【アウトソーシングほっとニュース】身近な労働法解説「職場における熱中症対策の強化」
熱中症とは、高温多湿な環境で発汗により体内の水分と電解質のバランスが崩れたり、血液の流れが悪くなり体温調節の機能が働かなくなったりすることで起きる問題の総称です。熱中症は、屋内・屋外ともに発生しています。
職場における熱中症による労働災害は、近年の気候変動の影響から、ここ数年増加傾向にあります。2024年の職場での熱中症死傷者数は1,257人(前年比151人増加)で、統計が残る2005年以降で最多となりました。うち死亡者は31人で、3年連続30人以上となっています。
深刻な状況が続いているなか、熱中症の重篤化を防止するため、労働安全衛生規則が改正され、事業主には職場における熱中症対策の措置が義務付けられています(2025年6月1日施行)。
事業主に義務付けられる措置
熱中症のおそれがある労働者を早期に見つけ、その状況に応じ、迅速かつ適切に対処することにより熱中症の重篤化を防止するため、以下の体制整備、手順作成、関係者への周知が事業主に義務付けられています。
(1)熱中症の自覚症状を有する作業者や熱中症が生じた疑いのある作業者を発見した者がその旨を報告するための体制を事業場ごとにあらかじめ整備しておくこと
(2)熱中症の自覚症状を有する作業者や熱中症が生じた疑いのある作業者への対応に関し、事業場の緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先並びに必要な措置の内容および手順を事業場ごとにあらかじめ作成しておくこと
(3)当該体制や手順等について作業者へ周知すること
対象となる作業は、WBGT(湿球黒球温度・暑さ指数)28度以上または気温31℃以上の環境下で、継続して1時間以上または1日当たり4時間を超えて行われることが見込まれるものです(日本生気象学会「日常生活における熱中症予防指針」では、WBGT28以上31未満を「厳重警戒」、31以上を「危険」としています)。
周知の一例として、「朝礼やミーティングでの周知」「会議室や休憩所など見やすい場所への掲示」「メールやイントラネットでの通知」などがありますが、伝達内容が複雑である場合など口頭だけでは確実に伝わらない場合を想定し、必要に応じて複数の手段を組み合わせて行います。
熱中症のおそれのある者に対する処置は、下図を参考に、現場の実情にあわせた対応フローを考えていく必要があります。
熱中症予防対策
「職場における熱中症予防基本対策要綱の策定について」(令7・5・20基発0520第7号)では、以下のような対策を挙げています。
(1)作業環境管理:①WBGT値の低減等、②休憩場所の整備等
(2)作業管理:①作業時間の短縮等、②暑熱順化(熱に慣れ当該環境に適応すること)、③水分および塩分の摂取、④服装等、⑤作業中の巡視、⑥連絡体制の整備
(3)健康管理:①健康診断結果に基づく対応等、②日常の健康管理等、③労働者の健康状態の確認、④身体の状況の確認
(4)労働衛生教育:①熱中症の症状、②熱中症の予防方法((1)〜(4)までの熱中症予防対策を含む)、③緊急時の救急処置、④熱中症の事例
(5)救急処置:①緊急連絡網の作成および周知、②救急措置
救急車を呼んだ方がいい場合
熱中症の症状によっては、応急処置よりも最優先で119番通報し、救急車を要請する必要があります。処置が遅くなると、中枢神経や肝臓、腎臓や心臓などさまざまな臓器に後遺症が生じる恐れがあります。以下のパターンに当てはまる場合は、すぐに119番通報をしましょう。
●声をかけても反応がない、反応が薄い
●ひきつけを起こしている
●返答がおかしい
●普段通りに歩けない
●熱がこもり体温が異常に高い
●意識障害や吐き気で水分補給ができない
また、上記のような症状がなくても、救急搬送すべきか判断に迷ったら、【#7119】で救急安心センター事業に連絡ししょう。
【#7119】とは、「すぐに病院に行った方がよいか」や「救急車を呼ぶべきか」悩んだりためらったりしたときに、医師や看護師といった専門家が電話を通じて症状を把握し、救急車の必要性や受診すべき医療機関などを案内してくれるものです。
ただ、【#7119】(救急安心センター事業)は、まだ全国のすべての地域で実施されているわけではありません。総務省消防庁のホームページで、【#7119】を行っているエリアを確認しておきましょう。
この記事を書いたのは・・・
社会保険労務士法人エスネットワークス
特定社会保険労務士M・K
事業会社での人事労務キャリアを活かし、クライアントの労務顧問を務めている。労働法をめぐる人と組織に焦点を当てる「生きた法」の実践をモットーとし、社会保険労務士の立場からセミナーや講演を通して、企業に“予防労務”の重要性を呼び掛けている。日本産業保健法学会会員