【アウトソーシングほっとニュース】「 カスタマーハラスメント」および「就活セクハラ」防止対策が事業主の義務に

― 施行は公布後1年6か月以内、2026年10月予定 ―
近年、職場におけるハラスメントは従業員の健康や職場環境に深刻な影響を与える社会課題となっています。従来のパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントに加え、顧客等からの不当な言動によるカスタマーハラスメント(カスハラ)や、就職活動中の求職者に対するセクシュアルハラスメント(就活セクハラ)が社会問題として顕在化しています。このような背景を受け、2025年6月に改正された法律により、これらに対する防止措置が事業主の法的な義務となりました。本号では、今回厚生労働省が公表したそれぞれの指針案中から重要と思われるポイントをわかりやすく解説いたします。
「カスハラ対策」、5つの重要ポイント
サービス業や小売業をはじめ、多くの職場で深刻化するカスハラ。理不尽な要求や暴言は、働く人々の心身に大きなストレスを与え、社会問題となっています。これまで企業ごとの対応に任されてきたこの問題に対し、ついに国が法的な措置に乗り出しました。
厚生労働省は、「職場におけるカスタマーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針(案)」を11月に公表しました。
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1. 「カスハラ」の対象範囲は、想像以上に広い
まず注目すべきは、「カスハラ」の対象範囲の広さです。私たちが普段「職場」や「顧客」と考える範囲を大きく超えており、より多くの働く人が保護されることになります。
指針案では、以下の3つの定義が明確に示されています。
* 「職場」の対象範囲: 会社のオフィスや店舗だけではありません。業務を遂行する場所すべてが「職場」に含まれます。具体的には、「取引先の事務所、取引先と打合せをするための飲食店、顧客の自宅等」も該当します。訪問先でのトラブルも、会社の保護対象となるのです。
* 「労働者」の対象範囲: 正社員だけが守られるわけではありません。「パートタイム労働者、契約社員等いわゆる非正規雇用労働者」や「派遣労働者」も明確に対象に含まれます。雇用形態に関わらず、すべての働く人が保護の対象となります。
* 「顧客等」の対象範囲: ハラスメントの加害者となりうる「顧客等」の対象も非常に広範です。実際に商品を買った客だけでなく、「潜在的な顧客」や「取引する可能性のある者」、さらには「施設の利用者及びその家族」「施設の近隣住民」までもが含まれます。
これにより、これまで「会社の外での出来事」「派遣先の問題」として見過ごされがちだったケースにも、事業主の保護義務が及ぶことが明確になりました。
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2. 正当なクレームは「カスハラ」ではない。知っておくべき境界線
「カスハラ対策が厳しくなると、正当な意見も言えなくなるのでは?」と心配する声もあるかもしれません。しかし、今回の指針案ではその点も明確に区別して、次のように記されています。
「客観的にみて、社会通念上許容される範囲で行われたものは、いわば正当な申入れであり、職場におけるカスタマーハラスメントには当たらない。」
つまり、カスハラとはあくまで「社会通念上許容される範囲を超えたもの」と定義されており、商品やサービスに対する妥当なクレームや意見を封じるものではありません。具体的には、以下のような言動がカスハラとして挙げられています。
* 精神的な攻撃: 人格を否定するような暴言、土下座の強要など
* 継続的・執拗な言動: 同じ内容のクレームを執拗に繰り返す、長時間にわたり電話で拘束するなど
* 威圧的な言動: 大声を出して威圧する、SNSへの悪評投稿をほのめかすなど
さらに注目すべきは、障害のある人からの申し出に関する記述です。社会的障壁の除去(バリアフリー化など)や合理的配慮を求めることは、ハラスメントには当たらないと明記されています。
これは、このルールが一方的に顧客を罰するものではなく、公正で配慮の行き届いたものであることを示しています。
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3. 企業の「義務」が明確に。従業員を守る3つの必須措置
今回の法制化が持つ最大の意味は、従業員保護を企業の「努力目標」から、法的拘束力のある「絶対的な義務」へと変えた点にあります。
指針案では、事業主は対策を「講じなければならない」と明記しており、以下の3つの措置を必ず実施する必要があります。
①方針の明確化と周知・啓発: 企業は、カスハラに対して「毅然とした態度」で対応し、従業員を守るという方針を明確に定めなければなりません。そして、その方針を従業員に周知するだけでなく、顧客など社外にも示すことが、被害防止に効果的であるとされています。ポスターの掲示やウェブサイトでの公表に加え、経営トップがメッセージとして明確に方針を発信することも有効な手段として挙げられています。
② 相談対応の体制整備: 従業員が安心して相談できる「相談窓口」を設置することが義務付けられます。設置が義務付けられる相談窓口は、単なる受付ではありません。指針案では窓口に「カスハラの発生のおそれがある場合」や、「カスハラに該当するか否か微妙な場合」であっても、広く相談に対応することを求めています。この事は、問題が深刻化する前に企業が介入し、従業員を守るという積極的な姿勢を義務化するためです。
③事後の迅速かつ適切な対応:従業員から相談があった場合、迅速に事実関係を確認し、適切な対応を取る義務を負います。具体的には、被害を受けた従業員の担当を変更したり、メンタルヘルス不調への相談対応を行ったりするなどのケア措置や、再発防止に向けた具体的な措置を講じることが求められます。
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4. 相談しても不利益はない。法律が守る「報告する権利」
「上司に相談したら、面倒なやつだと思われて評価を下げられるかもしれない…」そんな不安から、被害を報告できずにいる人は少なくありません。
指針案では、労働者がカスハラについて社内の窓口に相談したり、事実関係の調査に協力したり、あるいは都道府県労働局に相談したことを理由に、事業主がその労働者を「解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定めなければならない」と規定しています。
つまり、カスハラを報告したことで解雇されたり、降格されたり、不当な異動を命じられたりすることは法律で明確に禁止されるのです。
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5. 悪質なケースには「出禁」や「警察通報」も。
従業員の安全を脅かすような悪質なハラスメントに対して、企業はより強い態度で臨むことが求められます。指針案は、「特に悪質と考えられるもの」への対処方針をあらかじめ定めるだけでなく、その方針を実行するための関係部署間の連携など、具体的な「体制を整備すること」までを企業に義務付けています。
その具体的な対抗策の例として、以下のようなものが挙げられています。
* 暴行、傷害、脅迫などの犯罪に該当し得る言動については、警察へ通報すること
* 行為者に対して警告文を発出すること
* 商品の販売、サービスの提供等をしないこと(法令の範囲内で)
* 行為者に対して店舗及び施設等への出入りを禁止すること
これらの措置は、これまで現場の判断で恐る恐る行われてきたかもしれませんが、今後は企業の公式な対応策として位置づけられます。これは、「お客様は神様」という古い考え方から脱却し、企業が従業員の安全を最優先に考え、断固たる措置を取ることを国が後押しすることを示す、非常に重要な一歩と言えます。
出典元:厚生労働省(職場におけるカスタマーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針 の素案)
「就活セクハラ」、企業が今すぐ備えるべき5つのポイント
現在、採用活動において、候補者との接点は OB/OG訪問やSNSでのやり取りなど多様化しています。しかし、その一方で「どこからが不適切な言動なのか」という線引きは曖昧で、企業にとっては見えにくいリスクとなっていました。
厚生労働省は同11月に、「求職活動等におけるセクシュアルハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関 する指針」を公表しました。この新ルールがもたらす変化の中でも、特に企業に大きな影響を与え、かつ見落としがちなポイントを5つに絞って、わかりやすく解説します。
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1. 会社の「責任範囲」が採用候補者にまで拡大する
最も根本的な変化は、企業の「責任範囲」の拡大です。新しい指針は、事業主に対し、自社が雇用する労働者が求職者等に対して行うセクシュアルハラスメントを防止するための措置を講じることを法的に義務付けています。
これまで、ハラスメント対策は主に社内の従業員間での問題と捉えられがちでした。しかし、今後は採用選考の段階にいる個人、つまりまだ従業員ではない「求職者」も、企業の保護・配慮の対象となります。
これは、改正男女雇用機会均等法に基づく法的義務であり、単なる倫理的な推奨ではありません。採用プロセスにおける企業と候補者の間にある明確な力関係、つまり候補者がキャリアを左右する立場の相手に対して不適切な言動を拒絶しにくいという構造的な問題を国が正式に認めたことを意味します。これは加害者個人の問題としてだけでなく、組織全体の責任として対策を求めるという点で、非常に大きな一歩と言えます。
この指針の目的は、求職者等の求職活動等が、事業主が雇用する労働者による性的な言動によって阻害されることのないよう、適切な雇用管理上の措置を事業主に講じさせることにあります。
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2. 対象となる「就活」は、面接や社内だけではない
新ルールが対象とする「求職活動等」の範囲は、多くの人が想像するよりもはるかに広範です。指針案では、具体的に以下のような活動が含まれると明記されています。
* 企業の採用面接への参加
* 企業の就職説明会への参加
* 企業の雇用する労働者への訪問(OB/OG訪問など)
* インターンシップへの参加
* 教育実習、看護実習等の実習の受講
さらに驚くべきは、以下の2つの点が明確に規定されていることです。
1. SNS等のオンラインを介したやり取りも対象に含まれる。
2. ハラスメントが発生する場所は、会社が通常就業している場所に限定されない。
これは、リクルーターとのSNSでのダイレクトメッセージや、社外の飲食店で行われた面談なども、すべて企業の管理責任が及ぶことを意味します。この幅広い定義は、現代の多様な採用活動の実態を反映しており、企業がこれまで「グレーゾーン」と見なしてきた非公式な接点でのリスク管理も必須となることを示しています。
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3. 「就活生専用の相談窓口」の設置と周知が義務に
企業は、求職者からのハラスメントに関する相談や苦情に対応するための正式な体制を整備しなければなりません。具体的には、以下の措置が求められます。
* 専用の相談窓口を設置する: 担当者を定めたり、専門部署を設けたり、あるいは外部の第三者機関に対応を委託することも可能です。
* 求職者に対して窓口の存在を積極的に周知する: 採用サイトやパンフレットなどに、相談窓口の連絡先を明記し、候補者がいつでもアクセスできるようにしておく必要があります。
* 柔軟な対応体制を整える: 窓口は、明確なハラスメント事案だけでなく、「セクシュアルハラスメントに該当するか否か微妙な場合」や、「発生のおそれがある場合」といった曖昧なケースにも広く対応することが求められます。
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4. 加害社員への「厳正な対処」を就業規則に明記する必要がある
指針案では、ハラスメントの発生を未然に防ぐための抑止力として、社内規程の整備を強く求めています。企業は、求職者へのセクハラ行為に対する方針と、加害者への具体的な処分内容を明確に定めなければなりません。
具体的に求められるアクションは以下の通りです。
* 方針の明確化:求職者等に対するセクシュアルハラスメントは許さないという方針を明確にする。
* 対処方針の規定:就業規則やその他服務規律を定めた文書に、加害者に対する懲戒処分などの具体的な対処内容を明記する。
* 労働者への周知・啓発:研修や社内報などを通じて、管理監督者を含む全従業員に上記の方針と規程を徹底的に知らせる。
「もし問題を起こせば、会社として厳正に処分する」という明確なメッセージを社内に打ち出すことが、従業員の行動に規律をもたらし、ハラスメントの強力な抑止力となるのです。
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5. プライバシー保護と「報復禁止」の徹底もセットで求められる
効果的なハラスメント対策には、相談しやすい環境づくりが不可欠です。そのため、指針案は主要な措置とあわせて、以下の2つの重要な措置を講じることを義務付けています。
第1に、プライバシーの保護です。相談者と行為者とされる双方のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その方針を従業員と求職者の両方に周知しなければなりません。具体的には、相談窓口の担当者向けに対応マニュアルを作成するなどの対策が有効です。
第2に、報復(不利益な取扱い)の禁止です。ハラスメントの調査に協力した(例:証言した)従業員が、そのことを理由に解雇されたり、その他いかなる不利益な扱いも受けたりしないことを保証し、その旨を規程に定めて全従業員に周知する必要があります。
この2つの措置は、関係者が安心して声を上げ、調査に協力できる環境を担保するための「両輪」です。これらがなければ、せっかく設けた相談窓口も形骸化してしまいます。
出典元:厚生労働省(求職活動等におけるセクシュアルハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関 する指針の素案)
さいご
今回示された二つの指針(案)は、これまで「対応が難しい」「線引きがあいまい」とされてきた分野について、事業主に求められる姿勢と具体的な対応の方向性を明確にするものです。
顧客等によるハラスメントや、採用・求職活動の場における性的な言動は、放置すれば労働者や求職者の尊厳を損ない、企業の信頼や持続的な人材確保にも大きな影響を及ぼします。
重要なのは、問題が発生してからの個別対応だけでなく、あらかじめ方針を定め、社内外に周知し、相談・対応体制を整えておくことです。これは労働者を守るためだけでなく、現場で対応にあたる管理職や担当者を守ることにもつながります。
今後、指針が正式に示されれば、企業にはより実効性のある対応が求められることになります。自社の就業規則、ハラスメント防止規程、採用活動の運用ルールなどを改めて点検し、必要な見直しを進めることが、リスク管理の観点からも重要です。
この記事を書いたのは・・・

社会保険労務士法人エスネットワークス 社会保険労務士 T.Y レストランでの接客から人事労務の世界へ転身しました。難しくなりがちな労務の話も身近に感じてもらえるようにお届けしていきます。