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【アウトソーシングほっとニュース】中東情勢に伴う「雇用調整助成金」活用ガイド~従業員の雇用を守りながら、次の飛躍に備えるために~

中東情勢の緊張が長引き、紅海ルートの混乱による物流の停滞や、エネルギー価格の乱高下が続いています。その影響は、原材料費の高騰や部品供給の遅れというかたちで、日本の中小企業の経営にも重くのしかかっています。最近では、「一時的に事業を縮小せざるを得ない」という声を耳にすることもあります。
こうした厳しい局面で、つい頭をよぎるのが人員整理かもしれません。しかし、いったん崩れた従業員との信頼関係を元に戻すのは簡単ではありません。景気が回復したとき、本当に必要な人材がもう社内にいない――。それは、会社の将来そのものを手放してしまうことにもなりかねません。
そこで検討していただきたいのが、「雇用調整助成金」です。これは、景気の悪化など経済的な理由で事業を縮小せざるを得なくなった会社が、従業員との雇用契約を終了せずに、休業や教育訓練によって雇用を維持した場合に、その費用の一部を国が支援してくれる制度です。
本記事では、社会保険労務士の視点から、この厳しい時期を乗り越えるための活用のポイントを、できるだけわかりやすく整理してご紹介します。

「雇用調整助成金」とは

この制度のねらいは、とてもシンプルです。景気の波による一時的な事業縮小に対して、「解雇ではなく、雇用を守る」という選択をした会社を後押しすること。それによって、会社の活力と、従業員の暮らしの両方を守ることを目的としています。
会社にとっては、次のようなメリットがあります。
●従業員との信頼関係を保てるため、景気回復後にスムーズに事業を立て直せる
●新たな人材の採用・育成にかかるコストを抑えられる
●地域や社会全体としても、雇用不安による消費の冷え込みを防げる
支援の中身は、会社が従業員に支払った休業手当などの一部の助成です。助成の割合は、中小企業で「3分の2」、大企業で「2分の1」が基本となります。

中東情勢の影響は、対象になるか

雇用調整助成金を受けるには、事業の縮小が「経済上の理由」によるものでなければなりません。では、中東情勢に関わる出来事は対象になるのでしょうか。

対象になる「経済上の理由」の例

雇用調整助成金ガイドブックに照らすと、次のようなケースは「経済上の理由」として認められます。
原材料が入りにくくなった:中東情勢による物流の混乱や、取引先の操業停止などで、部品や原材料が手に入らず、受注が減ってしまった
価格高騰で需要が落ちた:原油や原材料費の高騰で販売価格を上げざるを得なくなり、その結果、売れ行きが落ちた
為替の変動:情勢の緊迫に伴う円安などが、経営に影響を及ぼしている

対象にならないケース

一方で、次のような理由は「経済上の理由」には当たりません。申請のときに混同しないようご注意ください。
• 毎年繰り返される季節的な売上の変動
• 事故や災害による設備の損害
• 法令違反による行政処分 など

「中小企業」に当てはまるかどうか

助成の割合などを判断するうえで、「中小企業に当たるか」は大切なポイントです。次の表の資本金または従業員数のどちらか一方を満たせば、中小企業として扱われます。

業種

資本金・出資の総額

常時雇用する労働者数

小売業(飲食店を含む)

5,000万円以下

50人以下

サービス業

5,000万円以下

100人以下

卸売業

1億円以下

100人以下

その他の業種(製造業など)

3億円以下

300人以下

受給のための数値のハードル

申請にあたっては、いくつかの数値の条件をクリアする必要があります。特に「何と比べるのか」「誰が対象になるのか」を取り違えやすいので、順番に見ていきましょう。

① 売上などの減少(生産量要件)
直近3か月間の売上高などの月平均が、前年の同じ時期と比べて10%以上減っていることが必要です。※ 開設して1年未満の事業所は、前年同期と比較できないため、原則として対象外となります。
② 従業員を大きく増やしていないこと(雇用量要件)
直近3か月間の「雇用保険に加入している従業員」と「派遣労働者」の人数の月平均が、前年の同じ時期と比べて大きく増えていないことが条件です。
中小企業の場合は、「10%を超え、かつ4人以上」増えていなければ問題ありません(大企業は「5%を超え、かつ6人以上」増えていないこと)。雇用を維持するための助成金ですから、人員を大幅に増やしている会社は対象外、という考え方です。
③ 対象となるのは「勤続6か月以上」の従業員
助成の対象になるのは、休業などを行う前日まで、雇用保険に加入した状態で6か月以上続けて雇われている従業員に限られます。新卒や中途で入社して間もない方は、人数のカウントや助成の対象から外れる場合があるため、実務上の注意点です。

「休業」か「教育訓練」か ― 戦略的な選び方

雇用を維持する方法には、主に「休業」「教育訓練」「出向」の3つがあります。中でも多くの会社が検討されるのが、単なるコストカットとしての「休業」か、将来への投資としての「教育訓練」か、という選択です。

それぞれの特徴

休業:事前の準備が比較的簡単で、仕事量の増減に機動的に対応できます。短期間の調整に向いています。
教育訓練:仕事に関する知識や技能を身につけてもらうものです。普段は忙しくて手が回らない研修を実施することで、従業員のスキルアップにつながり、景気が回復したときの「巻き返し」に向けた準備ができます。
出向(参考):雇用を維持する目的で、3か月以上1年以内の期間、他社のもとで働いてもらう方法です。出向元と出向先に資本関係などの独立性があり、出向元が賃金の一部を負担していることなどが条件です。

教育訓練を選ぶときの「落とし穴」

教育訓練を選んだ場合、中小企業の助成割合は通常「3分の2」ですが、ここに大きな分かれ道があります。訓練を行った日数の割合(実施率)によって、もらえる金額が変わるのです。

訓練の実施率

助成の内容

10%未満

助成割合が 2分の1に下がってしまう

10%以上20%未満

助成割合「3分の2」+ 1人1日あたり1,200円を加算

20%以上

助成割合「3分の2」+ 1人1日あたり1,800円を加算

つまり、「少しだけ訓練をやってみる」つもりが、かえって助成額を減らしてしまうこともあるのです。受給額をしっかり確保し、かつ人材育成にもつなげるためには、計画的なカリキュラムづくりが何より大切になります。

助成の対象にならない訓練

なお、次のような訓練は助成の対象外です。
• 講師がいない自習や、ビデオを視聴するだけのもの
• 接遇マナー研修、趣味や教養を目的とするもの
• 労働安全衛生法などで義務づけられている講習(特別教育など)

知っておきたい助成額と上限

実際にいくら助成されるのか、上限とあわせて整理します。
• 助成の割合:中小企業は「3分の2」、大企業は「2分の1」
• 1人1日あたりの上限:8,870円(令和7年8月1日時点の金額です)
• 訓練を行った場合の加算:1人1日あたり1,200円〜1,800円(前述の実施率によって変わります)
また、もらえる日数にも上限があります。
• 1年間で最大100日
• 3年間で最大150日(過去3年間の受給実績を通算します)
• クーリング期間:過去に受給したことがある場合、前回の判定の基礎となった期間の末日から1年以上経過している必要があります。
長期的な視点で「いつ・どれくらい使うか」を計画しておくことが、上手な活用のコツです。

実務で間違えやすい「残業相殺」

実務で最もミスが起こりやすいのが、この「残業相殺」の計算です。
考え方の根っこにあるのは、「仕事がなくて休ませているはずなのに、なぜ別の日に残業が発生しているのか?」という、制度の公平性を守るための趣旨です。残業などがあった時間は「その分の仕事はあった」とみなされ、助成の対象となる休業日数から差し引かれます。
たとえば、次のようなケースを考えます(1日の所定労働時間は8時間とします)。
• 従業員10人が、それぞれ10日間休業 … 合計100人日
• そのうち4人が、別の日に5日間、毎日2時間ずつ残業をした
このとき、相殺される日数は次のように計算します。
4人 × 5日 × 2時間  ÷ 8時間 = 5人日分
したがって、助成の対象となる日数は、
100人日 - 5人日 = 95人日分
となります。残業や休日出勤があると、その分が差し引かれる、という点を覚えておいてください。

不正受給は厳禁 ― 厳しくなる調査

近年、調査は非常に厳格になっています。安易な気持ちで不正確な申請をしてしまうと、会社にとって取り返しのつかない事態になりかねません。
• 立ち入り調査:労働局による実地調査は受け入れる義務があります。拒否すれば、不支給や支給決定の取り消しとなります。
• 会社名の公表:不正が発覚した場合、事業主名などが公表され、社会的な信用を失うことになります。• 5年間は申請できない:不正による取り消しを受けると、その後原則5年間は助成金の申請ができなくなります(特例を利用していた場合などは、さらに延びることもあります)。
賃金台帳や出勤簿などの書類をきちんと整え、正確に申請することが、結果的に会社を守ることにつながります。

まとめ ― 申請までのステップ

中東情勢という外部の要因を、私たちの力でコントロールすることはできません。けれども、会社の大切な財産である「人材」を守り抜くことは、経営者の決断ひとつで可能です。
申請に向けては、次のステップで進めていきます。
①労使協定を結ぶ:休業などを始める前に、従業員の代表と書面で合意しておくことが欠かせません。  
②日数の上限を確認する:1年で100日、3年で150日という上限を意識し、長期的な視点で計画を立てましょう。
③クーリング期間をチェックする:過去に受給歴がある場合、前回から1年以上空いているかを確認します。
④早めに専門家・公的機関へ相談する:計画届の作成には専門的な知識が必要です。都道府県の労働局、ハローワーク、または社会保険労務士へ、できるだけ早めにご相談ください。

中東情勢の混乱による停滞期を、単なる「損失の時期」とするのではなく、助成金を活用して組織を強くする「次の飛躍に向けた準備期間」へと変えていく。私たちは、そのお手伝いをいたします。お困りの際は、どうぞお気軽にご相談ください。
※ 本記事の内容は令和8年4月1日現在の情報をもとにしています。制度は改正される可能性があるため、申請の際は厚生労働省のホームページなどで最新の情報をご確認ください。


社会保険労務士法人エスネットワークス
特定社会保険労務士M・K

事業会社での人事労務キャリアを活かし、社会保険労務士として活動中。労働法をめぐる人と組織に焦点を当てる「生きた法」の実践をモットーとし、専門家の立場からセミナーや講演を通して、企業に“予防労務”の重要性を呼び掛けている。日本産業保健法学会会員。





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