【アウトソーシングほっとニュース】2026年度初任給に関する企業の動向アンケート(帝国データバンク)

止まらない物価上昇のなかで、「給与はどこまで上がるのか」という関心は企業・個人双方にとって現実的なテーマとなっています。とりわけ人手不足が続く環境下では、新卒採用における初任給の設定は、単なる待遇条件ではなく、企業の人件費戦略の一部として位置付けられます。
帝国データバンクが公表した「2026年度初任給に関する企業の動向アンケート」からは、賃上げ傾向の継続とともに、その持続可能性に対する慎重な姿勢も読み取れます。本稿では、データを確認しながら実務上の論点を整理します。
引き上げ企業は67.5% ― 高水準を維持
2026年4月入社者の初任給を「引き上げる」と回答した企業は67.5%でした。前年(71.0%)からはやや低下していますが、依然として約7割が引き上げを予定しています。
平均引き上げ額は9,462円で、前年より増加しています。分布では「1万円~2万円未満」が最多となっています。
この結果から、初任給引き上げの流れは続いているとみられます。ただし、引き上げ割合がやや低下している点からは、原資確保の難しさや前年に大幅改定を実施した企業の調整局面といった事情も背景にあると考えられます。
規模別の違い ― 小規模企業の慎重姿勢
企業規模別では、大企業65.6%、中小企業68.2%に対し、小規模企業は50.0%にとどまっています。
小規模企業では、物価上昇や社会保険料負担増の影響を受け、収益とのバランス上、初任給引き上げが難しいとの声が見られます。一方で、中小企業が大企業と同水準で改定を実施している点は、人材確保の必要性が強いことを示しているとも考えられます。
ただし、この対応が長期的に持続可能かどうかは別問題です。賃金テーブル全体を見直さず初任給のみを引き上げる場合、将来的な昇給構造との整合性が課題となります。
初任給水準の分布 ― 20万円台が中心
支給額分布では、「20万円~25万円未満」が61.7%と最多です。「25万円~30万円未満」は17.8%で前年より増加しています。一方、「20万円未満」は減少しています。
20万円未満の割合が縮小していることから、一定の底上げ傾向は確認できます。ただし、25万円以上が標準化したとは言い難く、依然として中心は20万円台前半から中盤です。
企業が水準を検討する際は、全国平均ではなく、自社の業種・地域・職種特性との比較が重要になります。
引き上げの理由と見送りの背景
引き上げ理由としては、
- 人材確保・定着率向上
- 物価上昇への対応
- ベースアップとの連動
などが挙げられています。
一方、据え置きとした企業は32.5%あります。その背景には、
- 既存社員との給与バランスへの懸念
- 原資不足
- 前年度に大幅改定を実施済み
といった事情が見られます。
特に既存社員との「逆転現象」への懸念は、実務上無視できません。初任給のみを引き上げた場合、中堅層との処遇差が縮小し、内部の納得感に影響する可能性があります。
実務上の論点 ― 初任給は制度全体の問題
初任給の改定は、単年度の採用施策にとどまりません。以下の点をあわせて検討する必要があります。
- 昇給カーブの設計
- 等級制度との整合性
- 総額人件費への影響
- 社会保険料負担の増加分
1万円弱の引き上げでも、在籍者全体に波及すれば累積コストは小さくありません。賃金制度全体を見渡した設計が求められます。
今後の検討課題
2026年度の調査は、初任給引き上げが依然として主流であることを示しています。ただし、その背景や持続可能性は企業ごとに異なります。
企業としては、
- 市場水準との比較
- 既存社員とのバランス
- 数年単位での人件費シミュレーション
- 価格転嫁や生産性向上との関係
を含めた総合的な判断が必要になります。
初任給は採用の入口であると同時に、賃金制度全体の出発点でもあります。
今回のデータは、自社の賃金設計を改めて点検する材料として活用することが適切ではないでしょうか。
出典:帝国データバンク「2026年度初任給に関する企業の動向アンケート」
この記事を書いたのは・・・

社会保険労務士法人エスネットワークス 社会保険労務士 T.Y レストランでの接客から人事労務の世界へ転身しました。難しくなりがちな労務の話も身近に感じてもらえるようにお届けしていきます。