【アウトソーシングほっとニュース】「新入社員意識調査」に見る価値観の変化とこれからの育成のヒント
不確実性が日常となり、生成AIをはじめとする技術が急速に広がるなかで、入社してくる若い世代の意識も確実に変わってきています。彼ら彼女らの価値観を正しく理解することは、目の前の離職防止にとどまらず、中長期的な組織づくりにつながる経営上のテーマだといえます。
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ「新入社員意識調査2026」を見ると、今年の新入社員を表すキーワードとして「挑戦」と「成長意識」が浮かび上がります。
ただし、この意欲の高まりを手放しに歓迎してよいかというと、少し慎重に受け止める必要がありそうです。その背景には、「定型的な仕事はいずれAIに置き換わるのではないか」「早く一人前にならなければ」という不安があると考えられます。新入社員が成長を急ぐのは、前向きな向上心であると同時に、変化の速い時代を生き抜こうとする、静かな緊張感の表れでもあるのでしょう。
「挑戦したい」気持ちと「不安」の同居
新入社員意識調査の今年の特徴は、「挑戦」への意欲が調査開始以来もっとも高い水準にあることです。「失敗を恐れずにどんどん挑戦すること」を大切にしたいという回答は34.3%で、過去最高となりました。その一方で、「何があってもあきらめずにやりきること」は13.3%と過去最低です。この対照的な結果は、今年の新入社員を読み解くうえで示唆に富んでいます。
この「やりきる力」の低下を、忍耐力の不足とだけ捉えるのは早計かもしれません。むしろ、成果につながりにくい努力をできるだけ避け、効率よく前へ進みたいという、現実的な感覚の表れと見ることもできます。
不安の中身も特徴的です。仕事生活でもっとも大きな不安は「仕事についていけるか」で64.6%。これに対し、「収入」は8.1%、「雇用」は2.7%と低い水準にとどまりました。近年の賃上げの動きも背景にあると思われますが、新入社員にとっての安心は、会社に守られることよりも、自分自身の専門性や市場価値を高めること、つまり成長し続けられるかどうかに重心が移っているようです。
ここから見えてくるのは、「挑戦したい」という気持ちと、「自分の力が通用しないのではないか」という不安が同居している状態です。挑戦を促すだけでは、その不安はなかなか和らぎません。挑戦したあとの丁寧なふり返りやフィードバックこそが、定着の鍵になります。
労務管理の視点 ― 入社初期のフォローを「仕組み」にする 「ついていけるか」という不安がもっとも大きいこの時期だからこそ、入社直後の数か月をどう支えるかが、その後の定着を大きく左右します。試用期間中の面談のタイミングや受け入れ(オンボーディング)の流れをあらかじめ設計しておくこと、そして不安や孤立を放置しないことは、早期離職の防止だけでなく、従業員の心身の健康に配慮する安全配慮義務の観点からも意味を持ちます。 |
求められる職場・上司像の変化 ― 10年前との比較
かつての「背中を見て覚えろ」という育て方は、いまの若手にはなじみにくくなっています。2016年と2026年を比べると、新入社員が求めるマネジメントの形がはっきりと変わってきたことがわかります。
カテゴリ | 増えた項目(2016年比) | 今年(2026年)に見られる傾向 |
職場に | 個性の尊重(+12.0pt) | 活気(-7.8pt)やアットホームさ(-11.2pt) |
上司に | 丁寧な指導(+10.8pt) | 情熱(-7.2pt)や厳しい指導(-6.8pt)よりも、具体的で丁寧なフィードバックを重視 |
上司に期待することのトップが「一人ひとりに対して丁寧に指導すること(50.1%)」だったことは、注目に値します。これは甘えというより、自分に合った学び方を、経験のある上司から的確に教わりたいという、合理的なニーズと受け止めるのが自然でしょう。
あわせて見ておきたいのが、「厳しく指導すること」を求める声が直近3年連続で増えている点です。今の若手は、必ずしも厳しさを避けているわけではありません。むしろ、放っておかれて成長が止まってしまうことのほうを避けたいと考えているようです。遠慮して指導を控えるのではなく、成長につながる適切な負荷をかけていくことが求められています。
労務管理の視点 ― 「厳しい指導」とハラスメントの線引き 「厳しく指導してほしい」という声に応えることと、ハラスメントを防ぐことは、決して矛盾しません。鍵になるのは、感情ではなく、事実と基準にもとづいて伝えることです。業務上必要かつ相当な範囲の指導といえるかどうかを管理職が意識できるよう、社内で線引きの考え方を共有しておくと安心です。なお、労働施策総合推進法にもとづくパワーハラスメント防止のための措置は、すべての企業に求められています。 |
これからの育成に向けた三つの視点
新入社員の不安を前向きなエネルギーに変えていくには、育成を一人ひとりの管理職の資質に委ねるのではなく、組織の仕組みとして整えていくことが大切です。労務管理の観点から、三つの視点を挙げます。
①「助けあい」を仕組みにする ― 心理的安全性の土台づくり
「お互いに助けあう」職場を求める声は66.8%にのぼります。失敗を個人の責任で終わらせず、チーム全体の学びとして共有していく。質問しやすいルールや、知識を持ち寄って共有する場を整えていく。こうした取り組みによって、安心して声を上げられる環境(心理的安全性)が育まれます。これは、メンタル不調を未然に防ぐという、安全配慮義務の観点からも重要な土台となります。
②フィードバックを「個人技」から「仕組み」へ
1on1や日々のフィードバックを現場任せにせず、進め方の目安となる簡単なガイドラインを用意しておくことをおすすめします。
部下の話に耳を傾ける(46.4%)姿勢を保ちながら、改善すべき点は事実にもとづいて客観的に伝える。この両立ができると、若手が望む「丁寧さと厳しさの両立」が、特定の上司の力量に頼らない、再現性のある形で実現できます。評価制度や等級の基準と結びつけて伝えると、指導への納得感も高まります。
③成長と専門性に応える ― 仕事の意味を言葉にする
新入社員が重視するのは、成長(32.4%)、貢献(21.8%)、専門性(20.6%)です。金銭や競争といった外からの動機づけ以上に、「この仕事が誰の役に立ち、あなたのどんな力を伸ばすのか」を言葉にして伝えることが、意欲を支えます。社内研修や、面談を通じたキャリアの棚卸しといった能力開発・キャリア形成支援を、福利厚生であり定着策として位置づけたいところです。研修を計画的に進める際には、人材開発支援助成金などの公的制度の活用も選択肢に入ります。
変化の速い時代に企業が用意すべきは、過度に守られた環境ではなく、どこでも通用する力を、安心して身につけられる環境です。能力開発こそが、いまの時代における有効な定着策の一つだといえるでしょう。
育てる側も学び続ける
2026年の新入社員は、将来への不安を抱えながらも、それを乗り越えるために自分を高め続けようとする意志を持っています。
「成長したい(しなければならない)」という思いに丁寧に向き合い、安心できる土台の上で、適切な負荷と丁寧な指導を重ねていく。この積み重ねが、次の世代とともに歩む組織づくりへの近道になります。育てる側である経営・人事もまた、育成のあり方を見直し続けていきたいものです。
出典:株式会社リクルートマネジメントソリューションズ「新入社員意識調査2026」
社会保険労務士法人エスネットワークス
特定社会保険労務士M・K
事業会社での人事労務キャリアを活かし、社会保険労務士として活動中。労働法をめぐる人と組織に焦点を当てる「生きた法」の実践をモットーとし、専門家の立場からセミナーや講演を通して、企業に“予防労務”の重要性を呼び掛けている。日本産業保健法学会会員。