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【アウトソーシングほっとニュース】「早期・希望退職」を正しく理解する ——人事担当者として知っておきたい、リストラの「今」

東京商工リサーチは4月30日、2025年度における上場企業の「早期・希望退職」募集状況を発表しました。
2024年度に早期・希望退職の募集を受けた人数は8,326人。それが2025年度には20,781人と、わずか1年で2.5倍超に膨れ上がりました。ところが、これはコロナ禍のような「企業が苦しいから人を削る」という話ではありません。2025年度に募集をかけた企業の約7割は、直近が黒字なのです。
「業績が良いのに、なぜ?」——この疑問を解くところから、今日の記事を始めましょう。

「リストラ」のイメージが、もう古い

かつてのリストラは、経営危機に追い込まれた企業の「最終手段」でした。でも今は違います。
現代の早期・希望退職が目指しているのは、「会社が生き残るための人員削減」ではなく、「会社が成長し続けるための人材の入れ替え」です。

わかりやすく言うと、こういうことです。
「DX(デジタル化)や新規事業を進めたい。でも、社内にそのスキルを持つ人が足りない。一方で、今の仕事の一部はAIに置き換えられる。だから、古い仕事を担っていた人には退職してもらい、新しい仕事を担える人を採用・育成したい。」
これが「黒字リストラ」の正体です。人が余ったから切るのではなく、必要なスキルが変わったから動く。それが今の実態です。

なぜ「解雇」ではなく「希望退職」なのか

「会社都合で辞めさせたいなら、解雇すればいいのでは?」と思う方もいるかもしれません。
ところが日本の労働法では、会社が一方的に解雇を行うのは非常に難しいのです。整理解雇が認められるには、裁判所が判断する「整理解雇の四要素」という厳しいハードルを越える必要があります。「業績は良いが、将来のために人員を絞りたい」という理由では、まず認められません。
だからこそ企業は、高額の割増退職金を上乗せして、従業員に「自らの意思で退職してもらう」という形を選びます。これが早期・希望退職の制度設計の根本にある発想です。

【人事担当者として押さえておくべき点】
 社員が「辞めたくないのに追い詰められた」と感じれば、後から「退職強要だった」と訴えられるリスクが生じます。手続きの丁寧さと、本人の自由意思の尊重が、実務上の最大の注意点です。

どの業界で、何が起きているのか

募集の中心は、電気機器をはじめとした製造業です。2024年度は全募集の約8割を製造業が占め、パナソニックHD・三菱電機・シャープといった名前が並びます。ただし、同じ製造業でも「なぜ募集しているか」は会社によって大きく異なります。

タイプ

代表例

背景

攻めの削減(黒字)

パナソニックHD、三菱電機

間接部門の効率化・次世代事業へのシフト

守りの削減(赤字・苦境)

シャープ、ジャパンディスプレイ

不採算部門からの撤退、収益回復のための止血

また、米国の関税引き上げ(いわゆるトランプ・リスク)も大きな要因です。自動車25%、その他24%という高関税が現実となりつつある中、グローバルに展開するメーカーは、コスト構造の見直しを急いでいます。

AIが変えた「削減の単位」

もう一つ、2025年度の注目点があります。それが生成AIの普及です。
大企業の約6割が生成AIを導入している今、これまで人が行っていた定型的な事務処理・データ集計・書類作成などの「タスク」が、AIに置き換わりつつあります。
以前は「この職種を廃止する」という単位で人員が見直されていました。でも今は、「この仕事の中のこのタスクだけ、AIで代替できる」という細かい単位で、コストが見直されています。
間接部門(総務・経理・人事など)で大規模な早期退職募集が相次いでいるのは、この変化が背景にあります。

「50歳以上」がターゲットになっている理由

三菱ケミカルグループや明治HDなど、「50歳以上」を対象とした募集も目立ちます。
これには人件費の問題だけでなく、年功序列型の組織構造を変えたいという意図があります。ベテラン層が多く、若手の昇進やキャリアアップの機会が詰まっている——そういった「年齢ピラミッドの歪み」を修正したい企業が増えています。
ただし、50代のベテラン社員に「辞めてください」と伝えるだけでは、本人も傷つき、残った社員の士気も下がります。だからこそ重要なのが、「セカンドキャリア支援」のパッケージです。
2024年度にマツダが実施した500名規模の支援制度は、その好例です。転職支援・スキルアップ研修・相談窓口の設置など、「辞めた後の人生を応援する」仕組みを整えることで、退職する社員への誠実さを示し、残る社員に対しても「この会社は人を大切にしている」というメッセージを届けることができます。

中小企業の人事担当者にとっての「チャンス」

「これは大企業の話でしょ?うちには関係ない」と思っていませんか?
実は、大企業が放出した2万人超の経験豊富な人材は、中小企業にとって「10年に一度の採用好機」です。これまで大手のブランドに守られていた優秀な人材が、転職市場に出てくる。それも、相当数。
ただし、受け入れるためには準備が必要です。大手とは異なる賃金水準・評価制度・働き方を、正直にオープンにした上で、「うちだからこそできるキャリア」を提示できるかどうか。そこが採用の勝負どころになります。

最後に:人事担当者に伝えたいこと

早期・希望退職の波は、一過性のブームではありません。企業が「定期的に組織を見直す」ことが当たり前になっていく、構造的な変化です。
その中で、人事担当者の役割も変わっています。書類を整えるだけでなく、「退職していく人の次の人生を、どう支えるか」「残る人のモチベーションを、どう守るか」——その両方に向き合うことが、これからの人事には求められています。
難しい局面ほど、人事の姿勢が会社全体の信頼につながります。法令を守ることは大前提として、誠実さと丁寧さを軸に、一つひとつの対応に向き合っていきましょう。

参考:東京商工リサーチ(TSR)「早期・希望退職募集状況」20242025年度データをもとに構成


社会保険労務士法人エスネットワークス
特定社会保険労務士M・K


事業会社での人事労務キャリアを活かし、社会保険労務士として活動中。労働法をめぐる人と組織に焦点を当てる「生きた法」の実践をモットーとし、専門家の立場からセミナーや講演を通して、企業に“予防労務”の重要性を呼び掛けている。日本産業保健法学会会員。




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