【アウトソーシングほっとニュース】もう「長時間労働」が理由ではない。調査が明かす、令和の退職理由トップの意外な正体

退職理由と聞いて、まず何を思い浮かべますか?
おそらく多くの人が「給料が低い」「残業が多い」といった、昔ながらの理由を挙げるのではないでしょうか。しかし、その常識はもはや通用しないかもしれません。
パーソル総合研究所が12月に発表した「離職の変化と退職代行に関する定量調査」は、私たちが抱いていた離職のイメージを覆す、驚くべきデータを提示しています。
この記事では、同調査から見えてきた、現代の働き手が本当に会社を辞める理由、そしてその背景にある構造的な問題を5つのポイントに分けて解き明かしていきます。
1. 本当の退職理由は「働きすぎ」ではなく「重すぎる成果主義」へ
働き方改革は確かに実を結びました。しかし、働く人のストレスは消えたのではなく、その発生源が「労働時間の長さ」から「成果への重圧」へと、より見えにくいものに変化したのです。
2019年の調査と最新の調査を比較すると、離職者が抱く不満の中で「サービス残業が多い」「労働時間が長い」といった項目は大幅に減少しました。特に、月に40時間以上の残業をしていた離職者の数は、この間に半減しています。
その一方で、急激に上昇したのが「求められる成果が重すぎる」(+7.0ポイント)、「受けている評価に納得できない」(+2.9ポイント)といった不満です。
これは、働く人が感じるストレスが、仕事の「量」から、成果への「圧力」や評価の「公平性」へと根本的にシフトしたことを示しています。もはや、残業を減らすだけでは、優秀な人材の流出は防げない時代になったのです。

2. 大いなる意欲低下:「成長」と「成果評価」を求めなくなった社員たち
企業の成長戦略と、社員の意識の間に、深刻なズレが生じています。
驚くべきことに、2019年と比較して、「仕事を通じて成長する」ことを重要だと考える人の割合は、55.9%から43.3%へと大幅に低下しました。それに伴い、「仕事の成果で自分を評価してほしい」という成果評価への意欲も、特に若手を中心に急落しています。20代においては、その低下幅は-15.9ポイントにも達しました。
さらに悪いことに、同時期に管理職が部下に行う「責任ある役割を任せる」「十分なフォローがある」といった「成長支援」も減少傾向にあります。
これは、企業側は高い成果を求め続ける一方で、社員はもはやそれをモチベーションにできず、管理職もまた適切な支援を行えていない、という致命的な断絶を生み出しています。このギャップが、新たな離職リスクの温床となっているのです。
3. 退職代行の意外な利用者像:無責任どころか「チーム志向で罪悪感」を抱く人々
「退職代行を使うなんて、無責任だ」というステレオタイプは、間違っています。
調査データが示す利用者の実像は、一般的なイメージとは真逆のものでした。退職代行利用者は、通常の離職者に比べて、「周りの人たちと密に力を合わせて働きたい」というチームワーク志向が際立って強く、この項目は両者のキャリア観における最大の違いとして現れました。
さらに、彼・彼女らは辞める会社に対して、より強い「申し訳なさ」や、自分を「裏切りもの」だと感じる傾向がありました。パーソル総合研究所調査レポートは、この事実を次のように指摘しています。
一般に指摘されがちな「身勝手さ」や「無責任さ」は、退職代行利用者の特質としては全くあてはまらない。退職代行利用者は、決して無責任なのではなく、むしろ周囲との協調を重んじるからこそ、追い詰められてしまう。
4. 恐怖という名のボトルネック:なぜ「良識ある」社員が退職代行を選ぶのか
ではなぜ、チームを重んじる彼・彼女らが、退職代行という手段を選ばざるを得ないのでしょうか。その理由は「直属の上司」との関係にありました。
退職代行を利用した理由のトップは、「すぐにでも退職したかったから」(42.3%)ですが、それに次ぐのが「上司への恐怖心があった」(28.8%)です。
実際に、退職代行利用者と一般離職者の間で職場への不満を比較したところ、両者の差が最も大きかった項目が「直属上司との関係」でした。利用者の実に71.2%が、この点に不満を抱えていたのです。さらに、利用者の42.3%が、直属の上司からハラスメントを受けていたと回答しています。
この構造が意味するのは、本来退職の意向を伝えるべき相手が、恐怖とストレスの源泉そのものである、という絶望的な状況です。このコミュニケーションの「ボトルネック」が、彼・彼女らを第三者の介入を求める道へと追いやっているのです。
5. 見えざる危機:社員の6割以上が、社内に「相談相手がいない」現実
この問題は、退職者に限りません。今、日本の職場全体で「人間関係の希薄化」が静かに進行しています。衝撃的なことに、現在も仕事を続けている社員でさえ、61.4%が「仕事やキャリアについて社内で相談できる相手が誰もいない」と回答しています。
調査では、社内の相談相手が多い人ほど離職意向が低く、上司や会社への満足度が高いという明確な相関関係が示されました。つまり、職場の人間関係のネットワークは、リテンションにおける生命線なのです。
この孤立は、退職代行利用者に特有の構造を生み出します。彼・彼女らは一般の離職者よりも同僚に相談する割合が低い一方で、問題の根源であるはずの「直属の上司」に相談する割合はむしろ高いのです。これは、相談窓口が恐怖の対象である上司に一本化されてしまう「袋小路」といえます。助けを求めるべき相手がストレスの原因そのものであるという恐怖のフィードバックループが、第三者による「脱出」を唯一の選択肢と感じさせてしまうのです。
まとめ
深刻な人手不足の時代、多くの企業が社員の離職という課題に頭を悩ませています。「どうすれば社員を辞めさせないか?」という問いは、経営者や人事担当者にとって永遠のテーマかもしれません。
パーソル総合研究所の調査が明らかにしたのは、離職の本質が「長時間労働」といった物理的な負荷への忍耐から、「成果圧力」「上司への恐怖」「孤立」といった心理的なプレッシャーからの逃避へと大きく変化したという事実です。
調査レポートが提言するように、これからの時代に求められるのは、社員を「人の網の目」の中で育てるという視点です。上司一人に育成やコミュニケーションの責任を負わせるのではなく、同僚や他部署との連携を含めた、多層的な人的ネットワークを意図的に構築する必要があります。手遅れになる前に、私たちはどうすれば職場の人間関係という支援の網を再構築できるのでしょうか?この問いに真摯に向き合うことこそが、これからのリテンション・マネジメントの第一歩となるはずです。
キャリアデザインの専門家である山本寛教授は、あるインタビューの中でリテンション・マネジメントを「優秀な人材に長く活躍してもらうこと」を目的とした包括的な人事戦略と定義しています。リテンション・マネジメントで重要なのは、企業の成長を牽引する優秀な人材が自ら「この会社で働き続けたい」と思えるような企業風土を醸成することです。ゴールは社員を物理的に会社に留め置く「引き留め」ではなく、社員がその能力を最大限に発揮し、いきいきと働ける環境を整える「活躍支援」にあります。
社労士法人が「リテンション・マネジメント」の支援でできる3つのこと
さいごに、社労士法人としてできるリテンションに効く3つの支援をコンパクトに紹介します。
① 働き方の見直しと制度設計の改善
フレックスタイム制・裁量労働制・テレワークの適正運用、勤務間インターバルなどの健康確保措置といった制度の設計や改定を、労働法に基づいて整然と組み立てます。「法令順守しながら柔軟に働ける」制度は、社員の安心感と定着につながる最短ルートです。
② マネジメント負荷の削減と管理職支援
人事労務の手続き・判断基準の明確化、評価制度運用のガイドライン整備、ハラスメント防止・労務リスク対応の相談体制、勤怠や労働時間管理の仕組み整理など、「管理職が迷わず動ける環境づくり」をお手伝いします。管理職の負荷が下がれば、チームのエンゲージメントは驚くほど改善します。
③ データに基づく労務リスクの可視化
勤怠データ、有休取得の状況、評価の分布、離職理由の分析などから、労務上の課題やリスクを客観的に整理し、改善すべきポイントを「見える化」します。そして、どの部署が危ないか、何がボトルネックになっているのか、どんな対策が効果的か、を経営にわかりやすく提示する「経営サポート」を提供します。
このように、リテンション・マネジメントは、制度・運用・データの3つを地道に整えることで効果を出していきます。社労士法人がこの3つを支援することで、離職率の低下だけでなく、「社員が安心して、長く、集中して働ける環境」をつくることができます。リテンション・マネジメントでお悩みの企業さまは、ぜひ弊社にご相談ください。
出所:パーソル総合研究所「離職の変化と退職代行に関する定量調査」
この記事を書いたのは・・・

社会保険労務士法人エスネットワークス
特定社会保険労務士M・K
事業会社での人事労務キャリアを活かし、クライアントの労務顧問を務めている。労働法をめぐる人と組織に焦点を当てる「生きた法」の実践をモットーとし、社会保険労務士の立場からセミナーや講演を通して、企業に“予防労務”の重要性を呼び掛けている。日本産業保健法学会会員