• トップ
  • お知らせ
  • 【アウトソーシングほっとニュース】なぜ必要?解雇をめぐる「お金での解決」制度 

【アウトソーシングほっとニュース】なぜ必要?解雇をめぐる「お金での解決」制度 





厚生労働省は11月に開催した労働政策審議会労働条件分科会で、「解雇無効時の金銭解決制度」に関する検討会を設置すると表明しました。解雇無効時の金銭解決については、2022年に当時の検討会が論点をまとめて審議しましたが、合意形成には至らず導入を見送った経緯があります。

「もし、ある日突然、会社から不当な解雇を告げられたら…?」
 多くの人にとって、これは他人事ではありません。しかし、実際にその状況に直面したとき、労働者はどのような選択肢を持ち、どう行動するのでしょうか。
 本記事では、労働政策研究・研修機構が12月17日に発表した「解雇等に関する労働者意識調査」※のデータを基に、解雇をめぐる紛争のリアルな現状をQ&A形式で読み解きます。そして、なぜ今、解雇紛争の新しい選択肢として「金銭解決制度」の導入が議論されているのか、その背景とポイントをわかりやく整理していきます。
※解雇等及び解雇等をめぐる紛争の実態、並びに解雇無効時の金銭救済制度に対する意識等について把握するため、厚生労働省労働基準局の要請に基づき、独立行政法人労働政策研究・研修機構が、解雇、雇止め経験者及び解雇等未経験者を対象に実施したアンケート調査。

1.解雇をめぐる紛争解決のリアルな現状

1.1. Q: 解雇などに納得できない場合、実際に争う人は多いのでしょうか?
A: 結論から言うと、非常に少ないのが実情です。
 調査によると、解雇などを経験した人のうち、労働審判や訴訟といった正式な紛争解決制度を「利用した」と回答した人は、ごくわずかでした。
紛争解決制度の利用者は、わずか7.6%
 つまり、100人中92人以上は、解雇に納得がいかなくても、公的な制度を使って争うという選択をしていない(あるいは、できなかった)のです。

1.2. Q: なぜ、多くの人は紛争解決制度を使わないのでしょうか?
A: 制度を利用しない理由は一つではなく、知識、覚悟、精神的な負担など、様々な壁があることがデータから見えてきます。主な理由は以下の通りです。
●制度をよく知らなかった (44.9%)
 約半数の人が、そもそもどのような解決手段があるのかを知りませんでした。これは、いざという時 に頼れるはずの選択肢が、多くの人に届いていないという情報格差の存在を示唆しています。
●解雇等はやむを得ないと思った (29.6%)
 約3割の人が、状況を受け入れるしかないと諦めてしまっています。「会社が言うことだから仕方ない」と、争う前から気持ちが折れてしまっているケースが少なくないようです。
●争うこと自体が精神的に苦痛 (15.7%)
 会社と争うという行為は、大きな精神的ストレスを伴います。この負担が、行動を起こすことをためらわせる大きな要因となっています。

1.3. Q: では、制度を使わなかった人は、どうしたのでしょうか?
A: ほとんどの人は何もせずに、その状況を受け入れています。
 制度を利用しなかった人に、その後どう対応したかを尋ねたところ、最も多かった回答は「特段の対応はとらず、解雇等を受け入れた」でした。
66.1%が、「特段の対応はとらず、解雇等を受け入れた」
 これは、多くの人がいわゆる「泣き寝入り」を選択せざるを得ない状況を示唆しています。次に多かったのは「身近な人に相談した」(21.5%)ですが、これはあくまで相談にとどまり、具体的な解決に向けた行動にはつながっていないケースが多いと考えられます。
 このように、データが示すのは、ほとんどの労働者にとって、解雇紛争を法的に解決するという道は、存在しないも同然であるという厳しい現実です。

 多くの人が泣き寝入りしてしまうのが現状ですが、では、勇気を出して争った場合、どのような結果が待っているのでしょうか。

 2.「解雇無効」という結果の先にある、もう一つの壁

 2.1. Q: そもそも、今の制度で解雇が無効だと認められたら、どうなるのですか?
A: 現在の日本の法律では、裁判などで解雇が無効と判断された場合、「労働契約は続いている」とみなされるのが原則です。 
 つまり、労働者は元の職場に戻る権利があり、これを「復職」といいます。原則として、金銭支払いだけで関係を終わらせるのではなく、雇用を元に戻すことが基本の考え方です。

2.2. Q: 職場に戻れるなら、それで問題解決ですよね?
A: 実は、そう簡単ではありません。調査データは、法的に勝ったとしても、現実には厳しい壁が待ち受けていることを示しています。
 和解や判決によって復職の権利を勝ち取った人々に尋ねたところ、衝撃的な結果が出ました。
復職の権利を得た人のうち、約半数 (48.6%)が「復職に至らなかった経験がある」と回答しました。
 では、なぜ職場に戻らなかったのでしょうか。その理由は、法的な権利だけでは解決できない、人間関係や将来への不安が根強く存在することを示しています。
●人間関係への懸念 (38.9%)
 一度会社と争った後で、以前と同じように同僚や上司と良好な関係を築くのは難しいと感じる人が多くいます。気まずさや孤立への不安が、復職をためらわせる大きな原因です。
●再び解雇される懸念 (16.7%)
 「一度は戻れても、また別の理由をつけて解雇されるのではないか」という不安もあるようです。会社からの報復や、居心地の悪い状況に置かれることへの恐怖が、復職を現実的な選択肢でなくしてしまいます。

 この結果は、法的な「正解」が、必ずしも労働者の「救済」にはなっていないという、制度と現実の深刻な乖離を浮き彫りにしています。
 職場に戻ることが必ずしもゴールではないという現実から、新しい解決策の必要性が議論されています。それが「金銭解決制度」です

3.新しい選択肢としての「金銭解決制度」

3.1. Q: 「金銭を受け取ることで労働契約を終了させる制度」とは、具体的にどのようなものですか?
A: これは、不当解雇などを争った結果、解雇が無効だと判断された場合に、労働者側が選べる新しい選択肢として提案されている制度です。
 具体的には、原則である「復職」に代えて、労働者自身の希望によって、会社から金銭(解決金)を受け取ることで労働契約を正式に終了させる、という選択肢を法的に認めるものです。重要なのは、あくまで「労働者の請求により」という点で、会社側が一方的にお金で解決できる制度ではない、という点が議論のポイントです。

3.2. Q: なぜ、この新しい制度が必要だと考えられているのでしょうか?
A: この制度の創設に賛成する意見は、労働者にとって、より現実的で柔軟な解決策を提供できるという期待に基づいています。調査では、以下のような理由が挙げられています。
●解決金の相場ができることへの期待 (解雇等経験者:69.8%、その他の者:71.2%)
 制度ができることで、解決金の算定ルールや相場が明確になるのではないか、という期待が最も大きい理由です。相場が社会的に認知されれば、企業側が不当に低い金額で解決を図ろうとすることを抑制する効果も期待されます。
●金銭を請求する選択肢が増える (解雇等経験者:59.2%、その他の者:60.4%)
 これが制度の核心です。前述の通り、復職が現実的でない場合でも、「泣き寝入り」や「不利な条件での和解」ではなく、「正当な金銭補償を得て退職する」という公式な選択肢を労働者が持てるようになります。

3.3. Q: 逆に、この制度に対する懸念や慎重な意見はないのでしょうか?
A: はい。特に、まだ解雇などを経験していない人々からは、制度の導入に慎重な意見が挙がっています。調査では、解雇未経験者のうち、この制度を「あまり必要ではない」「必要ではない」と考える人々が、主に以下の懸念を示しています。
●本来は復職で解決すべき (解雇等経験者:23.8%、その他の者:38.7%)
 「違法な解雇であれば、雇用を元に戻すのが筋であり、お金で解決するのは本来あるべき姿ではない」という原則論です。労働者の地位を守るという観点から、復職の原則を軽視すべきではないという意見です。
●安易な解雇が増える懸念 (解雇等経験者:29.1%、その他の者:28.6%)
 「いざとなればお金を払えば解雇できる」という考えが企業側に広がり、かえって安易な解雇(いわゆる「解雇の買い叩き」)を助長してしまうのではないか、という強い懸念です。

まとめ:法的な権利と、働く現場の現実の「ギャップ」をどう埋めるか

 今回の調査データは、現在の解雇紛争解決の仕組みが、多くの労働者にとって敷居が高く、利用されていない実態を明らかにしました。さらに、たとえ制度を利用して紛争に勝利したとしても、人間関係の悪化などを懸念して職場復帰を断念するケースが半数近くにのぼるという現実は、法的な正しさだけでは解決できない問題の根深さを示しています。
 「金銭解決制度」をめぐる議論は、まさにこの「法的な権利」と「労働者が直面する厳しい現実」とのギャップをどう埋めるかという問いに他なりません。
 労働者に新たな「選択肢」を与えるメリットと、企業による「安易な解雇」を招きかねないリスク。この両者を天秤にかけながら、誰もが納得できる、より実効性のあるルール作りが求められています。


この記事を書いたのは・・・

社会保険労務士法人エスネットワークス
特定社会保険労務士M・K

事業会社での人事労務キャリアを活かし、クライアントの労務顧問を務めている。労働法をめぐる人と組織に焦点を当てる「生きた法」の実践をモットーとし、社会保険労務士の立場からセミナーや講演を通して、企業に“予防労務”の重要性を呼び掛けている。日本産業保健法学会会員







サービスに関するお悩み、
ご相談やお見積り依頼等のお問い合わせはこちらから

※企業様からのお問い合わせを受け付けております。

電話アイコン

お電話でのお問い合わせ

03-6826-6333

平日9:00 - 17:30

ページトップへ戻る