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【アウトソーシングほっとニュース】「令和7年度 個別労働紛争解決制度の実施状況」から見る、これからの職場づくり

働き方や職場の在り方が大きく変わりつつある今、人事労務の仕事は、日々の手続きだけでなく「働く人たちが安心して力を発揮できる環境をどう整えるか」という、少し大きな視点も求められるようになってきました。
そんな中、厚生労働省が公表した最新の「令和7年度個別労働紛争解決制度の施行状況」は、今、日本の職場で実際に何が起きているのかを教えてくれる、とても参考になる資料です。
この報告書によると、全国の「総合労働相談」に寄せられた件数は119万8,010件にのぼり、18年連続で100万件を超えているそうです。この数字を見ると、「労働トラブルは一部の会社だけの話ではなく、どんな職場でも起こりうる、身近なテーマである」と感じます。私自身、これまで多くの労使間のトラブル解決に携わってきましたが、こうしたデータに早めに目を通し、「自社にも似たような芽がないか」を振り返っておくことは、結果として会社を守ることにつながると感じています。
トラブルが表に出てから対応するとなると、どうしても時間もお金もかかりますし、社内の雰囲気にも少なからず影響が出てしまいます。この記事では、最新のデータをできるだけわかりやすく整理しながら、行政が用意している「個別労働紛争解決制度」がどのように使われているかをご紹介し、日々の実務にどう活かせそうかを一緒に考えていきたいと思います。まずは、労働者の方がトラブルに直面したときに使える公的な仕組みについて、あらためて整理してみましょう。

「個別労働紛争解決制度」のしくみ、3つのステップ

労働者と会社の間で起きたトラブルを、裁判よりも早く・気軽に解決できるようにと設けられているのが「個別労働紛争解決制度」です。行政では、主に次の3つのステップで対応が進められています。それぞれの内容を知っておくと、万が一自社の従業員が窓口に相談に行った場合にも、落ち着いて対応しやすくなります。

① 総合労働相談 ― まずはここから。全国378か所の相談窓口

各地の労働局や労働基準監督署などに設置されている「総合労働相談コーナー」が、あらゆる相談の入り口になっています。相談員の方が親身に話を聞き、状況の整理や情報提供をしてくれる場所です。ここには労働者の方だけでなく、事業主の方も相談に訪れているというのも、あまり知られていないポイントかもしれません。

② 助言・指導 ― 行政が示してくれる、解決へのヒント

労使間でトラブルが起きた際に、都道府県労働局長が、解決に向けた方向性を口頭または書面で示してくれる制度です。「助言」は話し合いを後押しすること、「指導」は問題点を指摘しながら解決の方向を示すことを目的としています。この制度に強制力はありませんが、行政が一定の考え方を示してくれているという点は、対応を考えるうえで大切なヒントになります。ここでの対応が丁寧であれば、次の段階に進まずに済むことも多く、会社にとっても負担の少ない解決につながりやすいといえます。

③ あっせん ― 専門家を交えた話し合いの場

弁護士や大学教授など、労働問題に詳しいあっせん委員が間に入り、当事者双方の話を整理しながら、合意に向けたお手伝いをしてくれる制度です。非公開かつスピーディーに進むのが特徴で、裁判のように表沙汰になることを避けたい場合には心強い選択肢です。一方で、「参加するかどうかは自由」という任意性があるため、そこが解決の難しさにもつながっているようです。

この3つのステップは、小さなトラブルが大きな争いに発展しないよう支えてくれる、いわば「早期消火」の仕組みです。ただ、最近のデータを見ると、この仕組みが少し使われにくくなっている様子もうかがえます。次の章では、実際にどのようなトラブルが増えているのか、データを一緒に見ていきましょう。

データで見る「いじめ・嫌がらせ」相談 ― 14年連続でトップに

最新の統計を見ると、今の職場が抱えている課題が、数字としてはっきり表れています。「民事上の個別労働関係紛争」の相談内容のうち、「いじめ・嫌がらせ」は55,614件(前年度比1.1%増)となり、14年連続で最も多い相談内容となりました
ここで少し補足しておきたいのが、「労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)」との関係です。法律上のパワーハラスメントに該当する相談は、実はこの法律に基づいて別に集計されています。つまり55,614件という数字は、「法律上の厳密な定義には当てはまらないけれど、職場でつらいと感じている」という、幅広い相談が積み重なった結果と考えられます。
これは、職場でのちょっとした言動や関係性のすれ違いが、以前よりも相談や紛争に発展しやすくなっている、ということでもあります。上司の指導の仕方や、同僚との関係、なんとなく孤立してしまう感覚など、さまざまな出来事が「いじめ・嫌がらせ」として受け止められ、相談につながっているようです。
相談者の内訳を見ると、労働者からの相談が86.9%と多数を占める一方、事業主からの相談も23,472件(8.5%)ありました。これは、管理職や経営者の方々が「部下への指導をどう進めればよいか」「複雑な人間関係にどう向き合えばよいか」と、日々悩んでいらっしゃる様子の表れとも言えます。誰か一人に原因を求めるのではなく、管理職への教育や、職場全体の風土づくりという視点で捉えることが、これからますます大切になりそうです。

雇用形態ごとに見えてくる、気をつけたいポイント

労働トラブルの起こり方は、雇用形態によっても少し傾向が異なります。令和7年度のデータを見てみましょう。

就労形態

相談件数

構成比

正社員

111,468件

40.2%

短時間労働者

38,574件

13.9%

有期雇用労働者

34,186件

12.3%

正社員に関する相談が全体の4割を占めており、依然として相談の中心となっています。特に「助言・指導」では正社員に関するものが51.4%、「あっせん」では48.8%を占めており、正社員とのトラブルは、話し合いが長引いたり、行政の判断を仰ぐ場面が多くなったりする傾向があるようです。
行政手続きの選ばれ方にも、労働者の方の気持ちがにじみ出ています。
・「助言・指導」で最も多い相談内容:労働条件の引き下げ(1,220件、前年度比10.6%増)
・「あっせん」で最も多い申請内容:解雇(892件、前年度比12.6%増)
「労働条件の引き下げ」については、比較的穏やかな「助言・指導」が選ばれる傾向にあります。これは「不満はあるけれど、できればこの会社で働き続けたい」という気持ちの表れかもしれません。一方で「解雇」については、すでに雇用関係が終わってしまっているケースが多いため、「あっせん」という話し合いの場を通じて、できるだけ早く決着をつけたい、という思いがうかがえます。
どちらの項目も前年度から10%を超える伸びを見せており、労働者の方が「我慢する」のではなく、「きちんと声を上げて解決を目指す」という姿勢を持つようになってきている、と受け止めることができそうです。

「助言・指導」と「あっせん」、実際どれくらいで解決するのか

会社宛てに労働局から申出書や通知が届くと、まず気になるのは「どのくらいで終わるのか」という点だと思います。この点、行政の手続きは思いのほかスピーディーです。
「助言・指導」については、98.4%が1か月以内に完了しています。行政としても早期の解決を大切にしており、会社側が早い段階で状況を整理し、誠実に話し合いのテーブルにつくことができれば、長引くケースはあまり多くありません。
一方で「あっせん」のデータからは、少し気になる傾向も見えてきます。

指標

数値

傾向

合意成立率

27.0%

低下傾向

不参加による打ち切り

47.5%

双方の参加率

45.4%

平成28年度:56.8%から低下

あっせんへの参加率は、この10年ほどで10ポイント以上低下しており、半数近くの会社が話し合いへの参加を見送っているという実態があります。ここで一つお伝えしたいのは、この「不参加」が、必ずしも会社にとってよい結果につながるとは限らない、ということです。
あっせんへの参加を見送り、早期に話し合う機会を逃してしまうと、労働者の方が労働審判や裁判といった、より時間もコストもかかる手続きに進んでしまうことがあります。そうなると、弁護士費用や、場合によっては損害賠償、会社名の公表といった影響も考えられます。「あっせんに参加しない」という選択が、結果的により大きな負担につながることもある、という視点は、ぜひ知っておいていただきたいポイントです。

実際の事例から学ぶ、対応のヒント

報告書に紹介されている実例をもとに、現場で気をつけたいポイントを、できるだけわかりやすくご紹介します。

事例① いじめ・嫌がらせと、会社が果たすべき配慮(助言・指導事例2)

同僚から暴言を受けたり、無視されたりしていると訴えた正社員に対して、会社が「規模が小さいので対応が難しい」として、特に対応をしなかったケースです。
押さえておきたい考え方:会社には、労働契約法第5条に基づく「安全配慮義務」があります。これは、働く人が心身ともに安心して働けるよう配慮する義務のことです。対応をしないままにしておくと、民法第715条の「使用者責任」を問われる可能性もあります。
実務のヒント:「個人の性格の問題」として片づけてしまっていないか、一度振り返ってみることをおすすめします。今回の事例では、行政の助言を受けて座席の配置を見直したり、指導を行ったりといった対応がとられました。物理的に距離を置く、対応の記録を残しておく、といった「目に見える形」での対応が、後々の安心材料になります。

事例② 労働条件の変更と、合意の大切さ(助言・指導事例1)

受注の減少を理由に、1日の所定労働時間を8時間から5時間へ、会社側の判断だけで短縮しようとしたケースです。
押さえておきたい考え方:労働条件は、労働者と会社の「合意」のもとで決まることが原則です。
実務のヒント:「経営が厳しいから仕方がない」という説明だけでは、労働者の方に納得していただくのは難しい場合があります。特に労働条件を引き下げる場合は、ご本人の理解と納得を得るための丁寧な説明が欠かせません。説明のプロセスを省略してしまうと、後から思わぬトラブルにつながることもあります。

事例③ 解雇の理由と、話し合いによる解決(あっせん事例2)

「同僚から仕事ぶりについて苦情があった」という漠然とした理由で短時間労働者を解雇し、具体的な説明をしなかったケースです。
押さえておきたい考え方:労働契約法第16条により、解雇には「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要とされています。
実務のヒント:十分な理由がないまま解雇を行い、後日裁判で「解雇は無効」と判断された場合、解雇していた期間の賃金をさかのぼって支払う必要が出てくることもあります。この事例では、あっせんの中で10万円を支払うことで早期に合意に至りました。結果として大きな金額の支払いを避けられたという意味では、話し合いによる解決も一つの賢い選択肢といえそうです。

事例④ 退職の申し出と、受け止め方(助言・指導事例3)

1か月前に退職届を提出した社員に対し、上司が「受理できない」として、退職を認めない対応を続けたケースです。
押さえておきたい考え方:民法第627条第1項により、期間の定めのない契約は、退職の申し出から2週間が経過すれば終了することになっています。
実務のヒント:就業規則で「1か月前に申し出ること」と定めていても、民法の規定を超えて退職を引き止めることは難しいのが実情です。退職の意思を無理に押しとどめようとすると、かえって「退職代行サービス」の利用につながったり、行政からの指導を招いたりすることもあります。

まとめ ― トラブルを未然に防ぐ、これからの職場づくり

年間100万件を超える相談件数は、これまでのなんとなくの人事対応では立ち行かない時代になってきていることを示しているように思います。労働者の方の権利意識は着実に高まっており、人事担当者の皆様には、法的な根拠に基づいた「わかりやすい説明」と、相手の気持ちに寄り添う「丁寧な対話」の両方が求められています。
最後に、明日からの実務に取り入れていただきたいポイントを3つご紹介します。
1. 「まずは話を聞く」を徹底すること
多くの事例に共通しているのは、「会社が話を聞いてくれなかった」という気持ちが、トラブルを大きくしてしまうきっかけになっているという点です。早い段階で丁寧に耳を傾けることが、結果として一番の予防策になります。
2. 労働関係法令の知識を、現場の管理職にも共有すること
労働契約法や民法の基本的な考え方は、人事担当者だけでなく、現場の管理職の方にも知っておいていただきたい内容です。「知らなかった」では済まされない場面もあるため、日頃からの情報共有を心がけましょう。
3. 社内の相談窓口を、頼りやすい場所にすること
外部の相談窓口に足を運ぶということは、社内で気軽に相談できる場所がなかった、というサインかもしれません。匿名で相談できる仕組みや、相談後のフィードバックを大切にしながら、社内の相談窓口を育てていくことが、信頼関係の回復につながります。

「個別労働紛争解決制度」は、会社を追いつめるための仕組みではなく、こじれてしまった関係を整理し、職場がもう一度前向きに動き出すための「調整の場」です。
今回ご紹介したデータを、自社の職場環境を見直すきっかけとして、ぜひ活用していただければと思います。日々の小さな対応の積み重ねが、従業員の方が安心して、誇りを持って働ける職場づくりにつながっていくはずです。


社会保険労務士法人エスネットワークス
特定社会保険労務士M・K

事業会社での人事労務キャリアを活かし、社会保険労務士として活動中。労働法をめぐる人と組織に焦点を当てる「生きた法」の実践をモットーとし、専門家の立場からセミナーや講演を通して、企業に“予防労務”の重要性を呼び掛けている。日本産業保健法学会会員。





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