【アウトソーシングほっとニュース】住宅手当は割増賃金の算定基礎に含めるべき? 名称ではなく「実態」で判断を

和歌山労働基準監督署は、事業場が自ら労働基準法などの守るべきルールを点検できる「労働基準法等チェックリスト」を作成しました。割増賃金(残業代など、通常の賃金に上乗せして支払う賃金)の計算方法や、各種協定を届け出る際の注意点など、41項目の確認を求める内容です。
このチェックリストは、36協定(時間外労働・休日労働に関する協定届)や就業規則の未届けが疑われる事業場に対し、働き方改革推進支援センターの紹介リーフレットなどとあわせて送付されるもので、送付先は約300事業場にのぼるとされています。
和歌山労基署には、割増賃金を計算するときに各種手当をどう扱えばよいか、始業時間より前にタイムカードを打刻した場合の時間を労働時間としてカウントするのか、といった相談が会社側・労働者側の双方から数多く寄せられているそうです。
こうした背景から、監督署が個別に指導する前に、まずは各事業場が自主的に法令遵守の状況を確認できるようにとの狙いで、今回のチェックリストが作成されました。
チェックリストは「定義等」「一般労働条件等」「労働時間適正把握・割増賃金等」「長時間労働対策等」「健康診断等」の分野に分かれており、主に次のような項目が並んでいます。
チェックリストには、実務で間違えやすいポイントも盛り込まれています。たとえば次のような点です。
割増賃金の単価計算から除外できるのは、家族手当、子女教育手当、通勤手当、別居手当、住宅手当、臨時の手当(結婚・出産等)の6種類(およびこれらに準ずるもの)のみで、それ以外の手当は原則として計算に含める必要があります。「手当だから残業代の計算に入れなくてよい」というわけではありません。
また、除外できるかどうかは手当の「名称」ではなく「実態」で判断されます。たとえば「住宅手当」という名前であっても、住宅にかかる費用と関係なく全員に一律で支給しているような場合は、除外できず計算に含めなければなりません。
時間外手当の支払いが不要となる「管理監督者」と認められるには、経営者と一体的な立場で仕事をしていること、出社・退社や勤務時間について厳格な制限を受けていないこと、その地位にふさわしい待遇がなされていることといった要件を満たす必要があります。役職名だけでは判断できません。
日々の労働時間の端数を切り捨てて集計することは認められていません。
今回のチェックリストは和歌山労基署が作成したものですが、内容は労働基準法など全国共通のルールに基づいており、どの地域の会社にとっても自社の労務管理を見直すための有用なツールです。
労働基準法は、派遣、パート、有期契約、18歳未満、外国人、障がい者等の名称を問わず、全ての労働者に適用されます。また、労働基準法は取締法規であり、法違反は罰則(拘禁刑又は罰金)の対象となります。「知らなかった」では済まされない分野だからこそ、チェックリストを活用した定期的な自主点検をおすすめします。
チェックリストの本文は、和歌山労働局のホームページで公開されています。
東京都内の私立大学法人が、定額で支給していた住宅手当を割増賃金(残業代など)の算定基礎に含めていなかったとして、王子労働基準監督署から是正勧告を受けました。
同法人の住宅手当の支給状況は、次のとおりでした。
・その他の職員(世帯主で扶養家族のない者・非世帯主):月17,500円
このように、実際にかかる住宅費用とは関係なく、世帯主かどうか・扶養家族がいるかどうかという基準で金額が決まっていたため、「住宅手当」という名前であっても、割増賃金の算定基礎から除外できる住宅手当には該当しないと判断されました。
その結果、1時間あたりの賃金が本来より低く計算され、未払いの割増賃金が発生していたとされています。報道によれば、未払い額は年間1,800万円に上るとされ、同法人は約6年分を遡って支払う方針を示しており、必要な支払総額は1億円以上になる見込みです。
出典:【今週の視点】住宅手当 定額支給は割増算定基礎へ 私立大に是正勧告|労働新聞 今週の視点|労働新聞社
労働基準法第37条第5項および同法施行規則第21条では、割増賃金(時間外労働・休日労働・深夜労働の割増賃金)を計算する際の基礎となる賃金から除外できるものとして、次の7つが限定列挙されています。
②通勤手当
③別居手当
④子女教育手当
⑤住宅手当
⑥臨時に支払われた賃金
⑦1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金
重要なポイントは、これら7つは「限定列挙」であるという点です。つまり、この7つに該当しない手当は、すべて割増賃金の算定基礎に含めなければなりません。
さらに、上記に該当するかどうかは、手当の「名称」ではなく「実態」で判断されます。たとえ「住宅手当」という名称で支給していても、その内容が法令で定める住宅手当の要件を満たしていなければ、算定基礎から除外することはできません。
通達(平成11年3月31日基発第170号)では、割増賃金の算定基礎から除外できる住宅手当について、「住宅に要する費用に応じて算定される手当」と定義しています。
・賃貸住宅の場合:賃料(家賃)
・持ち家の場合:購入費用・管理費用
・住宅費用に一定の率を掛けた金額で支給する方法(例:住宅費の60%を支給)
・住宅費用を段階的に区分し、費用が増えるほど手当額も増える方法(例:住宅費が10万円までは5万円、20万円までは10万円を支給)
反対に、住宅にかかる費用とは関係なく、一律・定額で支給される手当は、ここでいう住宅手当には該当しません。
今回の事案では、世帯主かどうかや扶養家族の有無を基準に金額を決めて一律支給していたため、通達が「住宅手当に当たらない例」として挙げる「住宅以外の要素に応じて定率又は定額で支給することとされているもの(例えば、扶養家族がある者には2万円、扶養家族がない者には1万円を支給することとされているようなもの)」に該当すると判断されたとみられます。
今回の事案では、月平均所定労働時間(割増賃金の単価を計算する際の分母となる時間数)の算出方法についても指導が行われました。
土曜日の実際の所定労働時間は4時間だったにもかかわらず、平日の所定労働時間である7時間勤務したものとして計算していたため、本来151時間であるべき月所定労働時間が163時間として計算されており、結果として1時間あたりの賃金が低く算出されていました。
割増賃金の計算では、月平均所定労働時間を実態に即して正しく算出することも重要です。
労働政策研究・研修機構が令和8年3月に公表した「福利厚生に関する労働者調査」によると、正社員が必要だと思う福利厚生制度・施策のトップは「家賃補助や住宅手当の支給」で38.8%でした。非正社員を含めた結果でも32.6%と、「人間ドック受診の補助」「慶弔見舞金制度」に次いで3番目に多くなっています。
年齢階級別にみても、10歳代20.0%、20歳代33.7%、30歳代37.1%、40歳代33.2%、50歳代33.5%、60歳代28.4%と、幅広い年齢層にニーズがあることがわかります。
人材採用・定着の観点からも住宅手当は注目される福利厚生ですが、支給方法を誤ると今回のように多額の未払い割増賃金が発生するリスクがあります。
現在、定額の住宅手当を支給し、割増賃金の算定基礎から除外している企業は、運用を改める必要があります。具体的には、次のような対応が考えられます。
①住宅手当の支給方法を、住宅費用に応じた算定方法(実費連動型)に見直す
②現行の定額支給を維持したうえで、割増賃金の算定基礎に含めて計算する
③過去に未払い賃金が発生している場合は、遡って清算する
いずれの対応をとる場合も、給与規程の改定や、従業員への丁寧な説明が必要となります。また、住宅手当だけでなく、家族手当・役職手当など他の諸手当についても、割増賃金の算定基礎に含めるべきものが除外されていないか、この機会に総点検することをおすすめします。
住宅手当をはじめとする諸手当の取扱い、給与規程の見直し、未払い割増賃金の清算手続など、賃金制度に関するご相談は当法人までお気軽にお問い合わせください。貴社の実態を踏まえ、法令に適合した運用方法をご提案いたします。
を書いたのは・・・社会保険労務士法人エスネットワークス
社会保険労務士K・E
労働保険事務組合での実務経験を活かし、女性ならではの視点で、相談しやすく寄り添ったサポートを心がけています。