【アウトソーシングほっとニュース】スポットワークにおける適切な労務管理について
多くの企業がスポットワークサービスを利用し、スポットワークという働き方が様々な年齢層・業種・地域に広がり浸透していくにつれて、利用企業の法令遵守を支援し、働き手の保護を図る必要性が一層高まっています。
これを受けて、厚生労働省は、7月4日、いわゆる「スポットワーク」※における留意事項等を取りまとめたリーフレットを公表しました。労働者向け、使用者向けにそれぞれ作成し、スポットワークの雇用仲介を行う事業者が加入する一般社団法人スポットワーク協会に対し、会員を通じた労働者及び使用者への当該リーフレットの周知等を要請しました。
リーフレットでは、労働契約の成立時期、休業手当、賃金・労働時間に関する注意点を掲載しています。
※スポットワークとは、短時間・単発の就労を内容とする雇用契約のもとで働くことをいいます。また、スポットワークにはさまざまな形態がありますが、このリーフレットでは、スポットワークの雇用仲介を行う事業者(以下「スポットワーク仲介事業者」という。)が提供する雇用仲介アプリを利用してマッチングや賃金の立替払を行うものを対象とします。
労働契約締結時における注意点
①労働契約の成立時期について
スポットワークは、事業主とスポットワーカーが直接労働契約を締結することとなり、労働基準法等を守る義務は、労働契約を締結した事業主に生じます。スポットワーカーとスポットワーク仲介事業者が労働契約を結ぶものではありませんので、ご注意ください。
労働契約の成立時期は個別の具体的な状況によります。スポットワークでは、アプリを用いて、事業主が掲載した求人にスポットワーカーが応募し、面接等を経ることなく、短時間にその求人と応募がマッチングすることが一般的です。面接等を経ることなく先着順で就労が決定する求人では、別途特段の合意がなければ、事業主が掲載した求人にスポットワーカーが応募した時点で労使双方の合意があったものとして労働契約が成立するものと一般的には考えられます。
労働契約成立後の解約(キャンセル)について、その事由や期限をあらかじめ示した契約(解約権留保付労働契約※)を労使間で締結する場合には、当該事由が合理的であることや、労使対等の原則(労働契約法第3条第1項)の趣旨を踏まえスポットワーカーにのみ不利な内容にならないことに留意する必要があります。
また、一旦確定した労働日や労働時間等の変更は、労働条件の変更に該当し 、事業主とスポットワーカー双方の合意が必要です。
※労働者と使用者の双方が所定の解約権を有する内容の労働契約をいいます。
資料出所:一般社団法人スポットワーク協会「スポットワークサービスにおける適切な労務管理に向けた考え方」
②労働条件の明示について
事業主は、スポットワーカーに対し、予定された就業開始前に労働条件を明示することが必要です。労働条件を明示しなかった場合には、労働基準法違反となります。
労働条件通知書の交付はスポットワーク仲介事業者が代行してくれる場合もありますが、交付は事業主の義務であるたため、きちんと交付されているか、その内容は適切か、事業主は確実に確認してください。また、スポットワーク仲介事業者から交付されていない場合、事業主から交付してください。
休業させる場合の注意点
労働契約成立後に事業主の都合で丸1日の休業(キャンセル)または仕事の早上がりをさせることになった場合は、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由による休業」となるため、スポットワーカーに対し、所定支払日までに休業手当を支払う必要があります。なお、事業主自身の故意、過失等により労働者を休業させることになった場合は、賃金を全額(休業手当を既に支払っている場合は当該手当を控除した額)支払う必要があります(民法第536条第2項)ので、注意してください。
賃金・労働時間に関する注意点
事業主の指示により、就業を命じた業務に必要な準備行為(指定の制服への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(掃除等)を就業先内において行った時間なども労働時間に当たります。また、事業主の指示により待機を命じた時間も労働時間に該当することから、事業主は待機時間に対する賃金を支払う必要があることに留意してください。
スポットワーカーから予定していた労働時間と異なる実際の労働時間による修正の承認申請がなされた場合、事業主は、予定された労働時間に基づき勤務した賃金は遅滞なく支払うとともに、予定と異なる労働時間について速やかに確認し、労働時間を確定させましょう。
その他の注意点
スポットワーカーが通勤の途中または仕事中にケガをした場合、スポットワーカーは就労先の事業について成立する保険関係に基づき労災保険給付を受けることができます。
スポットワーカーに対するパワハラやセクハラなどハラスメント防止のため、相談窓口の設置等の措置を講じましょう。
一般社団法人スポットワーク協会では、厚生労働省からの協力依頼を受けて、「スポットワークサービスにおける適切な労務管理へ向けた考え方」を取りまとめ、この考え方に基づき会員企業において順次必要な対応を進めていくこととされています。
また、使用者及びスポットワーク仲介事業者向けに作成した「考え方についてのリーフレット」を活用し、スポットワーク業界の健全な発展に向け、労働関係法令の周知・啓発活動を強化していくとのことです。
厚生労働省の出した指針に沿って、各社サービスでもスポットワーカーを守る仕組みの整備が進んでいくと思います。
この記事を書いたのは・・・
社会保険労務士法人エスネットワークス
特定社会保険労務士M・K
事業会社での人事労務キャリアを活かし、クライアントの労務顧問を務めている。労働法をめぐる人と組織に焦点を当てる「生きた法」の実践をモットーとし、社会保険労務士の立場からセミナーや講演を通して、企業に“予防労務”の重要性を呼び掛けている。日本産業保健法学会会員