【アウトソーシングほっとニュース】「職場の熱中症対策」これだけは押さえておきたいこと
企業の労務管理を支援する立場からお伝えしたいのですが、近年の暑さへの対策は、現場での注意喚起にとどまらず、会社全体で取り組んでいただきたいテーマになってきています。
企業には労働契約法に基づく「安全配慮義務」があり、これを怠って労働災害が起きてしまうと、法的な責任や損害賠償だけでなく、大切な人材の離職や、会社への信頼低下にもつながりかねません。
2025年は、職場における熱中症の死傷者数が1,803人となり、統計を取り始めてから最も多い数字になりました。気象庁のデータでも、夏の平均気温の平年からの差は+2.36℃と過去最高を更新しており、厳しい暑さが「特別な年」ではなく「毎年のこと」になりつつあります。
これを受けて労働安全衛生規則第612条の2が改正され、熱中症のリスクがある作業について、「報告体制を整えること」「対応の手順をあらかじめ作り、周知すること」が企業に求められるようになりました。これまでの対策で足りているか、あらためて見直していただく良い機会だと思います。
この記事では、最新のデータをもとに、人事労務担当の方に押さえておいていただきたいポイントと、現場で実践しやすい対策をお伝えします。
データから見える「熱中症リスクの特徴」
効果的な対策を考えるには、まずどのような場面でリスクが高まりやすいかを知ることが役立ちます。
業種・年齢による傾向
直近5年間(2021〜2025年)の死傷者数を見ると、製造業(1,063人)と建設業(1,083人)で全体のおよそ4割を占めています。特に死亡に至ったケースでは、建設業と警備業の2業種で、年によっては全体の4割から7割を占めることもあり、屋外や高温になりやすい環境での作業には、特に注意を払っていただきたいところです。
年齢面では、2025年の死傷者のうち50歳代以上が約52%を占め、亡くなられた方に限ると、その割合は約84%(19人中16人)にのぼります。年齢を重ねると体温を調整する働きがゆるやかになるため、暑さの影響がより早く、より重く出やすいと考えられます。
「時間差で来る」リスクにも目を向ける
発生が多い時間帯は11時台と14〜15時台ですが、それだけでなく、症状が時間差で現れるケースにも気を配っていただきたいと思います。18時以降や帰宅後に体調が急変し、重篤な状態に至った例も報告されています。
日中は元気に見えても、時間が経ってから熱の影響が出てくることがあるため、一人暮らしの方や高齢の従業員については、終業後の連絡や声かけ(SNSなどを使った確認も一つの方法です)を仕組みとして取り入れていただくと安心です。
WBGT(暑さ指数)で、現場の暑さを「見える化」する
気温だけでは、現場の本当の暑さは把握しきれません。湿度や照り返し、風の有無まで含めて評価する「WBGT(暑さ指数)」を活用することが、対策の第一歩になります。
作業の内容によって、目安となる数値が変わる
身体にかかる負荷(代謝率レベル)に応じて、注意すべきWBGTの目安は次のように変わります。
・安静作業【レベル0】:33℃(暑さに慣れている方)/32℃(慣れていない方)
・事務や軽い手作業など【レベル1】:30℃(暑さに慣れている方)/29℃(慣れていない方)
・継続的な手や腕の作業など【レベル2】:28℃(暑さに慣れている方)/26℃(慣れていない方)
・重い物の運搬や掘削など【レベル3】:26℃(暑さに慣れている方)/23℃(慣れていない方)
・階段の昇降や全力での作業など【レベル4】:25℃(暑さに慣れている方)/20℃(慣れていない方)
服装も考えあわせた目安の出し方(参考例)
服の特性を考えずに数値だけで判断すると、思わぬ見落としにつながることがあります。参考として、次のような考え方をご紹介します。
たとえば、炎天下でのショベル作業(レベル3・暑さに慣れていない方の基準:23℃)で、ポリオレフィン不織布製のつなぎ服(着衣による補正:+2℃)を着用している場合、実際に注意していただきたい目安は「23℃ー2℃=21℃」となります。つまり、WBGT計が21℃を示した時点で、すでに基準に近づいていると考え、休憩や作業内容の見直しを検討していただくとよいでしょう。
測定について
WBGT計は、JIS Z 8504またはJIS B 7922に適合した、黒球のついたタイプをお使いいただくことをおすすめします。黒球のない簡易的なタイプでは、照り返しによる熱の影響を実際より低く評価してしまうことがあります。また、高い階と低い階、日なたと日陰など、場所によって条件が異なるため、できるだけ作業場所ごとに測定していただくと安心です。
熱中症を防ぐための3つの取り組み
「作業環境の管理」「作業の管理」「健康の管理」の3つを組み合わせることで、無理なく対策の幅を広げることができます。
作業環境・作業の管理
遮光ネットで日陰をつくったり、スポットクーラーやミスト扇風機を取り入れたりすることが役立ちます。休憩場所には、氷や冷たいおしぼり、経口補水液などを用意しておくと安心です。
WBGTの数値が上がってきたら、休憩の頻度を増やす「休憩サイクルの調整」も効果的です。数値が大きく基準を超えるようであれば、あらかじめ決めておいた基準にもとづいて、現場の責任者の判断で作業を中止できるようにしておくとよいでしょう。
また、一人での作業はできるだけ避け、特に持病のある方や高齢の従業員については、二人一組(バディ制)で作業していただくことをおすすめします。体調の変化に周囲が早く気づけることは、とても大きな安心材料になります。
「暑さに慣れる期間」をつくる
身体が暑さに慣れるまでには、最低でも7日間ほどかかると言われています。新しく採用された方や、休暇明けの方については、はじめから通常どおりの環境で作業していただくのではなく、7日間ほどかけて少しずつ暑い環境での作業時間を増やしていく進め方が望ましいです。
健康管理は「対話」を大切に
体調確認のチェックシートを使う際は、形だけの確認で終わらせず、会話を通じてやり取りすることを意識していただきたいと思います。
たとえば「朝食は食べましたか?」という聞き方だと「はい」「いいえ」で終わってしまいますが、「今朝は何を食べましたか?」と具体的に聞いてみると、答えに詰まったり、「コーヒーだけです」といった返事が返ってきたりすることがあります。こうした反応は、脱水や体調不良の初期サインであることも少なくありません。
糖尿病や高血圧などの持病がある方は、体質や薬の影響で脱水しやすい傾向があります。産業医と連携しながら、必要に応じて配置や作業内容を見直すことも、会社としての大切な配慮のひとつです。
教育と、いざというときの体制づくり
対策を形だけのものにしないために、熱中症が起きるしくみや予防法について、日頃からわかりやすく伝えていくことが大切です。外国人労働者の方が多い職場では、母国語での案内資料を用意したり、翻訳アプリやSNSを使って注意喚起を届けたりするなど、言葉の壁を越えた情報共有を意識していただければと思います。
症状が重いと判断すべきサイン
現場では、専門的な機器がなくても、次のようなサインが見られたら重症の可能性を考えて行動していただきたいと思います。
・体に触れると熱く感じる(体表面の体温がおよそ40℃以上と感じられる)
・呼びかけに対する反応が鈍い、または会話がかみ合わない(意識がはっきりしない)
この2つが同時に見られる場合は、体の内部の温度を測るまでもなく、重症の熱中症を疑って、すぐに行動を始めていただくことが大切です。
意識がはっきりしないときの対応の流れ
意識障害が見られる場合は、次の対応を速やかに行ってください。
・すぐに119番通報を行う
・風通しのよい涼しい場所に移動させ、衣服をゆるめる
・首まわり、脇の下、足の付け根など、太い血管が通っている部分を、氷のうや保冷剤でしっかり冷やす
ただ涼しい場所で休ませるだけでは、症状が重い場合には十分ではありません。身体を積極的に冷やす対応を、救急隊が到着するまで続けていただくことが重要です。
最後に ― 声をかけ合える職場が、いちばんの備えになります
熱中症対策にかける手間やコストは、大切な人材を守り、法的なリスクを避けるための、意味のある取り組みだと思います。
労働安全衛生規則の改正により、企業に求められる管理体制は少しずつ高度になってきています。ただ、それ以上に力を発揮するのは、経営層から現場の方まで、お互いの体調を気にかけ合う雰囲気づくりです。経営者の方自身が現場を見て回り、「今日は水分とれてる?」「そろそろ休もうか」と声をかける、そんな積み重ねが、従業員の安心感や働きやすさにつながり、会社を長く支える力になっていきます。
この夏も、無理のない範囲で対策を進めていただければ幸いです。
参考:厚生労働省「職場における熱中症予防情報」
社会保険労務士法人エスネットワークス
特定社会保険労務士M・K
事業会社での人事労務キャリアを活かし、社会保険労務士として活動中。労働法をめぐる人と組織に焦点を当てる「生きた法」の実践をモットーとし、専門家の立場からセミナーや講演を通して、企業に“予防労務”の重要性を呼び掛けている。日本産業保健法学会会員。