【アウトソーシングほっとニュース】労働安全衛生法及び作業環境測定法改正のポイント
多様な人材が安全にかつ安心して働き続けられる職場環境の整備を推進するため、「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」が5月8日に第217回国会で成立し、5月14日に公布されました。
今般、厚労省から、改正内容について案内するリーフレットが公開されましたので、主なポイントをご紹介します。
個人事業者等の安全衛生対策の推進
労働者と同じ場所で働く個人事業者等を労働安全衛生法による保護の対象及び義務の主体として位置づけ、注文者等や個人事業者等自身が講ずべき各種措置を定めました。
①注文者等の配慮(令和7年5月14日施行)
労働安全衛生法第3条第3項に規定されている注文者などへの注文時の施工方法や工期などに対する配慮規定について、今回の法改正により、こうした規定が建設工事以外の注文者にも広く適用されることを明確化しました。
②混在作業場所における元方事業者等への措置義務対象の拡大(令和8年4月1日施行)
(特定)元方事業者が混在作業場所において、自社及び関係請負人等に雇用されている労働者の災害防止のために講ずべき必要な指導や連絡調整等の措置について、その対象が当該労働者から個人事業者等を含む作業従事者に拡大されました。
また、政令で定められた機械等または建築物を他の事業者に貸与する者が災害防止のために講ずべき措置について、個人事業者等に貸与する場合にも当該措置を講ずることとされました。
③業務上災害報告制度の創設(令和9年1月1日施行)
個人事業者等の業務上災害が発生した場合には、災害発生状況などについて、厚生労働省に報告させることができることとしました。報告主体や報告事項などの報告の仕組みの詳細は今後、関連する法令等により示すこととしています。
④個人事業者等自身への義務付け(令和9年4月1日施行)
個人事業者等自身に対して、労働者と同一の場所において作業を行う場合に、構造規格や安全装置を具備しない機械などの使用の禁止、特定の機械などに対する定期自主検査の実施、危険・有害な業務に就く際の安全衛生教育の受講などを義務付けることとしました。
⑤作業場所管理事業者への連絡調整措置の義務付け(令和9年4月1日施行)
作業場所管理事業者(仕事を自ら行う事業者であって、当該仕事を行う場所を管理するものをいいます。)に対して、その管理する場所において、自社または請負人の作業従事者のいずれかが、危険・有害な業務を行う場合に、災害防止の観点から、作業間の連絡調整等の必要な措置を講ずることが義務付けられました。
職場のメンタルヘルス対策の推進
ストレスチェックについて、現在当分の間努力義務となっている常用労働者数50人未満の事業場においても、ストレスチェックや高ストレス者への面接指導の実施が義務付けられました。施行日は、公布後3年以内に政令で定める日です。
化学物質による健康障害防止対策等の推進
①危険性及び有害性情報の通知制度の履行確保(公布後5年以内に政令で定める日から施行)
化学物質の譲渡・提供時における危険性及び有害性情報の通知(SDS:安全データシートの交付)の履行確保のため、通知義務違反に対する罰則が新たに設けられるとともに、通知事項を変更した場合の再通知が義務化されました。
②営業秘密である成分に係る代替化学品名等の通知(令和8年4月1日施行)
SDSについて、化学物質の成分名に企業の営業秘密情報が含まれる場合においては、有害性が相対的に低い化学物質に限り、通知事項のうち成分名について、代替化学名等での通知が認められることとなりました。なお、代替化学名等での通知を行った事業者は実際の成分名等の情報についての記録・保存が義務付けられました。
また、当該事業者は医師が診断及び治療のために成分名の開示を求めた場合は、直ちに成分名の開示を行うことが義務付けられました。
③個人ばく露測定の精度担保(令和8年10月1日施行)
危険有害な化学物質を取り扱う作業場の作業環境に関して、その場所で働く労働者が化学物質にばく露している程度を把握するために行う個人ばく露測定について、その測定精度を担保するため、個人ばく露測定を作業環境測定の一部として位置づけ、有資格者(必要な講習を受講した作業環境測定士など)が作業環境測定基準に従って行うことが義務となりました。
機械等による労働災害防止の促進等
①特定機械等の製造許可及び製造時等検査制度の見直し(令和8年4月1日施行)
危険な作業を必要とする特定機械等(ボイラー、クレーンなど)に対して義務付けられている製造許可や製造時等検査などの制度について、
・製造許可申請の審査のうち、特定機械等の設計が構造規格に適合しているかの審査について、登録を受けた民間機関が行うことが可能となりました。
・製造時等検査の対象となる機械のうち、移動式クレーン及びゴンドラについても登録を受けた民間機関が検査を行うことが可能となります。あわせて、特定機械等の製造時等検査・性能検査や、個別検定・型式検定について基準を定め、登録機関がこの基準に従って検査・検定を行わなければならないこととされました。
②特定自主検査及び技能講習の不正防止対策の強化(令和8年1月1日施行)
フォークリフトなどの一定の機械に対して義務付けられている特定自主検査について、基準を定め、登録検査業者はこの基準に従って検査を行わなければならないこととされました。
また、フォークリフトの運転業務などの業務に従事するために必要な技能講習について、不正に技能講習修了証やこれと紛らわしい書面の交付を禁止するとともに、不正を行った場合の回収命令、欠格期間の延長が規定されました。
高年齢労働者の労働災害防止の推進
高年齢労働者の労働災害の防止を図るため、高年齢労働者の特性に配慮した作業環境の改善、作業管理などの必要な措置を講ずることが事業者の努力義務となりました。施行日は、令和8年4月1日です。
また、国において、事業者による措置の適切かつ有効な実施を図るための指針を定めることとしており、事業者は、指針に基づいた取り組みを行う必要があります。
産業構造や働き方の変化によって職域で生じるリスクは変化しますが、労働安全衛生法は、時代の変化に伴って生じる新たなリスクに対応しながら発展してきた法律です。この法律はもともと労働基準法から分かれてできたという経緯がありますが、安衛法が対応を求められるリスクは複雑化しており、今回の改正によって、労基法よりも規制の対象が広くなりました。今後、労働関連法規における安衛法の位置付けがますます重要になっていくと思います。
この記事を書いたのは・・・
社会保険労務士法人エスネットワークス
特定社会保険労務士M・K
事業会社での人事労務キャリアを活かし、クライアントの労務顧問を務めている。労働法をめぐる人と組織に焦点を当てる「生きた法」の実践をモットーとし、社会保険労務士の立場からセミナーや講演を通して、企業に“予防労務”の重要性を呼び掛けている。日本産業保健法学会会員