【アウトソーシングほっとニュース】2026年度新入社員の「本音」から読み解く、 人材育成の3つのヒント
4月22日、東京商工会議所が新入社員858名を対象に実施した「新入社員意識調査」の結果が公表されました。毎年注目されるこの調査ですが、今年のデータにはこれまでとやや異なる傾向が見られます。「うちの新入社員、何を考えているのかわからない」「どう関わればいいのか迷っている」——そんなお悩みを抱える人事担当者の方に向けて、今回はこの調査結果を社会保険労務士の視点から読み解き、現場で使える育成のヒントをお伝えします。
まず押さえたい「今年の新入社員」の特徴
今年の新入社員を一言で表すなら、「意欲はあるが、不安も大きい」 世代です。
就職活動については、2023年度以降「順調だった」と感じる層が増加傾向にありましたが、2026年度はやや低下し、「厳しかった」と感じる層が再び増えています。売り手市場と言われながらも、「自分が本当に行きたい会社に入れたのか」という漠然とした不透明感を抱えたまま入社しているケースも少なくないようです。
また、就職先を決める際に最も重視したのは「社風・職場の雰囲気(57.9%)」で、次いで「処遇面(53.1%)」となっています。給与よりも「この職場でうまくやっていけそうか」を先に見ている点は、採用広報や入社前フォローを考えるうえで重要な示唆です。
「不安」を放置しないことが、定着への第一歩
最も注目すべきデータが、96.9%という不安の割合です。ほぼ全員が、何らかの不安を抱えて社会人生活をスタートしています。
不安の内容を具体的に見ると、「仕事が自分の能力や適性に合っているか(48.7%)」が最多で、次いで「上司・先輩・同僚とうまくやっていけるか(44.3%)」、「仕事と私生活のバランスがとれるか(41.4%)」と続きます。
注目したいのは、上位3項目のいずれも「仕事ができるかどうか」よりも「自分はここに居場所があるか」という不安だという点です。能力不足への不安よりも、この組織に溶け込めるか、という感覚的な不安が根底にあります。
この不安を早期に和らげることができるかどうかが、メンタルヘルス不調や早期離職を防ぐカギになります。入社後3ヶ月は特に注意が必要な時期です。定期的な面談や、気軽に相談できる先輩社員との関係づくりなど、「孤立させない」ための仕組みを意識的に設けることをお勧めします。
「飲みニケーション不要」は誤解——新入社員が求めているもの
「最近の若者は職場での付き合いを嫌う」というイメージをお持ちの方も多いかもしれませんが、今回の調査はそのイメージを少し修正してくれます。
87.1%の新入社員が、何らかの業務外コミュニケーションを求めているのです。
ただし、求める「場」は少し変わっています。最も多かったのは「仲の良い同僚などとのランチ(48.6%)」、次いで「オフィシャルな懇親会・飲み会(42.4%)」でした。強制参加のような雰囲気ではなく、関係性ができた相手と、自然な形でつながりたいというニーズです。
かつてのように「とりあえず全員で飲みに行く」スタイルは敬遠されがちですが、だからといって放っておいてよいわけではありません。「一緒にランチに行く」「少人数での歓迎会を設ける」といった、小さくて心理的ハードルの低い交流の場を、組織として意図的にデザインすることが大切です。
入社前のフォローについても、約8割(79.3%)の企業が懇親会や職場見学などを実施しており、内定後から関係性を築く取り組みが広がっています。まだ実施していない場合は、まず「人事担当者や同期との小規模な懇親会」から始めることを検討してみてください。
「主体性」と「規律性」のギャップ——知っておきたい認識のズレ
経済産業省が提唱する「社会人基礎力」の12の能力要素のうち、新入社員が「仕事で大事にしたい」として最も多く選んだのは「主体性(60.3%)」、次いで「実行力(40.8%)」でした。
一方で、育成担当者が「新入社員に大事にしてほしい」と期待する能力として高かったのは「主体性(76.4%)」と同時に、「規律性(29.8%)」でした。ところが新入社員が規律性を選んだ割合はわずか8.2%。約3.6倍の認識差があります。
「自分で考えて動きたい」という意欲は十分あるけれど、社会人としてのルールや礼儀に対する意識はまだ薄い——これが2026年度の新入社員の素直な姿です。
この差を「最近の若者は」と嘆くのは得策ではありません。むしろ、規律やルールの「意味」を丁寧に伝えることが育成の出発点です。「なぜその連絡が必要なのか」「なぜその行動が組織への信頼につながるのか」を、頭ごなしに言うのではなく、背景を説明しながら伝える姿勢が求められます。
新入社員が「理想の上司」に求めるもの
「理想の上司」として重視するポイントを尋ねると、1位は「仕事の指導を丁寧に行うこと(49.8%)」、2位「人間関係・チームワークを重視すること(36.8%)」、3位「明確な理念や考えを持っていること(35.3%)」でした。
「厳しく叱ってくれる上司」よりも、「丁寧に教えてくれる上司」「方向性を示してくれる上司」が求められています。
理想の上司のイメージに近い有名人として、芸能界では水卜麻美さん(誠実で親しみやすいイメージ)、スポーツ界では大谷翔平さん(プロ意識と自己成長)が選ばれており、歴史上の人物では織田信長が1位という、少し意外な結果も出ています。
織田信長が選ばれた背景には、「優しいだけでなく、ビジョンを持って引っ張ってくれるリーダー」への期待があるのではないでしょうか。今の新入社員は、「優しさ」と「方向性の明確さ」の両方を上司に求めているのです。
現場のマネージャーへの研修や、フィードバックの機会をつくることが、新入社員の不安解消と定着率向上に直結します。上司のマネジメントスキル向上も、人事部門の重要な役割です。
管理職志向は高い——でも「自信がない」が壁になっている
「管理職を目指したいか」という問いに対し、60.5%が「目指したい」と回答しています。意外と高い数字です。
その理由の1位は「自己成長のため(44.1%)」。出世欲ではなく、成長実感を求めて管理職を志望しているのがこの世代の特徴です。
一方で、「目指したくない」と答えた層のうち、その理由として最も多かったのが「自分には適性がなさそうだから(47.2%)」でした。「なれない」のではなく「自分には向いていない気がする」という漠然とした自己不信が、一番の障壁になっています。
これは裏を返せば、適切なフィードバックと成長実感があれば、管理職志向はさらに高まるということです。
日頃から「あなたのこういう行動が周囲にこんな良い影響を与えた」という具体的なフィードバックを続けること、そして「成長している自分」を本人が実感できる機会を設けることが、将来の幹部候補を育てる一番の近道です。
まとめ:人事担当者が今日からできること
今回の調査データを踏まえ、特に優先的に取り組んでいただきたいポイントを3点にまとめました。
① 「孤立させない」仕組みをつくる
96.9%が不安を抱えています。入社後3ヶ月は定期面談を設け、ランチや小規模な懇親会など、心理的ハードルの低い交流の場を意図的に用意しましょう。
② 規律やルールは「理由」とセットで伝える
「なんとなくそういうもの」では通じません。「なぜそのルールがあるのか」「それが信頼につながる 理由」を丁寧に説明することで、新入社員の納得感が生まれます。
③ フィードバックで「自信」を育てる
管理職を目指したくない最大の理由は「適性への不安」です。具体的で前向きなフィードバックを積み重ねることで、自己肯定感と成長実感を育て、将来の幹部候補を育成していきましょう。
人材育成は、一朝一夕には成果が出ません。しかし、新入社員の「本音」を正しく理解したうえで関わることで、定着率の向上や組織の活性化につながっていきます。
労働条件を整えることと、一人ひとりの成長を支援する文化をつくること——この両方が、これからの人事担当者に求められる役割です。
日々の現場でお困りのことがあれば、ぜひエスネットワークスにご相談ください。
社会保険労務士法人エスネットワークス
特定社会保険労務士M・K
事業会社での人事労務キャリアを活かし、社会保険労務士として活動中。労働法をめぐる人と組織に焦点を当てる「生きた法」の実践をモットーとし、専門家の立場からセミナーや講演を通して、企業に“予防労務”の重要性を呼び掛けている。日本産業保健法学会会員。