【アウトソーシングほっとニュース】身近な労働法解説「事務所衛生基準(作業面の照度)」
企業には、労働者の安全や健康に配慮し、働きやすい環境を整備する責任があります。
労働者の安全衛生について定めた労働安全衛生法には、いわゆるオフィスの衛生に関する規定をまとめた「事務所衛生基準規則」という法令が紐づいています。事務所衛生基準規則では、事務所その他の作業場における労働者の清潔保持等のために事業者が講ずべき措置等について定めています。
一般的に事務所は、工場などの作業場と比べた場合、有害物や危険物の取り扱い、危険の生じやすい場所はほとんどないといえますが、企業には、労働災害を防止するだけでなく、快適な職場環境の確保も求められています。したがって、事務所の衛生は一定の水準で確保しなければなりません。
事務所衛生基準規則では、「事務室の環境管理」に関して、第10条で作業面の照度基準を定めています。
作業面の照度等
第10条1項では「事業者は、室の作業面の照度を、次の表の上欄に掲げる作業の区分に応じて、同表の下欄に掲げる基準に適合させなければならない」とし、下記の表を定めています。
そして同条2項では、「事業者は、室の採光及び照明については、明暗の対照が著しくなく、かつ、まぶしさを生じさせない方法によらなければならない」とし、さらに同条3項で、室の照明設備について6月以内ごとに1回の定期点検を義務付けています。
条文解説
事務所衛生基準規則は、労働安全衛生法に基づき定められた、事務所の衛生基準を定めた厚生労働省令です。
事務所とは、「建築基準法第2条第1号に掲げる建築物又はその一部で、事務作業(タイプライターその他の事務用機器を使用して行う作業を含む。)に従事する労働者が主として使用するもの」としています(第1条1項)。なお、「工場現場の一部において、ついたて等を設けて事務作業を行っているものは、本規則による事務所に該当しないこと」と解釈されています(昭46・8・23基発597号)。
作業面の照度とは、机の上などの面に達している光の度合いのことを指します。オフィス全体の明るさのことではありません。「ルクス」(lx)とは、その場所(面)に到達している光の量(照度)の単位で、この数値が高いほど明るい状態であることを示しています。
一般的な事務作業とは、例えば、製図作業や文字を読むなどの一般の事務作業で、付随的な事務作業に該当しないものです。また、付随的な事務作業とは、例えば、資料の袋詰め等、事務作業のうち、文字を読み込んだり資料を細かく識別したりする必要のないものが該当します。
照度の定めは、照度不足の際に生じる眼精疲労や、文字を読むために不適切な姿勢を続けることによる上肢障害等の健康障害を防止する観点から、全ての事務所に対して適用されます。
その他
パソコン等の情報機器を使用して行う作業における労働衛生管理については、平成14年に策定された「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(平成14年4月5日付け基発第0405001号)によってきましたが、その後の技術革新により情報機器は目まぐるしい変化を遂げ、職場のIT化はますます進行し、労働者の作業形態もより広く多様化しています。そのような状況を踏まえ、厚生労働省は令和元年7月に、あらたに「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(令和元年7月12日付け基発0712第3号、令和3年12月1日一部改正)をまとめました。
このガイドラインは、パソコンなど情報機器を使って作業を行う労働者の健康を守るためのものです。情報機器作業による労働者の心身の負担を軽くし、支障なく働けるようにするため、事業者が講ずべき措置をまとめています。情報機器作業における書類およびキーボード面における照度は300ルクス以上としています。
また、自宅等でテレワークを行う際にも留意が必要です。机上の照度は300ルクス以上が目安とされていますので、机の明るさを確保するためにデスクライトを導入するのもひとつの手かもしれません。
令和3年3月に改定された「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」においては、「テレワークを行う作業場が、労働者の自宅等事業者が業務のために提供している作業場以外である場合には、事務所衛生基準規則(昭和47 年労働省令第43 号)、労働安全衛生規則(一部、労働者を就業させる建設物その他の作業場に係る規定)及び「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(令和元年7月12 日基発0712 第3号)は一般には適用されないが、安全衛生に配慮したテレワークが実施されるよう、これらの衛生基準と同等の作業環境となるよう、事業者はテレワークを行う労働者に教育・助言等を行い、『自宅等においてテレワークを行う際の作業環境を確認するためのチェックリスト(労働者用)』を活用すること等により、自宅等の作業環境に関する状況の報告を求めるとともに、必要な場合には、労使が協力して改善を図る又は自宅以外の場所(サテライトオフィス等)の活用を検討することが重要である。」とされています。
この記事を書いたのは・・・
社会保険労務士法人エスネットワークス
特定社会保険労務士M・K
事業会社での人事労務キャリアを活かし、クライアントの労務顧問を務めている。労働法をめぐる人と組織に焦点を当てる「生きた法」の実践をモットーとし、社会保険労務士の立場からセミナーや講演を通して、企業に“予防労務”の重要性を呼び掛けている。日本産業保健法学会会員