象というより、これからも続いていく傾向だと考えられます。求職者の方が仕事に求めるものも多様になってきており、これまでのように求人広告で応募者数を増やすことだけを目指す採用のやり方では、うまくいかない場面が増えてきています。
厚生労働省の調査※によると、入社後に「思っていたのと違った」と感じる求職者は、全体のおよそ6割にのぼるそうです。こうしたギャップは、採用にかけた時間や費用がもったいないというだけでなく、入社された方の力を十分に発揮していただけないことにもつながります。「とにかく多くの人に応募してもらう」採用から、「長く活躍していただく」ことを見据えた採用・組織づくりへと、少しずつ視点を移していただくとよいのではないかと思います。
※「中途採用を通じたマッチングを促進していくための企業の情報公表の在り方等、諸課題に関する調査研究事業報告書(令和2年度厚生労働省委託事業)」
この記事では、2026年6月に行われた東京商工リサーチの調査をもとに、中小企業の方に知っておいていただきたい採用のポイントをご紹介します。社員紹介による採用と、情報の伝え方の工夫が、定着や活躍にどうつながるのかを、データを交えてお伝えします。
調査から見えてきた、「社員紹介」の心強さ
転職を考える方が増えるなかで、企業にとって大切なのは「自社に合う方に出会えること」です。東京商工リサーチが2026年6月1日から8日にかけて行ったアンケート調査(有効回答6,475社)からは、採用の方法によって定着のしやすさに違いがあることが見えてきました。
採用方法ごとの定着のしやすさ
「従業員の定着率が最も高い」と評価された採用方法は、「リファラル採用(社員紹介)」で18.5%と、最も多くの企業が挙げています。一方、費用のかかる「転職エージェントからの紹介」は5.4%にとどまりました。
また、「ハローワークを通じた中途採用」も12.1%と、エージェント経由の2倍以上の評価を得ている点は注目に値します。中小企業にとっては、外部のエージェントに頼るだけでなく、コストをかけずに利用できる手段も、あらためて見直す価値がありそうです。
新卒採用における企業規模の違い
新卒採用の定着率を高く評価している割合は、大企業では26.5%である一方、中小企業では9.1%にとどまっています。中小企業が新卒の一括採用だけに頼ることは、人材確保の面では少しリスクの高い選択になりやすいと言えそうです。新卒採用と合わせて、他の採用方法も組み合わせていただくと、安定した人材確保につながりやすくなります。
社員紹介の広がりと、実際にかかる費用
現在、49.2%の企業がリファラル採用(社員紹介)を取り入れています。紹介への報酬については、「支払っていない(40.9%)」または「1〜10万円未満(20.7%)」という企業が多く、大きな費用をかけずに始められる方法であることがうかがえます。
リファラル採用(社員紹介)がうまくいきやすい理由の一つは、紹介してくれる社員自身が、自社の雰囲気と紹介したい方の人柄や適性を、あらかじめ照らし合わせてくれる点にあります。ただ、採用方法を選ぶことは、あくまで最初の一歩です。実際に定着していただけるかどうかは、次にお伝えする「情報の伝え方」も大きく関わってきます。
入社後のギャップを防ぐ、情報の伝え方の工夫
入社後に「思っていたのと違った」と感じてしまう背景には、応募の段階で伝わっている情報と、実際の職場との間にズレがあることが多いようです。
中小企業が大手企業と同じように情報の「量」で勝負するのは難しいかもしれませんが、伝える情報を段階的に整理して届けることで、応募者の方に安心して選んでいただきやすくなります。厚生労働省のパンフレット「人材の確保・定着に成功した企業の取組事例集~採用活動のコツ~」では、次の2つの段階に分けて情報を伝えることがすすめられています。
①入社直後の条件やキャリアについて:配属先の部署、具体的な仕事内容、労働時間や休日などの働き方。応募の段階では会社全体の情報を、選考が進む段階では配属予定の部署に即した、より具体的な情報を伝えます。
②将来の条件やキャリアについて:今後のキャリアの見通し、将来の給与の考え方、期待されている役割。
特に注目していただきたいのは、将来のキャリアに関する情報を多く伝えられた方ほど、入社後の働きぶりが良い傾向にあることが確認されている点です。情報をきちんと伝えることは、ギャップを防ぐだけでなく、入社された方の力を早く発揮していただくことにもつながる、前向きな取り組みだと言えます。
また、あまり良くない実績や課題といった「伝えにくい情報」を、正直にお伝えすることも、中小企業ならではの強みになり得ます。「課題とその改善への取り組み」をあわせて伝えることで、応募者の方に信頼していただきやすくなり、「一緒に会社を良くしていきたい」という気持ちを持っていただくきっかけにもなります。誠実な情報開示は、知名度やブランド力に頼らずとも実践できる、中小企業にとって心強い武器になります。
退職者とのつながりと、入社後のフォロー
採用や雇用の考え方も、少しずつ変わってきています。一度きりの雇用契約というより、退職された後も緩やかにつながりを持ち続けるという考え方が広がりつつあります。その象徴が、退職者を「会社の同窓生」ととらえる「アルムナイ」という考え方です。パーソル総合研究所の推計によると、アルムナイを通じた経済効果は年間1兆円を超えるとされ、決して小さくない規模になっています。
退職された方とのつながりは、外部で得た知識や経験を還元してもらえたり、退職後も取引先として関係が続いたりといった形で、会社にとってプラスに働くことがあります。こうした外部とのつながりを大切にすることに加えて、入社後の「オンボーディング(受け入れ・定着支援)」を丁寧に行うことも欠かせません。
まとめ ― 中小企業らしい、無理のない採用のかたち
働く方ご自身がキャリアを主体的に選ぶ時代になり、企業の側も「選んでいただける存在」であることを、丁寧に伝えていく必要があります。採用は人事だけの仕事というより、経営全体に関わるテーマになってきていると言えるでしょう。
限られた人手や予算のなかで取り組みやすいよう、段階を追ったアクションプランをご紹介します。
●第1段階(費用はほぼかかりません):求人票に載せる情報を充実させ、選考の過程で「将来のキャリア」や「伝えにくい情報」も誠実に共有する。まずはここから、働きぶりの向上を目指します。
●第2段階(費用は少なめ):既存の社員の方に自社の魅力をあらためて言葉にしてもらい、紹介の仕組みや報酬を制度として整える。
●第3段階(費用は中程度):退職を「関係の終わり」ではなく「つながりの形が変わること」ととらえ、再雇用や情報交換の機会を維持する。
東京商工リサーチの調査が示す「社員紹介」の定着力と、国がすすめる「情報の丁寧な開示」を組み合わせることが、これからの採用を考えるうえでの一つの軸になりそうです。データを参考にしながら、それぞれの会社に合った採用のかたちを、無理のない範囲で少しずつ整えていっていただければと思います。
社会保険労務士法人エスネットワークス
特定社会保険労務士M・K
事業会社での人事労務キャリアを活かし、社会保険労務士として活動中。労働法をめぐる人と組織に焦点を当てる「生きた法」の実践をモットーとし、専門家の立場からセミナーや講演を通して、企業に“予防労務”の重要性を呼び掛けている。日本産業保健法学会会員。